純愛
それは運命だった。本などでは生々しく表現されるが、実際に行ってみると、そんなことはない。そして、僕は仮に今やっていなくても、近いうち必ずこの行為を行っていた。それほどまでに魅力的なのだ。
突き刺した時の背徳的な感覚、流れ星のように滴る血、砂漠の砂のような色に変色していく肌、紫色の唇、濁っていく瞳。リアルタイムに変化していく彼女の様子を見て、背中からゾクゾクとした感覚が僕を襲う。生命が失われて、生物からモノへ変化する過程が僕の目の前で起きている。まるで幼い頃に遊園地のパレードを見た時のように。見ていて涙が出そうだ。
体が火照っていることから、僕はかなり興奮しているらしい。心臓がバクバクとうるさい。身体全体の血流が騒いでいる。それもそうだろう。なぜなら初めての体験なのだから。
僕は、人を殺した。
彼女は僕の幼馴染だった。家が近く、家族ぐるみの付き合いだった。仲は良かった、といっていいか微妙なところだが、決して悪くはない。時に喧嘩し、時に支え合う。良い関係を築けていた。と、僕個人は思っている。
きっかけは些細なことだった。彼女の身体を僕のものにしたいと思ったからだ。その気持ちを抑えきれなかった。生きている人間は僕にふさわしくない。何もかも劣っている僕には、進化し続ける生物より、終わってしまったモノがお似合いだ。僕は昔、人間より人形と遊んでいた。人間と会話しても、誰も僕の目を見て話してくれないし、理解しようとしてくれない。人間と会話を終えたあと、僕のいないところで馬鹿にしているだろうという不安が、どうせ何もできない僕を裏で嘲笑うという心配が、どうしても消えなかった。そのせいで、最初から僕の意思でしか動けない人形にしか心を開けなかった。人形なら勝手に行動して、僕を馬鹿にしたりはしない。
けれど、彼女は生きている。そして、僕はどうしても彼女が欲しい。だから殺すしかなかった。彼女のどこに惹かれたのだろう。僕自身にもよくわからなかった。
僕は生きていた彼女と、人という生物についての話をした。人は完成されすぎた生き物だと僕は思う。音楽や芸術、文芸などは本来生きる上で必要でない。生きる、ということを念頭に置けばミジンコくらいが丁度良い。人は生きる上で生物を犠牲にしすぎている。だから人がいなくなれば、世界はより綺麗に見える。人が増えた結果、世界は環境汚染で悲鳴をあげているし、本来見えるはずの景色はアスファルトやコンクリートで潰されている。人は世界にとって邪魔なんだ、滅びるべきだ。僕は彼女にそう語った。
彼女は僕の話を聞いたあと、柔らかく微笑んでこう言った。
じゃあ、私を殺してよ。あなたに殺されるなら本望だよ。
──ありがとう。
何故人を殺してはいけないのか?という議題があがることが、人生の中で一回はあるだろう。自分がされたら嫌だから、法律で決まっているから、殺された人の遺族が悲しむから、人類が滅びるから、などなど様々な理由があげられただろう。
しかし、どれも違うと僕は提言する。
もっとシンプルな理由がそこにはあった。人を殺してみて、初めてわかった。なんで今まで気づかなかったのだろう。みんなは知っていたのだろうか? いや、そうに違いない。ああ、なんて僕は愚かなのだろう。気づいた時にはもう遅い。僕は夢の国ではなく、抜け出せない地獄に辿り着いた。
「コレは、癖になる」
そして僕は、終わってしまった彼女の身体を抱いて接吻をした。これで彼女を愛することができる。なんて美しいのだろう。
僕はそのまま彼女の服を裂いて、僕の一物を彼女に突っ込んだ。段々と冷えていく彼女の身体、相反するように温まる僕の身体。まるで彼女の体温を僕が奪っているようだ。贅沢なことをしているようで、さらに僕を興奮させた。数分もせず僕は彼女の膣内に射精した。
あがった息を整えてから、彼女に刺した刃物を抜いた。激しく動かしたので、彼女の髪が乱れている。僕は手櫛で整えた。元通りとは言えないが、少しは良くなっただろう。
綺麗な身体を観察して、僕はある一つの疑問が浮かんだ。彼女の外見はとても美しいが、中身も美しいのだろうか?
気になったので、確認してみよう。刃物を再び刺したところへ置き、そのまま彼女の胴体を縦に引き裂いた。臓器がてらてらと光っていて、ぎゅうぎゅうに詰まっていた。スーパーの精肉コーナーにあるソーセージを思い出した。胃や腸の中身を外から触って確認したが、何も入っていなかった。感触は生暖かい水風船に似ていた。臓器はどれも鮮やかで綺麗な色をしている。このまま生で食べても身体に害はなさそうだな、と思わせるほどだ。
よかった、彼女は外も中も綺麗な人だった。
安心したら睡魔が僕を襲った。そういえば昨日から彼女のことを考えっぱなしで、一睡もしてなかったんだ。僕は横になって彼女を抱いた。血が僕につく。彼女の生きていた証。このまま僕の細胞に染み込ませよう。
じゃあ、おやすみなさい。
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