旅立つ前に

勝利だギューちゃん

第1話

階段を登る。

一段、一段・・・


自らの人生の幕を下ろすために。

「負けた役者は、自ら舞台を降りる」

最後のかっこつけだ。


だが・・・

情けないかな、その舞台を自ら降りることは、今日もできない。


こうしてまた、日常へと戻っていく。


これを繰り返している。


この近くには、桜並木がある。

通常は、花見客でにぎわうが、このご時世には、さすがに非常識な人はいないだろう。


桜の花びらが、ここまで飛ばされてくる。

その一枚を手にした。


「あなたは、誇れるほど生きてきた?」

そう問われた。

どこからか、声が聞こえてくる。


花びらか・・・


「驚かないんだね」

「まあね」

「あなたは、なぜ幕を下ろすの?」

「負けたからだよ」

「何に?」


人生はドラマ。

みんなが主役ではない。

必ず陰に回る人もいる。


「あなたの人生は、あなたが主役。なぜ卑屈になるの?」

「俺の人生を見たら、卑屈になる理由がわかる」


桜は、みんなが綺麗と思うから、綺麗になれる。

もし、みんなが醜いと思えば、撤去される気がする。


「世間に抗おうとは思わない?」

「その気は失せた」

「その若さで?」


老いも若きもない。

必要とされなくなれば、自ら去ればいい。


「じゃあ、私だけに見せてよ。君のドラマを」

「俺のドラマ?」

「うん。カーテンコール。君だけが主役」

「二人称が変わったな」

「うん。私の方がはるかに年上だからね」


カーテンコールか・・・

一度は、降りた舞台。

最後に楽しむの悪くない。


「私が、満足するまでは、幕はおろさせないよ」

「わかった。期待に応えるように努力する」

こころなしか、微笑まれた気がした。


「じゃあ、幕を開けるよ。カーテンコールの舞台」


俺は舞台に歩き出す。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

旅立つ前に 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る