姉(変態)と妹(変態)の密かな恋愛譚

小野

第一章

姉と妹の日常

#1 つまり私は妹が好きなのだ


 私には、それはそれは可愛い妹がいます。



 『可愛い妹部門』世界一を狙えるんじゃないかって本気で思ってます。はい。


 歳は十六の高校一年生。

 私と同じ高校へと進学してくれた優秀で天使な妹の情報は、三年生である私の元まで易々と届く。


 学年主席で入学を果たした妹は、持ち前の明るさと人懐っこさ、そしてなんと言ってもアイドルに女優顔負けの類い稀なる容姿で周りの人を軽く圧倒した。


 妹が入学してから半月ほど経った今、妹の告白された回数は二十を優に越していると聞く。



「すーっ、すーっ……」



 私は、そんな自慢の妹が大好きだ。

 子どもの頃からせっせと私の後に付いて来ては、ニコニコと微笑んでいる妹。


 家族みんなで何処かにお出掛けしても、手を繋ぐのは両親では無く、ずっと私と手を繋ぐ妹。



「はぁ……はぁ……」



 幼稚園で絵を描いた日には、毎度のように私の描かれた絵を嬉しそうに見せに来て、将来の夢には『お姉ちゃんのお嫁さん』なんて書いて嬉しそうに発表してしまう妹。


 お風呂に入る時にもいつも一緒で、その一糸纏わぬ可憐な姿を惜しみ無く晒す妹。



「んっ、はぁ……はぁ……」



 ったく誰だよ、さっきから息遣いがうるさいな。私は妹の成長の記憶を反芻はんすうするのに忙しいっていうのに。


 そう思って今一度辺りを見渡して見れば、そこは可愛らしい物で溢れ返った、妹の部屋。当然、そこに妹の姿は無い。

 つまり妹の部屋に居るのは姉の私の一人だけ。


 視線を自分の手元に戻してみると、ガッチリと私の両手に握られた妹のパンツ。



「あ、鼻息荒かったの私だったわ……」



 愛する妹の温もりと、そこに僅かに残っているかもしれない甘露な匂いを本能的に求めてしまった私は、妹のいない時間を見計らって妹の部屋に侵入し、タンスを開け放つと、妹の着用率の高いお気に入りパンツに手を掛けたのだ。


 前側に小さなピンク色のリボンの付いた、可愛いらしい純白のパンツ。

 再び鼻に強く当てると、「すぅーーーっ」と思い切り匂いを吸い込む私。


「うへへぇ……」


 妹パンツからは私と同じ柔軟剤の匂いがするが、妹が履いていたという事実さえあれば、ぶっちゃけ匂いなんかしなくても妄想でどうにかなる。


「ハッ!! そ、そうだわ……」


 私はここであることを思い付く。

 妹の繊細な場所を優しく守る純白のパンツと、妹の豊かなお胸を影から優しく支えるピンク色のブラジャー。


 二つが揃った時、本当の至高が顕現けんげんするのでは無いか。


「さ、さっそく試してみないと……」


 私は思い立ったや否や、急いでヨダレを拭き、タンスの中から綺麗に畳まれた妄想のそれと寸分も違わない妹のブラジャーを手に取った。


「私は……今日で死んでしまうかも知れない」


 期待と期待を胸に、いざ二つの神々しいそれを己の鼻へと近付けて……。



「ただいまー!」



 元気な声を上げて、玄関を開ける音。



「うぇ!? も、もう帰ってきたの!?」



 ビックリして飛び上がる私。

 嗅ぐのを中断し、急いで辺りを見渡して今の状況を見ると、次から次へと物色し過ぎて、妹の下着が空き巣にあったかのように散乱した部屋。


 たちまち私の顔が青ざめていくのが、手に取るように分かった。



「お姉ちゃーん? 帰ってるのー?」



 や、ヤバいヤバい!

 このままじゃ、実の姉が自分の下着を物色して嗅いでは、恍惚の表情を浮かべている変態の絵が見られてしまう!


 別にこの状況を見られてしまうのは私的には問題は無いのだが、我が愛する妹に「うえ、お姉ちゃん気持ち悪い……」だったり、あまつさえ「お姉ちゃ……いや、すみませんが、私の部屋から出てってもらえますか?」などと他人行儀に話されたあかつきには、生きる希望を消失してしまう。


 どうしてもそれだけは避けなくてはならない。


「おかえりーっ! わ、私ならここに居るわよー!」



 私は妹に変に思われないように、妹へと返事をしながら、急いで整理を始める。



「分かったー! 今行くねー!」



 妹が私の声に嬉しそうに返事をして、軽快な足取りで近付いて来るのが分かる。


 これだと一分も掛からない内に妹はここへ辿り着くだろう。

 しかし、私は妹のタンスの中の下着の配列を完璧に頭に入れてある。

 三十秒もあれば、今のこの惨状を完全に元に戻すことが可能だ。



「私は風よりもはやいッ!!」



 散乱した下着を一気に掴み、タンスの上に全て乗せると、目にも留まらぬ速さで畳んではタンスの中へと入れていく。

 今の私は千手観音せんじゅかんのんだ。全ての手が各々に別の意識があるように動くのだ。



「ッ!! ヤバいっ!!」



 千手観音妄想むなしく、手が滑って一つの下着を取りこぼしてしまう。

 それは、先程まで一番に嗅いでいた、妹のお気に入りのパンツだった。



 時が止まり、思考は加速する。



 ここで選択を誤ってはならない。

 たった一つの誤答が世界の破滅を招く。


 両手が塞がっている中、地に落ちていくパンツをどう拾うのか。

 既に妹はすぐ側まで来ている。

 悠長に拾っている時間は無い。


 私は手を動かしながら、自分の頭をかつて無いほどの速さで回転させた。

 考えろ私。どうやったらこの窮地を脱することが出来る? お前は誰だ? お前に一体何が出来る?


 そうだ、私は妹の姉だ。




 ────私は、妹に嫌われない為なら光速をも越えられる。




「ッ!!」


 私は目をカッと開くと、下着を畳んでタンスに入れるスピードを一段と速くする。

 そして、宙を飛ぶパンツが油断した刹那、己の頭を猛スピードでそれに近付けた。


「そこだッ!! あむっ」


 私は落ちるパンツを口でくわえることでキャッチした。



「うむッ!?」



 今まで試そうとしても、心の何処かで制御もとい、封印していたのか、どうしても出来なかったパンツを口に含むという行為。


 その封印を解き放ったその瞬間、私の頭の中は妹の色々な表情で埋め尽くされた。



『お姉ちゃん!』


 嬉しそうに駆け寄って来る妹。



『おねぇちゃん』


 寝ぼけた頭で私を呼ぶ妹。



『お姉ちゃん……』


 悲しそうな顔で私に言う妹。



『お、お姉ちゃん!?』


 驚いて、顔を赤くする妹。



『お姉ちゃん♪』


 楽しそうに、緩やかに頭を左右に揺らして言う妹。



ふぃけるイケるッ!!」


 私は一段と、いや五段くらいスピードアップして、タンスの中に継ぎ、余力で部屋全体をも綺麗にしていく。



「っ……お、お姉ちゃん! 先に帰ってたんだ!」



 私が全てを完璧に施し、いざドアの方へ身体を向けた瞬間、妹が部屋に入って来た。

 微妙にその頬は紅くなっていた。



「え、ええ。お夕飯の買い出しがあったから」


「そうなんだ。言ってくれれば一緒に行ったのにー!」


 私はどうにか息を殺して、荒くなった息を潜ませる。服の中の汗が滝のようだ。



「いいのよ、ちゃっちゃと済ませてしまいたかったから」


「そうなんだ。それで、お姉ちゃんは私の部屋で何をしてたの?」



 妹の素朴な疑問にビクッと肩を震わす私。

 まさか今のバレてないよね?



「ちょっと私の部屋と合わせて、ついでに掃除していたのよ」


「あ、そうなんだ! ありがとね、お姉ちゃん!」


 そう言って私に近付いて来て、ピタッと腕に引っ付く可愛い妹。

 ま、またそんなに引っ付いて……。

 豊かなお胸が私の腕を挟んでいますよ。

 実にけしからん。鼻血が出そうだ。



「良いのよ。さ、下に行きましょうか」


「うん! 今日の晩ご飯は何かなー?」



 私たちは腕を組んだまま一階へと降りていく。


 妹の『桜本さくらもと 鈴音すずね』は楽しそうに鼻歌を歌っている。




 そんな私は妹のパンツをポケットに突っ込んで、モニモニといじりながら冷や汗を流していた。





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