第617話 ガチョピン&モック+白いの

 親父がポコポコちゃんを撃破したは良かったものの、その代償は高くついた。


 倒れた相棒を見て憤慨したペロペロちゃんが、練乳の津波を発生させて、辺り一面を練乳の海にしてしまったからだ。


 どう見ても体積を遥かに超えた練乳が放出されたのだが、おそらく水魔法みたいなもので、俺や親父の常識に当て嵌まらない現象なのだろう。


 ただとんでもない大技を繰り出したせいかペロペロちゃんも力尽き、そのまま練乳の海に沈んでいった。もちろんポコポコちゃんも練乳の底に沈んでいる。



「・・・もう帰りてえ」

「身体中ネチャネチャなのもキツイが、乳臭くて叶わん」

「父だけにね!」


「「・・・・・・・・・・・・・・・」」


 グミがナイスなボケをかましてくれたが、気分が悪すぎてツッコミをいれるパワーすら失われていた。


「とにかくココで黄昏ていてもしょうがない。とっととボスを撃破して大自然ゾーンの湖で練乳まみれの身体を洗おう」

「それだ!」

「被害者がいっぱいだから、湖が混み合いそうだね~」

「よし!水位・・・、いや、乳位が下がって来た。先へ進むぞ!」

「向こうで練乳に足を取られて豪快に転んでるのが何人も見えるが、助けに行かなくても大丈夫なのか?」

「ふなっぴーも弱体化してたし、練乳攻撃は敵味方関係なく被害を与えたようだ。たぶん大丈夫だろう」

「ホント迷惑な人形だね!甘くて美味しいけど!!」



 グポッ グポッ グポッ グポッ



 全員靴の中がドロドロのネチャネチャなので、歩く度に悲しい音を発しながら、一歩ずつ前へと進んで行った。


 ただ人形達も練乳ゾーンには入りたくないようで、地面がネチャネチャなのが幸いし、ガチョピン&モックのいる玉座まで安全に進むことが出来た。




 ―――――ふんぞり返っていたガチョピンとモックが、玉座から降りて来る。




「とうとう、お前らと戦う日が来たか・・・」

「そもそも着ぐるみって戦う為のもんじゃねえだろ!」

「知り合いなの?」

「いや知り合いではないが、こっちが一方的に知ってるんだ」

「ガチョピンが構えた。来るぞ!」


 ギュポッ


 くっ!

 足がネチョネチョで気持ち悪い。


 しかしヤツは、着ぐるみのくせにどんなことにも挑んだ真の挑戦者チャレンジャーだ。

 これしきのことで泣き言を吐いていたら鼻で笑われてしまう!


 タタタタタタッ


 ガギーーーーーーーーーーン!


 ガチョピンの拳をメイスで受け止めると、金属と金属がぶつかり合う甲高い音が鳴り響いた。


「やっぱり普通の着ぐるみじゃなかったか!メイスを選んで正解だったな」

「緑色でモコモコした見た目なのに、カッチカチなのかよ!」

「お義父さん!赤いのが変な動きしてるよ!」

「なにッ!?」


 タタタタッ


 ビュオーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


「うおッッ!」



 危険を察知して向かって行った親父だったが、モックの口から冷たい息が放たれ、いきなり辺り一面猛吹雪となった。



「「マジかよ!!」」


「冷たーーーーーーーーーーい!!」



 そういやこんな真っ赤な顔してて、実は『雪男』なんだっけ?

 もう誰もが忘れてるような設定を復活させんなや!


 練乳まみれだったのが災いし、俺達三人は強制的に冷やされた練乳により体の芯から震えあがった。



「親父!練乳を冷やすのヤメてくれるよう言ってくれないか?」

「そんな余裕ねえよ。おい、ガチョピンだ!」

「うおっ!!」


 ギン ガギン ゴイーーーン


「ワンツーからのショートアッパーとか、ボクサーかコイツは!!」

「運動神経の塊みたいなヤツだからな。とにかくモックは俺が何とかする!」

「頼んだ!」


 親父がモックに向かって行ったその時。


「親父!!」


 ドガッ!


「ごはッッッゥ!」


 横から白いおっさんが駆け寄って来て、親父にドロップキックをしやがった!!


「不意打ちでドロップキックかよ!親父、大丈夫か!?」



 立ち上がって服の埃を払っている白いおっさん。


 よく見るとそいつは白いスーツに頭髪まで真っ白で眼鏡を掛けた、唐揚げチキンでお馴染みのマスコット、『サンダー大佐』その人であった。


 いや、人形だけど。



「いってええええ!・・・って『サンダー大佐』じゃねえか!!」



 大佐は畳み掛けるようなことはせず、闘魂ポーズをとっていた。



「親父、いきなりドロップキックを放った直後にあのポーズ、大佐はもしかするとプロレスラーなのかもしれん!」


「プロレスラーだと!?だったらその白いスーツを脱げや!」



 しかしまいったぞ・・・。俺はガチョピンの対処で精一杯だし、親父は突然現れた大佐に挑発されている状態だ。


 グミ一人でモックと戦わせるには少し荷が重い。



「小烏丸ずるいぞ!私もボスと戦いたい!」



 聞き慣れた声が背後から聞こえたと思ったら、ミスフィートさんだった。



「素晴らしいタイミング!ミスフィートさん、あの赤い人形をお願いします!」


「赤い人形?」



 ミスフィートさんが、相変わらず口から吹雪を吐きまくっているモックを見た。



「強いのか?」


「一応ボスの片割れですからね。冷やすだけの人形じゃないハズですよ」


「そうか!じゃあ赤いヤツは任せろ!!」



 タタタタタタタタッ


 ミスフィートさんがモック目掛けて俺の横を走り抜けて行った。



 よし、これで役者は揃ったぞ!

 他の人形は仲間に任せて、俺は目の前のガチョピンに集中だ!

 

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