第132話「閑話7 ど外道トリオ、6月のギムナジウム」

「やあ聡志君、今日はレベル上げよろしくな」


 札幌中級ダンジョンでレベル上げを行っている、既にレベル64のままずっと停滞の日々が続いている。

 レベル上げを行うメンバーをあれこれ変えて見たが、一向にレベルが上がらない、ならばと野田の後輩で有る、萩尾みのりをメンバーに入れてダンジョンに潜る事となった。


「萩尾さんって何だかイメージと違いますね」

「本当、男の子みたい」


 萩尾の見た目はかなり女性的で、背が低く、胸だけが大きい、それなのにショートカットと短パン、タンクトップで現れ初対面で握手を求めて来たのでかなり戸惑ってしまった。


「涼子ちゃんも僕のような格好をすれば似合うと思うよ」


 僕っ娘っすか、小学生なら稀に居るが、まさか女子大生で僕っ娘が居るとは思いもしなかった。


「萩尾さんも理系の学部なんですか」

「うん建築学科なんだ、北海道で全寮制の男子校を作るのが夢でね。有り難い事にジョブとスキルを手に入れられたから夢が現実しそうなんだよ」


 何で男子校限定なのかが謎だが、学校を作りたいなら普通教育系の学部に進まないか、なんで工学部に進んじゃったのか謎でしかない。


「ジョブは何なの?」

「僕のジョブはね大工なんだ、スキルは木槌や金槌を使った攻撃や、建築関係の物が多いよ。材料を運ぶための筋力アップも有るけどね」


 正確に言うなら黒鍬衆、と言う建築を行う戦闘職のようだ、スキルに槌系の戦闘スキルが有って、建築系のスキルも取得している。

 ダンジョン工作隊に居た建築家のように建築だけに特化はしていないようだ。


「萩尾さんは、その格好でダンジョンに入るつもりじゃ無いよね、着替えはどうしたの」

「この格好じゃ駄目かな、戦い易いんだけど」


 それは駄目でしょ、野田や小田切はこんな格好でダンジョンに挑んでいたのだろうか、野田が病を得て死にかけて居たのは、こんな格好でダンジョンに挑んで居た事も原因かも知れないな。


「私の着替えじゃ無理ですよね、野田さんか和美さんに借りないと駄目か」


 どうだろうか、萩尾の体型に合致するようなメンバー誰も居ないように思うが、あえて上げるなら野田だが、野田の胸周りは萩尾程は膨らんで居ない。



 レベル上げに参加するのは、私、涼子、森下、野田、それに久方ぶりに会うコスモ、と萩尾の6人。

 レベルを上げるのは地下3階のカタコンベ、ハッキリ言えば雑魚だが事故に遭遇する危険は極めて低い。

 たまにはコスモも構ってやらないと拗ねてしまうと思い、コスモもレベル上げに呼んでみた。


「聡志兄ちゃん、何で僕仲間はずれだったの」

「仲間はずれって訳じゃないよ、色々危ないかなって思ってさ、コスモ君は今年で5年生だっけ?」

「うんもう11歳だよ」


 確かに初めて会った時より成長している、レベルとジョブのお陰で、私のように成長率も高いのだろう。

 中学生にギリギリ見えない事も無い程度には、身体が大きかった。


「君コスモ君って言うんだ、僕は萩尾みのり、みのりって名前で呼んで欲しい」


 コスモが現れた途端、萩尾のテンションが上がっていく事が判った。それは私や涼子に対する態度と全く違い、コスモの肩を抱いて話掛けて居る事から、丸わかりだ。


 少し遅れて野田がやって来て、萩尾を見るなり軽蔑の眼差しを送っていて、私を札幌中級ダンジョンの支店の影へと引っ張って行った。


「聡志君、なんでよりにも寄って、萩尾が居る時にコスモ君を呼んだんですか」

「今日は安全な場所でレベル上げをするつもりだったから、コスモ君のレベルが1人だけ低いでしょ、前々からレベル上げしたいって頼まれてたんですよ」


 コスモとはここの所疎遠に成っていた、その原因はまさに今話しかけて来ている野田だ。

 コスモと同じ商人だし、私だって小学生をダンジョンに連れていくと言う事に負い目が有った、万が一の事を考えると野田になら自己責任だったと割り切れるからだ。


「まさかとは思いますが、萩尾さんって小学生が恋愛対象って訳では」

「違いますよ、萩尾は腐った外道ですけど、そこまで落ちちゃ居ません、ただ少年同士の友情や愛情に対して屈折した思いを抱いてるだけです」


 うーん、コスモを連れて来たのは失敗だった気がする。


「お姉ちゃんもミニミニ四駆作ってるの」

「勿論だよコスモ君、ミニミニ四駆とビックライコタマンが熱いよね。僕のイチオシは聖ゲンブなんだ、コスモ君もビックライコタマン集めてる?」

「うん、集めてるよ、僕はねスーパーインドラが好きだよ」


 2人の会話は小学生同士の会話にしか感じられなかった、良かった、野田の曇った目を通して萩尾の事を見ていただけで。

 ただの変わり者の女子大生に過ぎなかったようだ。


「そうなんだね、今度ダブったシールの交換会をしないか、コスモ君の友達も呼んでさ」

「北海道までは来れないよ」

「僕がコスモ君に会いに家まで行くよ、コスモ君の電話番号と住所を教えて貰えるかな」


 曇ってたのは私の目の方だったか、これは駄目かも知れない。


ダンジョンに潜ってレベルを上げて居る時も、気持ちいいくらい萩尾はコスモとしか会話していなかった。

 私の問いかけには答えてくれるから、完全に無視している訳では無いが、コスモとの扱いの差が酷かった。



途中休憩の為コンテナハウスを出して休憩していると、コスモと萩尾が2人で外に出て行った、なんでも無い事を祈るようにして後を付けた。


「コスモ君、僕の事はみのり君って呼んで欲しいんだ」

「みのり君・・・」

「そうだ、良い子だねコスモ君は。良い子のコスモ君にはご褒美を上げないと駄目だね」


 これ絶対あかん奴や、萩尾が行動に移そうとしたした瞬間、私は飛び出して萩尾を止めようとした。


「スーパーインドラのレアシールをコスモ君にあげよう」


 ・・・飛び出した手前どうすれば良いのか分からない、時間を止めて立ち去りたく成ったが、その場で立ちすくんでしまった。


「聡志君、君もビックライコタマンに興味が有るんだね、ずっと視線を感じて居たからそうじゃないかとは思っていたんだよ。残念だけど、スーパーインドラのレアシールはアレでお終いなんだ、他には何のシールがお気に入りなんだい」

「聡志兄ちゃんも集めてるの?僕のコレクションと見せ合いっ子しようよ」

「そうっすね、また今度」


 恥ずかしさで顔を真赤にして、その場から逃れた、休憩後のレベル上げではコスモとと萩尾から仕切りにシールの事でしきりに話しかけられたが、曖昧に返事を返す事しか出来なかった。


「聡志兄ちゃん、今度のレベル上げの時にはビックライコタマンシール持ってきてね」

「ああうん、忘れて無かったらね」


 シールなんて一枚も持ってないとは言えなかった、こうなったらお菓子を買ってシールだけ抜き取るか。


「忘れちゃ嫌だよ、そうだ、次の日曜日にみのり君が交換会をやってくれるんだって、聡志兄ちゃんも来る?」

「日曜は部活が有るから無理かな、コスモ君は友達と楽しんで来たら良いよ」

「そっか残念だね、じゃあまたね」


 コスモを見送る萩尾の目に、一瞬邪悪な物を感じたが、私にはどうする事も出来ない。

 次に会った時コスモが大人の階段を登ってない事を祈って私も寮へと帰って行った。


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