#8 週明けの憂鬱


 今日は月曜日、快晴。

 新しい一週間の始まりです。



 私の一日は、お姉ちゃんよりもいち早く起きて、その可愛い寝顔をたっぷり拝見させてもらった後に、お口にチューしてから始まる。


 お姉ちゃんは基本的に、決まった時間が来るまでなかなか起きない。


 それこそ、チューしたり、色々したりしても起きない。

 さすがにやり過ぎたら起きちゃうけど、コレくらいなら大丈夫だと確信しての犯行である。


「ちゅっ……ふっ……」


 これが一度始めると、なかなか終われないのだ。

 それこそ砂漠を三日三晩歩き回って、倒れる寸前に見つけた泉で喉を潤し続けるくらいに辞められない。


「ん……む……」


 ていうか本当に、なにか夢中になるような成分でも入っているのではなかろうか。

 まさか、お酒やタバコが辞められなくなるのはこんな感じなのか!?

 それなら辞めようと思っても出来ないのに納得できる。


 ていうか『夢中』って。

 まあ、私はお姉ちゃんに夢中ですけど。

 今実際にお姉ちゃん『むチュー』してるけど。


 うわっ、めっちゃ寒い。

 けど心と身体が温かい。なら良し。



 そんなこんなで夢中になっている私に「ピピピッ」と自分の設定した小さめのアラームが、「時間ダヨ!」と注意喚起をしてくる。


 そう、夢中になるって分かっているのであらかじめタイマーをセットしてあるのだ。

 さっすが私! 頭良いー!


「ん……ふぁ……」


 タイマーの音が鳴ってもやっぱり起きないお姉ちゃんからゆっくり唇を離すと、透明のキラリと光る線が、私とお姉ちゃんを繋ぐ架け橋となって現れる。


「うっは、えろい……」


 私が時間を確認すると、七時十五分。

 あと五分でお姉ちゃんが起きる。

 あっ、四分になった。


「うぅ……くそー……」


 私はお姉ちゃんの唇を綺麗に拭くと一階に戻り、既に朝ごはんの準備が完了しているダイニングへ行く。


 自分の、苺ジャムのかかったトーストに、スクランブルエッグとハムとチーズのおかずを全て平らげると、メモ書きを残して食器を片付ける。


「あぁー。お姉ちゃんと一緒に食べたかったのになー……」


 私は手を洗うと、トイレへと向かって、トイレの前に掛けてある札を『使用中でし』へと切り替える。


 スカートとパンツをちゃちゃっと脱いで、いざ始めよう。

 お姉ちゃんのあられもない姿を妄想して、自分を慰めるのだ。


 さっきの光景が頭から離れないでいる。


 お姉ちゃんと私の混ざり合った架け橋が、二人が離れてしまうのを名残惜しむように繋がるところ。


「はっ……お姉ちゃ……」



 胸は触らない。服の上からだとしわになっちゃうし、なにより脱ぐ時間も無い。



 少しずつ小さな波が蓄積していき、遠くからだんだんと強い波が押し寄せてくる。

 一番大きい波を優しく迎えるように、身体が小刻みに震えだす。


 ……よし、あと少しっ。



「ふっ……ん……」



 あと数秒。といったところで、突然。

 トイレのドアにノックが掛かった。



「うぇ!?」


 思っても無かった、突然のことで、スルッと思わず指が滑った。


「あっ……」


 どこに、とは言わないが私に私が突き刺さってしまった。


 それはもう、伝説の剣が神々しい台座に深々と刺さっているように。

 アイスの棒がアイスにがっちりと刺さっているように。




「鈴音?」


「……あ、くッ、ふぅぁ!!」


 お姉ちゃんの優しい声と、私の弱いところを手加減無しで貫いた己のお陰で、朝から大変大きな快楽を得てしまった。



 なお、頭が一瞬真っ白になった時に頭に浮かんでいたのは、「鈴音……?」と期待する表情で顔を赤らめながら、とても際どい格好で私に向かって開脚する、お姉ちゃんだった。



「ど、どうしたの!?」


「う、うん……だいひょうぶだから……だいひょうぶだから、おねえひゃ、ん……」


「全然大丈夫じゃ無い気がするけど!?」



 その後、いつも通りに準備を終えて、お互いで身だしなみをチェックして家を出るのが八時十分。


 お姉ちゃんとキャッキャウフフしながら、すれ違う人に挨拶をして登校するのが三十分。



 今日も今日とて、無遅刻無欠席で校門をくぐる。



「おはよう! 鈴音ちゃん!」


「おはようございます! 真那様!」


「今日も天使と女神が……」


「はぅ! 生きてて良かったぁ……!!」



 門を潜ると、私たちを見つけた生徒たちがそれぞれ一気に声を掛けてくる。


 私たちは、挨拶をくれた人たちに笑顔で挨拶を返す。


 それを機に、お姉ちゃんと私の肩の距離がちょっと離れる。



「はぁ……」



 今日も今日とて、お姉ちゃんと離れ離れになる、憂鬱な時間が始まるのであった。


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