第692話 廃課金

 人魚バトルは半日かけた長期戦なので、俺は青結界を自分に張ってそれを維持しながら教科書作りを頑張り、しかも三人が眠ってないか定期的にチェックするという、ちょっと面倒臭い作業をこなしていた。



「あっ!人魚が干からびた!!」


 突然グミが大きな声を出したので、全員の視線がグミに向いた。


「グミの幻惑耐性が7まで上がった証拠だ。睡眠耐性と魅了耐性も7になっているなら終了していいぞ~」

「えーとねえ・・・、全部レベル7だよ!やったーーーーーーーーーー!!」

「エエエエエ!?私の人魚はそのままなんですけど!」

「俺もまだだ。眠らされた回数分遅れてるのかもしれねえな」

「寝つきの悪さには定評があったのに、グミに負けるなんて・・・」

「それとはまた別もんなんじゃねえか?まあ、あと少しの辛抱だ」



 グミが一抜けとは予想外だったな。

 『寝ないのは得意だよ!』とか言ってたのは本当だったらしい。


 とは言っても眠ってる人を見つけたら即座に叩き起こしていたので、程なく親父とチェリンも耐性上げが完了し、最後に人魚を処分してイベントは終了した。



「もうすぐ18時か。今日は狩りしている時間が無いな」

「エーーーーー!ガチャ一回分くらいの魔石しかないよ!」

「私も一回分しかないわね」

「もうそんな時間だったのか。今回はしょうがあるまい」

「でも今日の夕食は海産物だよ!」

「ココって4階層よね?部屋に帰るまで30分くらい掛かるかも」

「いや、転移魔法を使えば一瞬で帰れるぞ!」

「使えるのか!?」

「たぶんダンジョン内なら問題無い。それ以上の距離となると自信無いけどな」



 虎徹さんがやっていたように全員手を繋いた。

 まだ初心者だし人数が多いから、大広場に転移しようか。



「じゃあ帰るぞ~。転移!」



 そう叫んだ瞬間、目の前の景色が一変した。



「おお、成功した!」

「え?どこ??」

「大広場じゃない?」

「うむ、大広場だな。初めてだから広い場所に転移したのか」

「その通りだ。んじゃ部屋に戻ろう!もう虎徹さんが迎えに来てるかもしれない」


 いや待てよ?

 虎徹さんって、宇宙刑事の衣装一点狙いでガチャりに行ったんだっけか。


「あ、ちょっと待った!もしかしたらガチャ部屋にいるかも」

「そういや朝ガチャ部屋に入って行ったな」

「もう18時よ?さすがに居ないんじゃない?」

「すぐそこだし覗いてみようよ!」



 いないだろな~と思いつつも、ガチャ部屋に移動した。



「「なんじゃこりゃああああああああああ!!」」




 ―――――ガチャ部屋がアイテムで埋まっていた。




 天井まで家具が積み上がっていたりと、もう滅茶苦茶な状態だ。

 どんだけガチャったらこうなるんだよ!?



「足の踏み場も無いんだが?」

「中に入れないよ!?」

「もしかしてコテツさんって、この奥にいたりするの?」

「いるような気がする・・・」



 アイテムの山をかきわけ、少しずつ奥へと進んで行った。

 そしてようやく、ガチャの前で朽ち果てている虎徹さんを発見。



「虎徹さん!ガチャ部屋がメチャクチャじゃないですか!!」



 もはや生きる屍と化している虎徹さんだったが、最後の力を振り絞って俺達の方に顔を向けた。



「オレはもうダメだ・・・」



 虎徹さんの周りだけ空白スペースがあったので、何とかそこまで泳いで行った。

 親父達も息を切らしながら安全地帯へと到着。



「これって、何連くらい回したんですか?」

「500連」


「「はあ!?」」


 ちょ、500連って・・・。


「デラックスガチャを500連だから、うわっ!魔石5000個じゃないですか!」

「手持ちの魔石を全部ぶっ込んだけど出なかった・・・」

「いくら何でもやり過ぎだよ!」

「廃課金じゃねえか!」

「そ、そんなに使っちゃって大丈夫なの!?」

「全然大丈夫じゃないぞ・・・」


 マジで廃課金以外のナニモノでもないな。

 しかも当たりを引くことが出来なかった敗残者だ。なんてむごい・・・。


「えーと、宇宙刑事は?」

「出なかったから屍になってるんだよ・・・」

「もう最悪だな」

「意外と出ないもんなんだね~」

「それだけ回してダメなら諦めるしかないわね」


 それを聞いた虎徹さんの目が強く光った。



「誰が諦めると言った?」



 こ、この人まさか・・・。



「城に置いてある魔石を全てかき集めて、明日また勝負するぞ!」



「「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーー!?」」



 マジかよ!さすがにそれは拙くない!?



「もしかして三河のレメシス城にある魔石も全てですか?」

「当たり前だ」

「清光さんに、キツいヤキをぶち込まれますよ?」

「覚悟の上だ!!」



 ダメだこの人!


 廃課金というよりも、勝手に親のクレジットカードを使ってガチャをぶん回して、後日とんでもない請求が来て叱られる子供みたいじゃないか!!



「あっ!この椅子すごく可愛いわね~」


 高く積み上がってる家具の中に、チェリン好みの椅子があったらしい。


「この部屋に散らばってる物なら、どれでも魔石10個で売ってやってもいいぞ」

「いいの!?」

「エーーーーーーーーーー!?私も欲しいのいっぱいあるよ!!」

「好きなのを売ってやるぞ。でも明日大勝負する予定なんで、商品と引き換えにその場で魔石を支払ってもらうからな?」


 明日の為に少しでも魔石が欲しいのだろう。虎徹さんが商売を始めよったわ。


「好きな物を選んで買えるなんて最高じゃねえか!でも魔石が少ししかねえ」

「そこに腐るほど魔石を持ってるヤツがいるぞ。借りればいいんじゃね?」


 なにィ!?


「小烏丸、魔石貸して!!」

「私も!明日返すから」

「こんなの買うしかないだろ!俺も借りていいか?」

「ん~まあ、ちゃんと返してくれるのなら構わんけどさ・・・」



 ガチャで勝負して手に入れる方が絶対面白いんだけど、好きなのを選んで買えるってのもかなり魅力的だよな~。


 なるほど・・・。

 色々仕入れて、ミスフィート軍の皆に売ってあげるってのも悪くない。


 虎徹さんを助けることにもなるし、使えそうな物をいっぱい買ってあげるか!

 

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