現代詩お嬢様『LITERAL REALITY』書評

 現代詩お嬢様の新刊が出た。

 私的にこれは衝撃的なことだった。前作『Virtual Poetry』がテクニカルな一冊だっただけに、しばらくはそれこそが彼女の代表作であり続ける、それこそがお嬢様らしいと思ったのである。しかし、電子書籍であれば素早く新作を出すことができる。バーチャルな存在にとっては、素早い新刊こそが「らしさ」と言えるかもしれない。


 「LITERAL REALITY」とはまた、刺激的なタイトルである。前作と違い、最初から散文詩が続く。そして、相手を見つめながらも、世界を冷たく切り取る視線がお嬢様の口調で紡がれていく。それは詩として技巧的でもあり、お嬢様が「作り上げている」のが感じられる。

 しかし「短期的なあなたと長期的なあなたについて」で転換が訪れる。詩は改行され始めるのだ。



胸元まで迫る青空に

雨は爪痕さえ残せない

スポーツカーのように汗を振り払う

それは飛行機雲への武者震い

(「レンズフレア」)より



 そこにはもう、お嬢様キャラとしてのお嬢様は見えない。一人の人間の詩が、露わになっている。ただ、読者は、そこにも現代詩お嬢様を感じるだろう。彼女が彼女の世界で、一人の詩人としてつむごうとする詩は、きっとこうに違いない。

 しかし次の作品から、詩の形は元に戻っていく。いや、散文的だが、一連の長さが比較的に整えられているようである。

 今回の詩集は、交互に違った作風を置くという形にはなっていないのだ。お嬢様がどのように具現化するかは不安定で、「作品による」ように感じた。それでいて連続性などははっきりと意識していると感じる。

 ちなみにもっともと圧巻だと思ったのは「サイダー条例」である。この詩には様々なものが詰め込まれており、変な感想だが、「投稿されたものではないだろうな」と感じた。私はこのような形式が好きで、詩は何でもありだと思っている。しかしそう思わない人には、いろいろ指摘したいところがある作品だろう、と。少なくとも第一詩集では、このような試みはされていなかった。お嬢様は、挑戦する枠の幅を広げたのではないだろうか。



 お嬢様がお嬢様口調である時、それは語りかけとなっている。そこで私は気づかされる。詩は読者に読んでもらうものだが、直接語り掛けることは少ないのだ。しかしお嬢様は誰かに語り掛ける。それでいて、ずっと語り掛けるのではない。朝と夜が訪れるように、時には昼寝もするように、「お嬢様であるお嬢様」と、「お嬢様の中のお嬢様」が混在している。

 詩集であることによって、混在ははっきりとする。第一詩集ではその混在が明確に整列されていたが、今作でははっきりと整列されているわけではない。「作られたもの」という前提が意識されてしかるべき前作から、一人の詩人の作品として読まれる今作へ。そのような変化があったのではないかと推測する。

 現代詩お嬢様は命に興味を持っている。それは命の素晴らしさではなく、私たちに命があるという事実そのものであるように感じる。メタ的には彼女は生まれて数年で、私たちと同じ世界で鼓動を持つわけではない。だからこそ彼女にとって「生きている」とは、「生きている」という事実が最も重要であるのだろう。



さあ、教えてくださいませんこと。あなたがそんなに死にたいとおっしゃる理由を。幾千の夜をかけても構いませんから、ぜひ、お話しくださいませんこと。

(「あなたが死にたいとおっしゃるなら」より)



 死にたい人を止めないと言いつつも、彼女は幾千の夜をかけても話を聞くと言う。それはその間死なせたくないという思いとは、少し違うと思った。彼女は、「あなた」に対して、いなくなった人たちのことを知っている人がいなくなるのですよ、と言う。それは、自らにもかえってくる言葉だ。現代詩お嬢様は、彼女の世界での事柄を紡ぐ。彼女が書かなければ、誰も知ることのなかったことを。彼女がいなくなれば、決して明かさることのない世界の話を。

 それは、詩の根源なのかもしれない。私たちは生きる意味を見失っているときも、何かを伝えることができる。ただ伝えることができるということが、私を存在させているのかもしれない。


 命とは。存在とは。私とは。虚構とは。いくつもの層が重なり合って、私たちに問いかけてくる。

 『LITERAL REALITY』は、一つの作品として素晴らしい。


 


参照・引用

現代詩お嬢様『LITERAL REALITY』(2023)



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