第15話 壊れた藤原
銃を構えた藤原が、部屋に足を踏み入れたその時だった。
「藤原!目をつむれっ!やっぱしやつはゴーゴンの力を持っとった!顔見たら石にされてまうぞっ!」
健太郎が大声で叫んだ。
「……分かった」
藤原が静かにうなずいて目をつむり、安眠マスクをしようとした。
「藤原君!心配しなくていいよ!僕は、君に危害を加える様な事は絶対にしない、する訳ないじゃない!さあ、目を開けて!」
雄介の狂喜する声が響いた。
「何を!騙されるかえっ!」
「……大丈夫、僕は顔にレースをかけます。そうすれば石になる事はありません。健太郎さんも大丈夫ですよ、マスクを取ってください」
藤原が恐る恐る、ゆっくりと目を開けた。
すると雄介の言う通り、彼は顔に黒いレースをかけていた。
頭にはシュルシュルと蛇が動いているのが見える。
「おい健、大丈夫や。お前も目ぇ開けろ」
藤原の声に、健太郎も安眠マスクをゆっくり外した。
「……」
藤原には、所狭しと張られている自分の写真、散乱しているコードや倒れている涼子の姿は見えなかった。
彼の目にまず映った物、それはその場に転がっている、坂口の無残な生首だった。
「坂口さんも……やられたんか……」
「お、おうっ……」
突然の藤原の問いに、健太郎が目を泳がせながら答えた。
「や、やつの……ゴホンッ、やつの力はとんでもない
「そうか……そやけど健、何でお前の持っとる鉈が、そない血まみれになっとるんや」
「そ……」
健太郎の顔がひきつった。
「健、まさかお前……」
藤原がゆっくりと、健太郎に鋭い視線を向けた。
(……何か……何かええ言い方は
健太郎の頬に冷や汗が流れた。
その時だった。
「健、お前……あいつに体、乗っ取られたんか」
ナイスナイスナイス!それや!それや!
「……あ、あぁそや……お、俺が坂口さんの首を落としたんや……自分の意志ではどないもならんかった……藤原、俺を殴ってくれっ!坂口さんを殺したんは俺なんやっ!なんぼ体を乗っ取られたとは言え、この手で俺がやった事に変わりはない!藤原、頼むっ!」
健太郎が瞳をうるうるさせて吠える。
その健太郎に向かい、藤原が一喝した。
「健っ!」
その声に、健太郎が口を閉ざした。
「お前のせいやない……気にすんな、気にすんな、健」
「ふ……藤原……」
「健、二人で坂口さんの冥福、祈ろやないか」
「あ、ああ……」
ジョオオオオオオオオッ!
二人がズボンのチャックを開け、坂口の生首に小便をかける。
「坂口さん、往生してくれやっ!」
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏」
その光景を呆然と見ていた雄介が、ポツリと言った。
「あ……あなたたちは、一体何をしてるんですか……」
「見て分からんのかっ!坂口さんの冥福を祈っとるんやっ!」
「め、冥福……?」
そして最後の一滴まで丁寧にかけ終えると、二人は揃ってチャックを閉めた。
「さて……お前がこの大阪を滅茶苦茶にした黒幕やな、会いたかったぞ……」
藤原がゆっくりと雄介に視線を移す。
「正体は分かっとるんじゃぞ中村!一体何のつもりじゃいっ!」
藤原が絶対的な確信の下、大声で怒鳴った。
健太郎が頭を抱える。
しばらく唖然としていた雄介の肩が、小刻みに震えた。
「ち……違いますよ藤原君……僕は中村君じゃありません……」
「へ」
雄介の言葉に、藤原が気の抜けた声を出した。
「ちゃ、ちゃう……中村とちゃうやと……ほんだら誰なんや、お前……」
藤原が眉間に皺を寄せて考える。
そしてしばらくしてはっとすると、ポンと手を叩き人差し指を雄介に向け、これ以上にないドヤ顔で吠えた。
「分かった!石川やなっ!おんどれ、ええ加減にせえよっ!」
「……ち、ちがう……」
「な……い、石川ともちゃうやと……ほんだらお前、
藤原が両手で耳を塞いだ。
「は……はあああああっ……」
その姿はあのムンクの名画「叫び」の様であった。
「分からん……分からん分からん分からん……」
健太郎が藤原の肩をポンと叩いた。
「……おえ藤原、ちゃうって……ちゃうちゃうちゃうって……ボケは二回ぐらいにしとけや……あいつは岩崎雄介や……」
「……」
藤原がムンク状態のまま固まった。
「おえ藤原、聞いとるんか。あいつは岩崎雄介や」
「……」
「藤原っ!」
「へ」
「あいつは岩崎雄介やっちゅうとるんや!中村でも石川でもない!」
「は、はあ……」
「分かったか!い・わ・さ・き・ゆ・う・す・け・やっ!」
「いわちゃきゆーちゅけ?」
「そや!」
「だれ?その人」
「こ・い・つ・や!」
「このひと、いわちゃきゆーちゅけってゆうの?」
「そや!」
「……」
藤原が何やらぶつぶつとつぶやきだした。
「えーっと、このひとがいわちゃきゆーちゅけちゃん。このおにいちゃんがやまもとけんたろーくんで、このくびがさかぐちさん!」
キラキラ瞳を輝かせ、ぶつぶつ独り言を続ける藤原を見ながら、健太郎と雄介が頭を抱えた。
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