ドームの光

Strong Forest

1 ドームの光

 仄暗いドームの中央に明かりが灯っている。

 目を凝らすと、その煌きが揺れているのがわかった。

 白く光る溶液に浮かぶ男。それが光源の正体だった。


 溶液に浮かぶ男の体は、無数のコードに繋がれており、それらのコードは巨大な立方体へと繋がっていた。

 男は起き上がると、水槽から出た。体中にまとった水滴が足跡を濡らしていく。コードは無遠慮に跳ねながら、男の体から離れていった。

 男の周りをふわふわと漂うホログラムの妖精がいる。

「お疲れ様」

 妖精は、はためかせた羽根から、キラキラ光る鱗粉をまき散らしながら人間を労った。

 台座に置かれたタオルで体を拭く。台座の引き出しから衣服を取り出し身に纏う。

「除染率25.1%か。まだまだ道のりは長いな」

 壁面中にはめ込まれた、数えきれないほどのモニターに表示されたグラフや波形、数値を目で追う男。


 モニターをチェックし終わった男は、防護服を着るとドームの端にあるエレベーターで地上へと出た。

 地上に出た男は、左手首にあるボタンを押し、防護服の飛翔機能をオンにした。曇天を仰ぎつつ、空に浮かび上がる男。右前腕部に備え付けられた観測モニターを見ながら、それぞれの観測ポイントに赴き、除染機械の稼働率や、チェック、メンテナンスを行う。

「確かに濃度は下がっているが牛歩のほうがまだましだな」

 放射能の濃度は下がっている。しかし気の遠くなる作業だ。イプシムに除染完了期間を再計算させても、誤差は微々たるものだろう。それでも、もしかしたら、もっと早くに完了するのではないか、という期待が心の奥から湧き上がってくる。


 エレベーターで地下ドームに戻る男。

「どうだったアスキス」

 妖精のホログラムが聞いてきた。

「稼働率80.9%、問題なかったよ。俺は、これをいつまで続けなければならないんだ。イプシム」

「132回目の同じ内容の質問だね。アスキス、それには何度も同じ回答をしているのだけれど」

「そうだな」

 アスキスと呼ばれたその男は、溜息をつくと椅子に座った。


 薄暗いドームの天井は高く、どこまで続いているのか肉眼では判別ができなかった。見慣れた何もない虚空を見上げ、男はもう一度溜息をついた。

 またあの世界に行かなければならないのか。

 絶滅した人類の記憶の世界に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る