【挿話】デート大作戦(1)
「あのさ……この後一緒に星、見に行かない……?」
「ごめん、このあとティーナと約束があるんだ! また別の日でも良い?」
ぱしっと両手を合わせて謝罪するルーナに、エミルは石のように固まった。
「……あ、あっ、そうなんだ。……なんかごめん」
「せっかく誘ってくれたのに、こちらこそごめんね!」
星降祭の最終日、男の意地を掛けて行われた大勝負は見事に失敗に終わった。爆散である。星空の下、せっかくロマンチックに過ごせる場所を見繕っていたのにも関わらず、それが活かされることはもうない。
がくりと分かりやすく項垂れるエミルだったが、その肩をルカがバシッと叩く。
「おい、気にしすぎだ」
「……そう、だよね」
ふにゃふにゃになって、自信がなさそうな声で返事をするエミルに、ルカは呆れたようにため息をついた。
「別に全部駄目になったわけじゃないだろ。明日でも明後日でも、いくらでも都合の良い日はあるって」
「そ、そうかなぁ……」
「ほら、頑張れよ。行って来い」
背中を強く押され、思わずよろけそうになるエミル。
そんな2人のやり取りを見て、ルーナは不思議そうに首を傾げる。
「何の話をしてたの?」
「いや、なんでもない。それよりエミルから話があるんだってさ」
「……あのさ!」
ルカがすっとぼけた顔で話を水に流すと、エミルがここぞとばかりに切り出す。見事な連携プレーである。
「今日が駄目なら明日はどうかな……?」
素晴らしい代替案に、期待を抱く2人だったが、
「ごめん! 明日はセレスと約束があるんだよね!」
「じゃあ明後日は……」
「明後日は、任務のお手伝いなんだ」
「それなら、明々後日は……」
「その日もちょっと厳しくて……隊長さんとお出かけするんだよね」
……すべて、ことごとく、断られてしまった。
何かしらの理由をつけて断っているのではなく、本当に用事で埋まっているだけなのだ。どうやら、思いの外ルーナは多忙のようだ。
でもエミルは、なんだか遠回しに断られたような気がして――もちろん頭でそうでないことは分かっていつつも、どうにもそうは思えなくて、エミルは再びショックを受けた。先ほどよりも更に深く項垂れるエミル。
「えっ、私とそんなに遊びたいの!?」
ルーナの一言は単純な疑問によるものだったが、これは無自覚にもエミルにトドメを刺すこととなった。
ぐはぁ、と変な声を吐いて撃沈するエミルに、ルーナは首を傾げた。
「おいルーナ、からかってやるな」
その状況を見かねたルカが、ついに間に割って入る。
彼はルーナに対して小さな声で耳打ちをし、暗にそれが「お誘い」であることを説明した。
「私はからかってなんか――」
「コイツ、
「シシュンキ……思春期って、あっ」
そのお陰で、エミルの意図をようやく理解したルーナ。
一応ルーナは、精神年齢的には高校生だ。恋愛経験は自慢できるほど多くはないが、もちろんゼロではない。彼氏だっていた事がある。
……つまるところ、この状況においてルーナは”先輩”なのである。
「ふ~ん」
だからこそ、エミルのことを微笑ましく思うのは当然の流れだろう。
自分よりも年下の男の子――少なくともルーナ自身はそう思っている――が、自分に対して好意を向けてきている。それ自体は別に悪く感じることはなくて、むしろルーナは嬉しさすらも感じていた。
ルーナはそんな無邪気な笑みを浮かべながら彼の方を見つめたが――ルカとのひそひそ話、そしてその後の意味深な笑顔。彼はそれを悪いように捉えたようで、
「~~~っ!!!」
言葉にもなっていない言葉を発しながら、エミルは悶えるように走り出してしまった。なにか誤解があったことは間違いないが、ルーナはそれすらもなんだか微笑ましく感じてしまった。
とはいえ、エミルとは友達なのだ。誤解を誤解のままで置いておくのはよろしくない。だからルーナは、ふぅと一呼吸を置くと、エミルの背中に向けて声を掛けた。
「待って!」
「………………」
エミルはその場でぱっと足を止めた。
ルーナはそんな彼に対して、からっとした笑顔で言った。
「やっぱり明日、大丈夫だよ」
「ほ、本当――!?」
振り向いたエミルの顔は、先ほどとは違う、晴れ晴れとしたものであった。
◇
「なぁ、お前は何をしているんだ……?」
「偵察」
セレスは、深々とローブを被り、物陰に隠れていた。いかにも怪しい出で立ち――その視線の先には、今まさに合流したばかりのルーナとエミルの姿があった。
こんなにも寒い日だというのに、しっかりをおめかしをしたルーナ。エミルはそんな彼女に少し見惚れているようでもあった。
そんな2人を不審者の如く偵察するセレスに対して、ライルは思わずツッコんだ。
「だからその変装なのね」
「いやいや、おかしいだろ」
アイラがうんうんと納得するが、よくよく考えれば騎士は2人いる時点で目立って仕方がない。騎士の2人も同じように変装をしなければ、全く意味がないのだ。
というか、なんならもう普通にバレてしまっていて、ルーナは不思議そうにこちらを見つめていたのだが――セレスはまだそのことに気がついていないのかもしれない。
「どうして探偵の真似事を?」
「ルーナとお菓子作り、今日、約束してた」
「それをすっぽかしてデートって訳か」
「そう……ずるい」
セレスは哀愁を漂わせながら呟いた。
どうやらセレスは今日、本当はルーナとお菓子作りをするつもりだったというのだ。別にルーナの方も約束を反故にしたわけでなく、きちんとセレスに謝罪して予定を延期してもらったのだが……とはいえ、自分よりも優先される予定があるということが気に食わないのも事実。
あまりにもその表情が悲壮だったため、2人はセレスの肩に手をかけて同情した。
「ルーナ……罪な女ね」
「可哀想な奴だな。今日一日、俺達がお前に協力してやるよ」
どちらにせよ護衛ではあるので、ルーナに付いていくことに変わりないのだが、2人はセレスに協力してあげることにした。
ルーナがどんなデートをしているのか、単純に気になるというのが本音ではあるが。
「だから、見合う相手かどうか、調べる」
セレスはセレスで、別にルーナのことを邪魔したいとは思ってはいない。だが、彼女に悪い虫が付いてほしくないとも思っている。
だからこそ、エミルがそれに相応しい男かどうか、見極めてやろうじゃないかという腹づもりなのだ。
一応セレスは既婚者だ。人を見る目は……無くはないだろう。
「動いたぞ!」
「行きましょう」
もはやセレスよりもノリノリの騎士たちは、物陰に隠れながら追跡をはじめる。セレスには、既にこの追跡がバレていることは言わないでおいた。
エミルのデート大作戦と、騎士2人・セレスによる偵察作戦が同時に幕を開けるのだった。
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