第6話魔物退治と薬草集め

 叔父上の家に戻った俺は、ひとまず昼飯を食べる。


 ちなみに、食材などは帰りに買ってきておいた。


「いやー、料理を覚えておいて正解だったな」


 貴族なので基本的には作る機会などない。

 だが、俺はこうなることを予想していた。

 なので、執事長セバスの妻でメイド長のクリスに教わっておいたのだ。


「ひとまずご飯を食べれて、住む所があれば上等な部類だろう」


 叔父上はほとんど飲み歩いているっていうし。

 基本的には、ご飯もいらないって言ってたな……。

 とりあえず、朝の稽古だけは毎日やるとは言ってたけど。


「よし……食べ終わったし、次の依頼をこなすとしよう」


 洗い物を済ませ、俺は王都の外へと向かっていく。




 その道中にて、色々と考える。


「何気に、一人で出るのは初めてなんだよな……」


 王都を出る時は護衛がついたり、軍の訓練や学校の行事では数名で行動したし。


「ソロでやれることには限界があるから、仲間も作らなきゃだよなー」


 俺って友達いないからなぁ……平民からは敬遠されるし。

 かといって、話の合わない貴族とは仲良くなれる気がしないし。


「まあ、とりあえずは平気か。この周辺ならコボルトやゴブリン程度だろうし」


 強力な魔物ほど人間を恐れ、人里離れた場所にいる。

 つまり、一定以上の知恵があるということだ。

 低級の魔物は考えなしに人里に下りてくる。

 もちろん、例外もあるけど。


「ただ……客観的にみて、この周辺に俺の敵はいないだろう」




 そんなことを考えつつ、王都の入り口に到着する。


「君一人かい?」


「ええ、冒険者なので」


「気をつけてくださいね。新人さんは特に」


「ご忠告ありがとうございます。決して無理はしないです」


「……驕ってはなさそうだ。では、帰りを待ってます」


「ええ、では行ってきます」


 さて……最悪の場合に備えて、名を知らしめていかないとな……!




 王都を出た俺は、足に魔力を込めて走り出す。

 魔力総量が高くコントロールが上手い俺は、こういったこともできる。

 そのかわり、俺には攻撃魔法の才能がまるでないけど。


「いいよなー。ああいうのにも憧れるよな……まあ、一応俺なりの技を考えてはいるけど」


 馬並みのスピードにより、ほんの三十分程度で目的地に到着する。


「薬草の知識はあるし……これだ」


 回復魔法には魔力が必要で、それは無限とはいかない。

 なので、出来るだけ薬草類も覚えておいた。

 孤児院との交流があり、そこで教えて頂いた。


「さて……タイミングがいいな」


「ガルル」


「グルルー!」


二体か……問題ないな」


 鞘から剣を抜き、左下段で構える。


「グルァ!」


「遅い」


 前方から迫り来る一体を逆袈裟にて仕留め——。


「ガウゥー!」


 左側からもう一体がくるが……。


「甘い」


 そのまま腕を上段に構え——唐竹にて仕留める。


「フゥ……少し身体が硬いな……やはり、実戦と訓練は違うか」


 俺の剣の腕はそこそこのはずだ。

 コボルト程度なら問題ないが……。


「オークやその他の魔物と戦う前に、実戦に慣れておかないとな」


 その後、討伐証拠である耳を切り取る。


「とりあえず依頼は達成か……で、いつまで覗いているんですか?」


 王都を出た辺りから視線を感じていた。

 ただ、悪意を感じなかったから無視していたが……。


「おっ、気づいてたか」


「それは……山賊?」


 前言撤回! 俺は急いで剣を抜き、戦闘態勢に入る。

 厳つい顔に、角刈りの頭に、身長190はありそうな身体……。

 背中には斧を背負っている……うん、山賊だ。


「ま、待て! オレは山賊じゃない!」


「嘘をつくな! その見た目、俺をつけていたこと……いや——盗賊か!?」


 くそっ! 油断した! 悪意を見せないほどの実力者だったか!

 確かに、こうして見ると……佇まいに隙がない。


「あぁー……そうだよな、オレが馬鹿だった……自分の見た目をわかってたろうに……最初から言えば良かったか」


 騙すにしては様子がおかしい。


「……何か証拠はあるのか?」


「おっ、聞いてくれる気になったか。ほら、これだ」


 男からカードが投げられる。

 それを、男から視線を外さずに視界に入れる。


「冒険者カード……銀色……中級クラス……」


 犯罪者は冒険者になれない。

 大陸のあちこちに移動できるかわりに、その査定はとても厳しい。

 窃盗などなら情状酌量の余地はあるが、強姦や殺人は一発で犯罪者確定だ。

 もちろん、正当防衛や賞金首、戦争などなら話は別だが。


「これで信じてもらえるか?」


「も、申し訳ない! つい、見た目で判断をしてしまいました!」


 母上からも散々言われていたのに……!

 見た目で判断してはいけないって……。


「いや、わかってくれたならいいぜ」


 ひとまず武器をしまい、カードを手渡す。


「七級冒険者のアロイスだ。よろしく、ユウマ」


「何故、俺の名を?」


「オレはな、新人のお守りをしていてな……最初の依頼で死んじまう奴もいるからな。折角、才能のある奴でも死ぬ時は死ぬ。お前さんが一人で行ったから心配になったんだよ」


「冒険者は自己責任なはず……自発的にということですか?」


「まあ、そうなるわな……甘いことはわかってるが……」


「いえ! とても素晴らしい考えだと思います!」


 後輩のために、無償で行うとは……!

 これだよ! あの貴族達に足りないのは!

 自分さえ良ければ良いと思ってる連中に聞かせてやりたい!


「そ、そうか……そう言ってくれる奴もいるんだな」


「新人冒険者の死亡率を下げようとするその行いを尊敬します」


 野蛮な人も多いと聞いていたが、冒険者にもこんな人がいるんだな。


「へへ、ありがとよ……照れるぜ」


 ただ、その照れ顔だが……強姦か殺人を行いそうな顔にしか見えなかった……。

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