第705話 カニ泥棒

 ミスフィートさんが一瞬で許可を出してくれたので、身分上位の者からマジックバッグを配布することが決定した。


 しかし料理班に『とっととメシを食いやがれ!』とブチキレられたので、配布は食事の後ということになった。


 当然ながら、誰もが欲しがっていたマジックバッグの配布というイベントが控えていたので、身分上位の人達は急いで夕食を終わらせて俺のテーブルに集まった。



「ちょっと、まだ食べ終わってなかったの!?」

「小烏丸、食べるの遅い!」

「米を噛んでる暇なんか無い。急いで!」


 ピキピキ


はやる気持ちも分かるが、メシくらいゆっくり食わせてくれよ!」

「マジックバッグって何個あるのさ?」

「えーと、10個くらいだったかな?」

「もちろんアタシから好きなのを選んでいいのよね!?」

「一応自分のセンスで女性が好みそうなのを選んでマジックバッグにしていってるんだが、確かに選択肢はあったほうがいいか。じゃあ床に並べるから、身分上位者から選んでいってくれ」



 椅子から立ち上がり、床にマジックバッグを並べていった。

 やっぱり完成品は10個あった。



「ヒャッホーーーーー!!どれにしよっかな~~~~~!」



 カーラの喜びの声を聞きながら席に戻り、チャーハンを食べ始めた。



「小烏丸、マジックバッグにする予定の鞄もいっぱい出して」

「もごご?もごゴゴゴ!?」

「早く飲み込む!」


 ゴクン


「げふっ!これだけ人が多いと踏まれてしまうだろ!」

「向こうのカウンターの前なら大丈夫」

「完成品以外のリュックを選んで、それをマジックバッグにしてもらってもいいんでしょ?」


 あ~、なるほど。

 自分で選んだ鞄をマジックバッグにしてもらった方が納得いくもんな。


 その10個が気に入らないとかじゃないと思うけど、リタとリナは『それ以外にも掘り出し物があるのでは?』と考えたみたいだ。


「完成まで我慢できるならそれでも構わんぞ。たぶんすぐアリアダンジョンに遊びに行くことになるだろうけど、少なくとも明日はマジックバッグ無しになる」

「覚悟の上」

「おそらく、ほとんどの人が先に鞄を選んで予約するハズ」

「なるほど・・・別に予約制でも問題ないか。んじゃ鞄の近くに紙とテープを置いとくから、自分の名前を書いて鞄に貼っといてくれ」

「わかった」



 カウンターの前の広いスペースに、リュックやウエストポーチなんかをいっぱい並べた。リタに、ウエストポーチは便利だけど容量が少ないことを伝えておく。


 最後に紙の束とテーブを置くと、食事を済ませた女性らがワーッと集まって来た。


 これはイカンと囲まれる前に脱出し、自分のテーブルへと戻った。

 ふ~、これでゆっくりメシが食えるぞ!



 今度こそ邪魔されることなく夕食を終えると、鞄を並べたカウンターの前は人がいっぱいだったが、完成品のマジックバッグは全て無くなっていた。



「ねえ小烏丸、マジックバッグを鑑定すると『登録者以外は使用不可』って書いてあるんだけど、登録ってどうすればいいの?」

「私のマジックバッグにもそう書いてありますね」


 どうやらカーラとカトレアの二人は完成品を選んだみたいだな。


「そのままだと普通のリュックなんだけど、自分の血を一滴垂らすことで所有者登録が完了し、血を垂らした本人だけが使えるマジックバッグとなるんだ」

「リュックに血が付いちゃわない?」

「それは大丈夫だ。血を染み込ませても、血の跡は残らないようになっている」

「へーーーーー!じゃあやってみる!」


 というわけで、二人は躊躇なく所有者登録を完了させた。


「あ、そうだ。マジックバッグの取扱説明書を作ったんだけど、マジックバッグの所有者全員にコピーして渡したいんで、カメラを貸してくれ」

「部屋に置いてあるから、後で渡すってことでいい?」

「それで構わん。あと完成した教科書も全部コピーしまくらなきゃならんので、しばらく借りといていいか?」

「いいわよ~」

「その説明書を見せてもらってもいいですか?」

「いいけど、原本だから血で汚さないように頼むぞ」

「大丈夫です」



 説明書を渡すと、二人がそれを読み始めた。



「善悪判別機能!?」

「思ったより凄いわねこれ・・・」

「例えば、この食卓テーブルを収納することは出来ないということですか?」

「いや、コレはたぶん収納可能だ。理由はミスフィート軍全員の為に用意した物だからだ。試しにこの椅子を収納してみるといい」

「えーと、収納!」


 俺が座っていた椅子は、カトレアのマジックバッグに収納された。


「わあ~~~~!これは凄いですね!椅子に触れて『入れ』と願っただけで、マジックバッグに入ってしまいました!」


 カトレアが椅子を出し、カーラも椅子を収納できるか試した。


「マジックバッグって凄すぎじゃない!?でも自分にも使う権利がある物じゃ実験にならないわね~」

「じゃあ、グミが食べてるカニの足を一本、許可を取らずに収納してみ」

「あはははは!それは面白そう!でもリュックの中が汚れるのは嫌ね」

「説明書によると、それは大丈夫みたいですよ?」

「水をジャバジャバ入れても、マジックバッグが水浸しになったりしない仕様だ。取り出す時に床が大惨事になるけどな」

「へーーーーーーーーーー!」



 カーラがグミの背後に忍び寄り、カニの足を一本ひょいと奪い取った。



「収納!・・・あれ?消えない!入って。うわダメ!カニの足が収納できない!」


「あーーーーーーーーーーっ!カニ泥棒ーーーーーーーーーーーーーーー!!」


 まさかのカニ泥棒に、グミが憤慨している。


「ゴメンゴメン!善悪判別機能ってのを試してみただけなの」


 カニの足は無事グミの元へと返された。


「もう!私のカニで試さないでよ!」

「でも一人だけカニ食べてるのズルくない?」


 ギクッ


「いやこれは違うの!そうだ、カーラもダンジョンで獲って来ればいいんだよ!」

「そうか!ダンジョンに行けば海産物が獲れるんだったわね!」

「海産物は4階層まで行かないと手に入らないから、何日か掛かるけどな」

「噂のダンジョンですか。楽しみですね!」



 とまあ、マジックバッグ騒動で食堂は大騒ぎとなったけど、明日はダンジョンで賑やかな一日になりそうだな・・・。

 

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