第618話 ウチの嫁さんがメチャクチャ格好良い!

 ようやく役者が揃い、それぞれが一対一で戦える状態に持ち込めた。


 しかし少し余裕になったせいか、真の挑戦者チャレンジャーであるガチョピンと正々堂々闘ってみたい気持ちが大きくなってきた。


 メイスを地面に置き、ケンちゃん用のヤツとは別に何となく作ってあった自分用のメリケンサックを拳に装着する。


 もちろん付与魔法を掛けてあるので、当たれば効くハズだ。


 卑怯だって?バカ言うなし!あの緑色の怪獣、見た目はフワフワなくせにめっちゃカチカチなんだよ!これでもかなり不安なくらいだ。



 ―――――ボクシング漫画をこよなく愛する俺に隙など無い。



 なぜかガチョピンが俺の準備が整うのを待ってくれていたので、靴の中の練乳を地面に捨て、軽いフットワークからシャドーをしてみる。


それを見ていたガチョピンも『ほう?なかなか良い動きではないか』という顔でこっちを見ていたので、俺も少しその気になってきた。


 おそらくボクシングで闘おうとしているのが分かったので、待っていてくれたのだろう。流石は真の挑戦者チャレンジャーだ!その立ち振る舞いも紳士である。



 よし、デトロイトスタイルで行こう!


 半身になり、右拳を顎の横に上げ、左拳はみぞおちの前辺りに置く。

 あまりにもカッコイイ構えだったので、鏡の前で練習したことがあるのだ!



「やっぱフリッカーよな!!お?チミはピーカブースタイルですか。その短い手足じゃアウトボクシングなんて無理でしょうからね!」



 しかしこの構えで闘うのってムズくね?

 死ぬほどしっくりこねえ!!


 とか思ってたら向こうから仕掛けてきたーーーーー!!



 みぞおちに構えた左拳でジャブを繰り出し牽制するが、ピーカブースタイルの鉄壁の守りに弾かれ、付け焼刃パンチなどまったくもって意味を成さなかった。


 そうこうしてる間に簡単に懐に入られ、右フックが飛んで来る。


 ガンッ!


「ぐお!!」


 左手を上げて何とかガード出来たけど、なんて重い拳なんだ!つーか、冷静に考えたら素人がデトロイトスタイルで闘うなんて無謀の極みじゃねえか!


 そもそも生まれてこの方、ボクシングなんて一度もやったことねえもんよ!!


 ドカッ!


 ローキックをくらわせてやった。


 自分の足が痛いだけかと思ったら、実はガチョピンの足って普通の着ぐるみだったみたいでフニャフニャなのな!カッチカチなのは両腕だけらしい。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ



 ボクシングの試合中にいきなりローキックをくらったガチョピンが、めっちゃキレて俺を睨んでいる。



「おいおいおい、誰がボクシングで勝負すると言いました?実はこう見えて俺はキックボクサーだったのだ!すなわちこの試合は異種格闘技戦よ!」



 それを聞いたガチョピンが『そうだったのか!』って顔になった。

 分かってくれたならそれでいい。



 ふと右側に視線を向けると、親父がサンダー大佐と組み合ってる姿が見えた。

 次の瞬間、サンダー大佐が親父の背後に回り込み、バックドロップの態勢に入る。


 ボコッ!


 グミのメイスがサンダー大佐の脳天に振り下ろされた。

 そして大佐がよろめいた一瞬の隙をついて、親父のラリアットが炸裂する。


 ゴシャッ!


 おおう。汚い、汚すぎる・・・。


 ふらふらしながら立ち上がったサンダー大佐だったが、当然ながら今の攻撃に対して憤慨している。



「おいおいおい、誰が一対一で勝負すると言った?俺は本職のプロレスラーじゃねえんだぞ。すなわちこの試合は二対一の変則マッチよ!」

「そうだそうだ!」



 それを聞いたサンダー大佐が『そうだったのか!』って顔になった。

 うーむ、なんかどこかで見たような光景だな。



 ―――――その時、吹雪が止んでいることに気付く。



 あっ、そうか!ミスフィートさんが止めてくれたんだ!

 モックは・・・いた!!



 ミスフィートさんの左ミドルキックを右の肘でガードしたモックが左の正拳突きを繰り出すが、ミスフィートさんは半身になってそれを躱し、瞬時に懐に潜り込んで顎に掌底を当てる。


 今の攻撃で軽くノックバックしたモックだったが、続けざまに放たれた右パンチを左腕でガードし、右のハイキックを繰り出す。


 ミスフィートさんがそのハイキックを上に弾いて懐に潜り込もうとすると、モックのハイキックがかかと落としに変化。


 察したミスフィートさんが地を蹴り、サマーソルトキックでそれを相殺した。



「・・・なにアレ?ウチの嫁さんメチャメチャ格好良いんですけど!!」



 しかしモックは、あんな顔して空手の達人だったのか!


 ミスフィートさんが徒手空拳で闘ってる理由は、俺や親父と同様、相手の戦闘スタイルに触発されたのだろうと推測される。


 俺達と違ってメチャクチャ格好良いけどな!!



 こちらの視線に釣られたのか、ガチョピンもその攻防を見て目を輝かせていた。



「ガチョピンよ、すまなかった!俺もワケの分からんフリッカーなんかヤメて、これからは真面目に闘おう!ただし蹴りは使うからな!」



 それを聞いたガチョピンがこちらを向き、真剣な表情で拳を構えた。

 異種格闘技戦なので、オーソドックススタイルに変えたようだな。



「赤い流星、参る!!」



 ドゴッ! ガギン!



 一気に間合いを詰め、低い姿勢からボディーに右拳を叩き込んだ。


 しかしガチョピンは敢えてその攻撃を避けず、拳がボディーに突き刺さった瞬間右フックを放ってきたので、避け切れずにヘルメットでそれを受けた。



「ぐおおおおおおお!メチャクチャ痛えええええええええええ!!」



 しかしすぐに、ふと重要な事を思い出して平然を装う。



「いい拳だ。ヘルメットが無ければ即死だった」



 頭がクラクラするが、とりあえず名セリフのノルマ達成だコンチクショウ!!

 

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