79.赤竜
「なにっ!?」
激しい爆風と水しぶきに巻き込まれたが――気づけば私はアイラに抱えられていた。……ありがとう、助かった。
見るも無惨な姿になった完成間近のお城を見送りつつ、私はアイラに抱っこされながら周囲をぐるりと見渡した。
「る、ルーナ、”エストラーダの赤竜”よ……」
アイラが空を見上げながら、恐る恐る呟く。
私もその視線の先を追うと……そこには、頭上を旋回する大きな影があった。
横に大きく広がる翼と、その燃えるような赤いウロコ。これこそが、現在進行系で街を襲っているドラゴン――「エストラーダの赤竜」だった。
「とりあえず室内に逃げるから!」
「分かった」
アイラは私をぎゅっと抱えながら、建物のある方へと走っていく。
さっきの爆発は、どうやら赤竜の吐いたブレスだったようだ。私たちのいる場所から少し離れた海面に着弾し、誰にも怪我はなかったけれど。
外れたか、それともわざと外したのか。どちらにせよ、まだ被害は出ていない。
「大丈夫か、ルーナ?」
「うん、私はへーき」
「俺達が守ってやるからな」
すこし離れたところにいたライルが合流して、私の髪をぐしゃぐしゃと撫でながら駆ける。私はその感触に目を細めるが、ライルはその動きのままアイラに向けて声を掛ける。
「アイラ、ビビってる場合じゃないぞ」
「はぁ? そっちこそ、私が撫でて落ち着かせてあげようか?」
「ならもっと、顔に感情を出さないようにするべきだな」
ライルの煽るような言葉に、負け時とアイラも反論する。
なんだかいつもの言い合いというか、軽口が始まって、私はくすりと笑ってしまった。
なんだかんだいって、騎士たちは焦ることなく、あくまで冷静に事態に対応しようとしているとうだ。速まっていた私の心臓の鼓動も、その姿を見れば少し落ち着いたような気がする。
「逃げろ!!」
だが、どこかから上がる騎士の声に、思わず私もぴくりと体を震わせる。
ただただ回転するように空中を飛ぶだけだった赤竜が、突如、その軌道を変えたのだ。
訓練場までたどり着き、もう少しで屋内かというところ。赤竜は、私たちの頭上スレスレまで高度を落とした。風を切る音がすぐそこで聞こえ、その駆体で辺りが一瞬暗くなる。
「マジかよ……」
私たち集団の正面に、なんと赤竜が着地した。進路を塞ぐような形で対峙する赤竜は、とても大きく見えた。
これは……やばいね。
さすがの騎士たちにも動揺が広がり、私とアイラは顔をじっと見合わせた。
正対して改めてみるドラゴンは、やっぱりデカい。とてもじゃないけど……勝てるイメージが浮かばない。
これは絶体絶命か――そう思った瞬間、目の前に大きな人影が現れた。
「たいちょーさん!!」
隊長さんが赤竜の前に立ちふさがったのだ。その手には銀色に光り輝く剣が。
無謀にも思えたけど、不思議と「隊長さんならやってくれそう」という信頼感があった。
少しの睨み合いが発生したが、先に仕掛けたのは赤竜だった。
鋭い爪を一薙ぎ。風をきる高い音が聞こえたが、隊長さんは軽く重心をずらして、最小限の動きだけで回避。
返ってきた二回目の攻撃も、剣の腹で受け止めて回避した。
「すごっ……」
そんな応酬がしばらく続き、私は思わずその素早い身のこなしに見入ってしまう。
隊長さんの剣技は初めて見たけど、速すぎて私には見えない。繰り返し襲いかかる赤竜の攻撃を、軽くいなしつつ、攻撃を与えようと剣を振るっていた。
だがそんな隊長さんをもってしても、ドラゴン相手は厳しいようだ。お互い攻撃を与えられない膠着した状態が続く。体格差を考えれば、凌げているだけでも凄いのだ。
だがこれも、隊長さんにとっては織り込み済みのよう。この時間稼ぎが功を奏したのか、気づけば赤竜の周囲を魔道士たちが包囲していた。
掛け声とともに魔法の玉が飛び出し、赤竜に襲いかかる。それらはすべて赤竜のウロコに命中し、被害を与えている……かのように思えた。
だけど、
「さすがに硬いな……」
隊長さんが苦々しく吐き捨てる。
赤竜は少し苦しむような素振りを見せていたが、軽くその体表を焦がしただけで、ウロコより内側に攻撃が到達することはなかった。
再び魔道士たちが攻撃しようとしたとき、ふと私はあることに気がつく。
「魔力が……集まってる」
赤竜の口元に、たくさん魔力が集中していることに気がついた。
この状態は……私には見覚えがあった。
「ま、ずいかも」
これはブレスの予備動作。さっきの威力を見れば、絶大な威力であることは明らかだった。
そんな赤竜は……って、なんでこっち向いてるの!?
赤竜は何故か、私とアイラとセレスをロックオンしていた。完全に目が合い、私は思わず息を呑む。
まって、なんで!? 私たち何もしてないよね!?
非情にも、赤竜の口の中の魔力がいっぱいになることが感じ取れた。あとは発射するだけ。さっきの爆発を見れば、その威力が凄まじいことは簡単に想像できた。
アイラの腕の中、私は思わず目を瞑り――正直に言うと死を覚悟していた。
「ルーナ、大丈夫」
だけどそんな中、セレスの呑気なふわふわとした声が耳に届く。
……まってセレス、何をしようというの? そんな私の疑問に対し、セレスは行動で答えた。
「まかせて」
彼女はそう言うと、赤竜に向けてゆっくりと歩みだした。
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