第703話 並列思考は死闘の先にあるのです

 足から冷気を放出するという難題を与えられた虎徹さんだったが、10分ほど経つとコツを掴んだようで、少しずつ地面が凍り始めた。



「その調子です!ちなみにゼーレネイマスは、剣で斬り合いながら俺の足もとを凍らせてきましたよ。いきなり足がツルンと滑って態勢を崩した所を大剣で薙ぎ払われ、決闘開始早々に肋骨を2~3本折られました」


「マジかよ!斬り合ってる最中でも何やってくるか分からない相手か・・・。流石は氷の大魔王だな~」


「お?地面が結構凍りましたね。じゃあ次いきますよ?地面をツルンツルンにされた俺は咄嗟に解決策を考え、雪国に住む人達の生活の知恵を繰り出しました。その名も『ロードヒーティング』です!」



 足の裏から高温魔法を発動し、凍った地面を溶かし始める。



「あ、それ知ってるぞ!道路を温めて雪を溶かすヤツだ!」


「正解です。この魔法のおかげで俺は地面の氷を溶かすことに成功しました。しかしゼーレネイマスは地面を凍結させるのを止めてくれなかったので、そこから先はずっとロードヒーティングの魔法を使いながらの戦闘になります」


「これをずっとかよ!!」


「じゃあ次に進みますよ?」


「展開がはえーな!」


「ファイアランス」



 あの時のように、周囲に10本の炎の槍を浮かべた。



「足から魔法を放ちながら炎の槍か・・・」


「炎の槍を見たゼーレネイマスは、即座に氷の槍を10本宙に浮かべました。さあ、虎徹さんもやって下さい!」


「超スパルタ野郎め!初心者だって言ってるだろ!」



 そう言いながらも、虎徹さんは氷の槍を周囲に浮かべた。

 文句ばっか言ってるけど、この人メチャメチャ強いからな。



「じゃあ炎の槍を飛ばしますので、氷の槍で全て迎撃して下さい。相殺したらまたすぐに氷の槍を10本浮かべ、これを何度も繰り返します」


「地獄かよ!!」



 ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン


 シュンシュンシュンシュンシュン



 ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



 魔法の槍の相殺を3セット繰り返したところで、次に進むことにした。



「よし次!魔法の撃ち合いを続けながら斬り合います!」


「はあ!?ちょ、待てや!マジで頭がおかしくなりそうなんだけど!!」


「そこまでやらなきゃ並列思考マルチタスクは生えません。でも安心してください。ガチで斬り合うわけじゃないですから。じゃあ行きますよ!」


「クソがーーーーーーーーーー!やったらああああああああああ!!」



 ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!ドンッ!



 ギンッ ガギンッ



 こうして、ゼーレネイマスとの死闘を懐かしく思いながら、並列思考マルチタスクが生えるまで虎徹さんと斬り合ったのだった。




 ・・・・・




並列思考マルチタスクの習得、おめでとうございます!そしてお疲れ様でした」


「ハアッ、ハアッ、ふーーーーーッ。お前ら、狂ってるだろ・・・」


「男の意地ってヤツですかね?仲間が後ろで応援してくれてたから、格好悪い姿を見せるわけにいかなかったんですよ」


「まあ気持ちはわかるぞ。しかし今ので一つハッキリしたな。氷の大魔王は間違いなくつえー」


「もう一度勝負を挑まれたら絶対にお断りするくらいの強敵ですね。彼も並列思考マルチタスクが生えたみたいですし武器と鎧を強化してあげたんで、次やったら負けるかもな~」


「武器を強化したんかい!!そりゃヤバすぎだろ!」


「寿命が半端なく長い魔王達に猫ちゃんを守ってもらおうと思ったんです。あと越後大名ガルザリアスの装備品も強化しました」


「ガルザリアス・・・、炎の大魔王か!」


「やっぱり知ってたんですね~。ゼーレネイマスとタイマンを張って、三日三晩闘い続けて勝負がつかなかったらしいですよ」


「大魔王同士の決闘かよ!それも見たかったな~」



 ゼーレネイマスと互角ってだけで、どれほど強いか想像がつくよな。


 そういやまだ陸奥でギャンブルしてんのかな?

 線路が開通したら、陸奥のカジノまでガラスを届けに行かねえとな!


 とまあ、そんなこんなで虎徹さんに並列思考マルチタスクを生やすことに成功したので、恩返しは無事終了。


 部屋に戻って少し休憩した後、彼は宇宙刑事サイダーに変身し、今日も元気に魔石集めをする為に通路へと突撃して行った。


 そして俺はマジックバッグ作りを開始した。

 しかしまあ、時空魔法を覚えてから今まで以上に忙しくなったな~。






 ************************************************************






 今日の狩りで、ようやく親父達三人の借金は全て返済された。

 借金っつーか魔石なんだけどね。


 三人共、いい加減仕事に復帰しなきゃマズいということで、明日からはそれぞれの持ち場に戻ることになった。


 俺はどうしようかなーと考えながら流星城に帰還。

 腹が減ったので、そのまま食堂へと向かう。



 ガヤガヤガヤガヤ




 ―――――めっちゃ混んでいた。




「小烏丸、ただいまーーーーーーーーーー!!」



 ガシッ!


 なんとかカーラのタックルを受け止めた。



「うおっ!みんな帰って来てたのか。おかえり!久々の帰郷は楽しかったか?」

「やっぱりルーサイアは最高ね!メチャメチャ楽しかった!!」

「良かったな!」

「・・・え?ちょっとチェリン!その服はどうしたのさ!?」


 どうやら、俺と一緒に食堂に入って来たチェリンの服装が『黒ナース』姿に変わっていることに気付いたようだ。


「皆を驚かせようと思ってたのに、いきなり見つかってしまったわね・・・。あれ?カーラが驚いてるってことは作戦成功かしら?」

「大成功だよ!むしろ人が集まってる今が一番効果的だよ!」

「エーーーーー!?グミまで可愛くなってるじゃない!!」

「ぶい!」


 セーラー服姿のグミが両手でVサインをした。カニ大好きだもんな。


「カーラさんや、その二人の服が可愛いのは事実だけど、もっと自己主張の激しい衣装を着た人物がいますよね?」


 そこでようやくカーラの視線が大バカ殿様に向いた。



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



「いや、そう無言になられると反応に困るのだが?」



「アーーーッハッハッハッハッハッハッハ!お義父さんが金ピカになってる!!」



 当然のように大爆笑された親父だったが、なぜかウケたことにホッとした様子。


 そうか!ギャラバーンに変身した直後のスベった感に文句言ってたもんな。

 むしろ笑われた方が安心する体質になってしまったようだ。


 それにしても帰郷組が戻って来て、やっとこの城らしい騒がしさになったな!

 チェリン達の種明かしで、大騒ぎにまで発展するぞ~。

 

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