40話突入前

 都市を出発して、数日後……。


 ようやく、サウス伯爵領に到着する。


 そして都市の中ではなく、中継地点である宿に泊まることにする。


 俺たちは、都市の西口から一気に攻める予定だからだ。



「ふぅ……なんとか前日に着けたな」


「えへへー、そうですね」


「……おい? 何をしている?」


いつの間か、ベットにはシノブがいる。


「はえっ? 部屋にいますよー?」


「お前の部屋はここじゃない!」


「え〜いいじゃないですかー。減るもんじゃないですし」


「俺の精神力が減るわっ!」


 耐える方も大変なんだよっ!


「むぅ〜」


「膨れても無駄だからな? ほら……」


 その時、バーン!という音がする。


「ここにいましたわねっ!?」


「あっ、バレましたー」


「ユウマ! 貞操は無事ですか!? この破廉恥娘!」


 貞操って……普通は逆だと思うのだが?


「ホムラもどうですかー? 一緒にイチャイチャしませんかー?」


「い、一緒……! は、初めては二人きりでロマンチックな雰囲気で……って! そうじゃないわっ!」


「おい? もう一度言うけど、ここ俺の部屋だからな?」


 すると……ドアからアテネさんが見える。


「お取り込み中かい? いやはや、モテる男は大変だね」


「勘弁してくださいよ……」


「さ、三人なんて破廉恥ですわっ……!」


「はぁ……シノブ、ホムラを連れて部屋を出てくれ」


「仕方ありませんねー。ほら、行きましょー」


「へっ? ちょっと!?」


 ホムラを引きずり、シノブが部屋を出て行った。


「悪いね、邪魔して」


「いえ、正直言って助かりました。俺は、今はその気はないので」


「へぇ……本当に変わった男だね。あれだけ器量の良い女性に言い寄られて……」


「まあ、そこは否定しません。それで……アテラさんのことですね?」


「ああ……そうだね。あの子について決めておかないといけない」


 あの後ギルドマスターからは、彼女についても色々聞かされた。

 もちろん、聞いたのは俺とアテネさんだけだ。


「色々調べた結果……無実の人間は殺してなさそうということです」


 あくまでも、伯爵子飼いの者の始末担当らしい。

 加担はしているが、直接冒険者を殺したりはしてなさそうだと。


「でも犯罪には変わりないね。伯爵の悪事を知った上で加担しているからね」


「まあ、そうなりますね……貴方の手で殺しますか?」


「……死刑よりは、アタイが殺した方がマシかね」


「まだ、わかりませんが……情状酌量の余地があるかどうかですね」


「しかし、捕らえるとなると……リスクが高いね」


「お話がしたいですか?」


「……そうだね。結果がどうなるかはわからないけど」


「では、捕らえる方向で行きましょう。一応、あちらからも出来れば捕らえるようにと言われていますし……無論、犠牲が出そうなら……」


「わかってる、その時は遠慮なく仕留める……ありがとね」


「いえ……」


 アテネさんは何とも言えない表情をしている。


 そして、夜は更けていった……。





 翌朝、朝食を食べ、最終確認をする。


「アテラさんは捕らえる方向で行く。ギルドマスターにも言われているしな。アテラさんが始末屋だとしたら、情報は沢山持っているはずだからだ」


「おう、わかったぜ。見つけ次第……誰が相手をする?」


「まあ、私とアテネさんですかねー」


「アンタの身のこなしは凄かったね。アタイでも捉え切れるか……」


「えへへー、アテネさんも凄かったですよ? 私、避けるの大変でしたもん」


 先ほど、試しにやってみたが……。

 アテネさんの腕前は一流クラスだった。

 狙った的は外さないし、シノブを接近させなかった。


「同じような腕と思っていいんですね?」


「ああ、アタイと似たようなものさ」


「では、強敵ですね。皆、狙撃には最新の注意を払ってくれ。シノブ、警戒を任せてもいいか?」


「あいあいさー!」


「アロイスは先頭に立って先陣を切ってくれ。お前なら他の冒険者も付いて行きやすいだろう」


「おうよっ!」


「イージスはアロイスの後ろについてくれ。いざという時はアロイスのガードを頼む」


「はいっ!」


「真ん中はアテネさんで頼みます。それらしき人がいたら知らせてください」


「はいよ」


「俺とホムラは最後尾だ。おい、ホムラ。言っておくが、俺の側から離れるなよ?魔法に集中するお前には、矢を射られたら防ぎようがない。俺が必ず守るから、安心して良い」


「ひゃい!」


「なんだよ、ひゃいって……俺は真面目な話をだな」


「わ、わかってますわよっ!」


「今のは団長が悪いぜ」


「オ、オイラも……」


「私もー」


「アタイもだよ」


「あぅぅ……ユウマも破廉恥ですわっ!」


「……解せぬ」


 俺は至極当然のことを言っただけなのに。




 そして、移動を開始する。


「よし、この辺りが良いだろう。恐らくギリギリのはずだ」


 武装した集団がいたら怪しまれるので、出来るだけギリギリ到着にした。


「最後に、手はずを確認しますかー?」


「そうだな……鐘がなると同時に、西の門が開かれる。そしたら、俺達は北にある領主の館に向かう。幸いなことに領主の館付近には平民はいない。そこには子飼いの者しかいないから、遠慮はいらないそうだ。ただ、出来るだけ殺さないようにとのことだ。仕方なく従っている人もいるかもしれないからだ」


 全員が頷くのを確認すると……。


 ゴーン……ゴーン……。


「門が開いた! いくぞ!」


 いよいよ突入である。

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