第3話 実力の違い
まさか速攻で断られるとは思ってなくて、ショックで聞き返した。
「な、なんでダメなん?」
彼女が壊れたテーブルの足を二本へし折り、一本を投げて寄越した。
「構えろ」
木刀の代わりか?
俺だって多少は刀の修行してたんだ。一泡吹かせてやる!
鞘は無いけど、抜刀術の構えを取った。
「ほう、面白い構えだ。武術の経験はあるようだな」
「準備は出来てます。いつでも始めて結構ですよ」
狙いは一つ、後の先を取る。
相手に仕掛けさせ、それに合わせてカウンターを狙うやり方。
動体視力には自信があるんだ。彼女の動きさえ見切れば一太刀浴びせられる。
「じゃあ行くぞ?」
動きさえ見切れば・・・。
バキッ!
「がはッ!」
相手が動いたと思った瞬間、胸から腹にかけて激痛が走った。
痛みで地面に膝を付く。
な、なんでだ!?彼女の攻撃がまるで見えなかった。
「わかったか?コガラス、マル。キミは弱すぎる。その程度じゃ軍に入っても生き残れない」
ミスフィートってこんなに強かったのか・・・。
ということは、彼女が戦っているジャバルグってのも同等。
そんな怪物を相手に、今の俺が軍に入った所で戦力になんかなれやしない。
なんてこった・・・、この世界の戦士って化け物揃いじゃねえか。
「助けられたくらいだから当然なんだけど、こんなにも力の差があったとは・・・」
「キミがどうやって此処に辿り着いたのかは知らない。だが魔物と戦ったことも無いんじゃないか?」
「魔物!?この世界には魔物がいるのか!!」
「まずは魔物と戦って戦って戦い抜くのだ。そしてキミが強くなった時、我が軍はキミを、コガラスマルを迎え入れよう」
魔物か・・・、もしかするとこの世界ってレベルとかあるんじゃないか?
それならば彼女の動きがまるで見えなかった説明が付く。
そうか、魔物を倒して強くなれば彼女の軍に入れるんだな?
ハハッ、やってやろうじゃないの!
悔しいが俺は憧れてしまった。彼女の強さに!その生き様に!
ならば後は強くなるだけだ!強くなって彼女の軍に入り、このふざけた世界で成り上がってやる!
「わかった。俺は絶対に強くなる。その時はミスフィートさん、貴女の軍に入れてくれ!」
「いい顔だ。期待しているぞ?・・・少し待っていてくれ」
彼女はボロ小屋を出て行った。
すぐにでも魔物を倒したいけど、待ってろと言われたからじっとしてるか。
10分ほど経っただろうか?ミスフィートがボロ小屋に帰って来た。
「これを持って行け」
剣だ。新品の剣ってわけじゃないが、武器一つ持ってなかったのでこれは有難い。
「ありがとう!丸腰だったのですごく助かります!・・・でも本当にこの剣を貰っても良いんですか?今の俺には何も返す物が無い」
「構わんよ。キミが強くなって私を助けてくれる事に期待しよう」
先行投資って奴か。・・・いや、本心では期待などしていないだろう。これは俺を見捨てることが出来ない彼女の優しさだ。なんか涙が出てきそうだ。
「腹が減っているだろう?魔物の肉を持ってきたから、これを食ってから出発するといい」
「あ、いや、そこまでしてもらうのは、さすがに悪いです」
ミスフィートはニヤリと笑いながら肉を焼き始めた。
焼き上がった肉を皿に入れて彼女が俺に渡して来た。
そして違う器に水筒から水を注ぐ。
「食える時にしっかり食っておけ。こんな国にいたんじゃ、次にいつ食えるかなんてわかりゃしない」
肉を口に入れる。
獣臭くて少し硬い肉だが、俺は今まで食事でこんなに美味いと思ったことは一度も無い。
格好悪いけど、勝手に涙が出て来て止まらん。
俺は心の中で強く誓った。絶対に彼女を助けてこの国の大名にしてみせる!
・・・・・
「何から何まで本当にありがとう!いつになるかはわからないけど、この恩は必ず返します!」
「ハハッ、期待して待っていようじゃないか」
「よし!俺はそろそろ行きます。魔物を倒しまくってやる!」
「それなら東へ行け。この小屋の入口を出て真っすぐだ。東には川があるから水に困らんで済む」
「なるほど川か・・・。その情報はすごく助かります!」
「いきなり死ぬなよ?」
「死んでたまるか!!ではミスフィートさんもお元気で!ご武運を祈ります!」
「こがらすまるもな!」
そうして俺は、心に決めた主君と別れ旅に出た。
酷い世界に来てしまったけど、本当に素晴らしい人に出会えたな!
日本で土木作業員なんかやってたって、こんな風に人生の目標を立てるなんてことは、きっと死ぬまで無かっただろう。謎の穴に落ちたことを今は感謝している。
「何だテメーは!?」
「怪しい奴だ。殺せー!!」
イカン、腐れ外道共に見つかった。
すかさずスーパーダッシュで逃亡する。
一瞬で逃走したのでモヒカン共は茫然としてたが、我に返って追いかけて来た。
ヤバイ!アイツら無茶苦茶足が速くて、すぐにでも追いつかれそうだ!
建物を上手く使って、時には隠れながらやり過ごし、なんとか撒くことが出来た。
逃亡劇で疲労困憊になり、物陰で大の字に倒れ込む。
謎の穴に落ちたことを感謝?すいません、気のせいでした!
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