第599話 セレスティーナの想い

 どうもセレスティーナの叫んだ言葉が頭から離れず、この精神状態で営業の仕事をするのは無理だと判断し、今日は信号機・標識・遮断機などを作って過ごした。


 少し気まずい状態ではあるんだけど、いつものように精の付く料理を食べ、風呂で身体を清めてからセレスティーナの部屋に入った。



「って、セレスティーナも瞑想中かい!!」



 ベッドの上で、綺麗な姿勢で正座をしながら目を閉じているだけなんだけど、レムの時と同じような感じがしたのでそう思った。


 しかしこのまま瞑想を見守っていても埒が明かないので、セレスティーナの側まで歩いて行く。



「準備が出来たぞ!ご主人様、私の胸に触れるがよい」


「なにィ!?いきなりその脂、・・・胸からいくのか。わかった」




 ―――――セレスティーナの胸に触れた瞬間、景色が歪んだ。




 ヴォン



「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」



 そこは街の中だった。

 どこの街なのかは知らんが、人がいっぱい歩いている。



「なんじゃこりゃあああああああああああああああああ!!」



「よし、成功だ!!」

「これってレムの時と同じ現象なんじゃないのか!?」

「なるほど、やはりレムも固有結界を使って時間を得たのか」

「でもレムワールドは無人島だったぞ?人間なんて一人も歩いていなかった」

「私にも人間を創り出すなんてのは不可能だぞ?」

「いや、いっぱい歩いてるじゃん!!」

「これらはただの幻影だ。人間を創造するには私程度の魔王では力不足だ」

「そういやレムも限界があるようなこと言ってたな~」


 ゼーレネイマスくらいの大魔王ならば、もっと凄いことが出来るんかな?


「ところで俺達が暮らす家ってどこにあるんだ?」

「そこにあるぞ!」

「なにッ!?」


 セレスティーナが指差す方向を見たけど、小さな物置しか見当たらない。


「いや、どれだかわからんのだが・・・」

「その小さな家だ」

「いや、それって物置だろ?」

「物置ではないっ!!」



 セレスティーナに腕を引かれて物置の中に入った。



「おおう、これって家だったのか・・・。でもホントに寝るだけのスペースしか無くね?・・・あ、そっちに扉があるな」


 扉を開けるとトイレだった。


「いやいやいやいや!ココって布団とトイレしかないじゃん!」

「それだけあれば十分ではないか!最初は家など作らない予定だったのだが、トイレくらいは必要だと思って一応用意したのだ!」

「メシはどこで食うんだよ!布団の上で二人並んで貧相に食べるの?」

「暮らすのは基本的に外だぞ!」

「はい?」


 ダメだ・・・、セレスティーナの行動原理がまったく理解できねえ。

 くっころさん主導だと、こんなに意味不明な生き物だったのか・・・。


「よし、ちょっと私について来い!」


 ガチャッ


「いきなり外出っスか?」



 セレスティーナに連れられて、露天の前までやって来た。



「串焼き肉を二つくれ」

「あいよ!白金貨2枚だ」

「クッソ高ぇなおい!!」


 セレスティーナが白金貨を2枚渡し、無事串焼き肉をゲットした。

 白金貨に赤い流星の顔が描いてあったような気がするが、気にしないでおこう。


「美味いな・・・。あれ?この串焼き肉って、どこかで食った記憶があるな」

「越後の国の露店で買って食った思い出の串焼き肉だぞ!」

「あ~、なんか覚えてるぞ!確かショーナンで食ったんだっけかな?」

「私はずっと佐渡ヶ島にいたから、越後はショーナンの街しか知らんのだ」

「あ、そっか!セレスティーナが旅の間に体験したことが、この世界では重要となってくるんだな」

「もちろんだ!そっちに大福屋もあるぞ」

「なんかすげーな!」


 自分で世界を創造すると何でも出来るんだな・・・。

 しかし代償として寿命を削るってのはかなりエグい。


「セレスティーナもレムと同じく、世界の構築で寿命を削ってしまったのか?」

「なあに50年程度だ。ご主人様が気にするほどのことではない」

「レムより20年多く削ってるじゃねえか!ちょっとそういうのマジでヤメて!」


 真っ直ぐ俺の目を見ながら、セレスティーナが真剣な顔で語り始める。


「いずれ私はご主人様がいなくなった世界を生きねばならなくなる。だがご主人様との子供がいればその孤独にも耐えられると思う。空虚な50年に一体何の価値があるだろう?今私が欲しいのは目先の幸せだけなのだ!」




 ―――その言葉に心を打たれた。俺は彼女を幸せにしなければならない!




「わかった。そのささやかな望み、俺が必ず叶えてやる!」



「・・・マスクを脱いでくれ」



 マスクを脱いで素顔を見せると、セレスティーナが俺の目を覗き込んだ。



「ほう、少しだけ良い目になったな!でもまだ半分だ」

「そういや朝も言ってたな?一体何のことなんだよ?」

「子作りを始める前に、しなければならないことがいくつかある」

「しなければならないこと?」


 セレスティーナが服を脱ぎ始めた。


「待て待て待てーーーい!なぜ脱ぐか!?おっさんどもに見られてるって!!」

「ご主人様も服を全部脱ぐのだ!裸で街を1周するぞ!!」

「な、なんだってーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!?」



 こうして俺とくっころさんの、一ヶ月にも及ぶ奇妙な露出生活が幕を開けた。

 

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