第128話「限界突破」
研究所をダンジョンの奥に捨ててから1週間程して、新聞に原発関連株が爆上がりと言う記事を見つけた。
こんな記事が新聞に載るような事、記憶の中では無かったように思える。
私がまた何か変わるキッカケを作ったかと考えて見たが、一向に思い当たる事が無かった。
考えるだけ無駄だと、今日も哀れなSDTFの隊員のレベル上げをしようと情報端末にアクセスした。
いまだに香川下級ダンジョンが入場禁止されていた、まだ臭いのかと一瞬疑問に思ったが、無限に時間が加速してるダンジョンの中で臭いが1週間もこもる訳が無い。
「内調の連中やりやがったな」
おそらく放射能廃棄物をダンジョンに捨てたな、それだけでは無く、処理するのに高額な費用が掛かるゴミを、処分場代わりにダンジョンに持ち運んだのだろう。
新聞の株価欄で、ごみ処理に予算を掛けて居た企業の株価が軒並み上がっていた。
ダンジョンで稼ぐ事は良いことか、と一瞬考えたが、放射能で変質した魔物が出て来たら嫌だなと思い直した。
「リュウ君今日も行くの」
「行くけど涼子も一緒に来る?」
「辞めとく」
レベル上げに涼子は着いてこず、何時もの用に政府が推薦する冒険者のレベルを上げに行く。
全員SDTFの隊員かと考えて居たのだが、1人見たことの有る人物が目に入った。
「聡志君久しぶりだね、活躍は耳にしてるよ」
ツルッパゲになったバキューム広田が目の前に居た。
「ああっと、お久しぶり・・・ですね」
広田は私の事を覚えて居たようだ、私の方は他の誰を忘れても広田の事だけは忘れられそうにない。
「広田さんはSDTFに再就職されたんですか」
「ようやく奴隷生活を解消されましてね、今は少しばかり稼がせて貰ってますよ。SDTFさんからね」
森下と珍しく鹿島がやって来てレベル上げに参加するようだ、鹿島と話して見たかったが、その時間的な余裕も無く札幌ダンジョンでレベルを上げて行く。
幸い今日の参加者は軒並みレベルが高く、半日パワーレベリングを行っていたら全員がレベル上限に達した。
バキューム広田もレベル64に成っていたが、再びあの薬を飲むつもりなのだろうか、私にはちょっと信じられなかった。
レベル上げが終わり現地で解散と成ったので、私は鹿島に声を掛けて、野田の喫茶店で森下を含めた3人で珈琲を飲む事にした。
「鹿島さんは今どこのダンジョンを攻略中なんですか」
「広島ダンジョンの4階層を攻めてます」
「海外のダンジョンって聞いていたんですか」
「フィリピンのダンジョンを一つ攻略しましたが、その後はずっと日本ですよ」
特別フィリピンと日本の関係が良好だったような記憶が無いのだが、戦後友好国の一つで有ったようだ。
同盟国で有る彼の国よりフィリピンとの関係を重視した方が良いと言う人物が、議員にも居るらしい。
「海外のダンジョン攻略ってどんな感じなんですか」
「イギリスとアメリカ、それに西ドイツは独力でこの騒ぎを納められそうですが、他の国だと難しそうです。特に国土の広いソビエトと中国は、国土の全部をダンジョンの驚異から守り抜く事は難しいと思います」
この時期、そろそろ東ドイツとソビエトが崩壊している頃なのだが、何故かいまだにまだ共産主義から脱却していなかった。
「日本は大丈夫なんですよね」
「勿論です、と言いたい所ですが、はっきりと断言は出来ません。まだ我々は上級ダンジョンには挑んで居ないのですから」
SDTFの誰かは上級ダンジョンに入っている筈だ、私はそのように聞いているのだが、鹿島は知らされて居ないのだろうか。
「富士ダンジョンも攻略寸前らしいっすね」
「そうなんですか」
「柴田班長の所もレベルを上げたっすよね、それで楽勝ムードで攻略が進んでいるみたいっす」
慢心は大丈夫か、柴田と柴田班の連中をレベルを上げたが促成栽培で、レベル程実力が伴っていない。
それでも火力のゴリ押しで普通の魔物なら倒せるとは思うが、ダンジョンのボスには桁違いの敵が居る事が有る。
「心配しないで下さい、ボス討伐時には応援で私も柴田班長の所に出向きます。それに予定では、レベルアップ薬を飲んだ後に攻略ですから」
現状でも私達3人がボスに挑めば人的被害を出す事無く攻略出来るだろう、しかしそれを政府は良しとはしない筈だ。
「話は変わりますが香川の下級ダンジョンの事、何か聞いていますか」
「香川っすか、全く知らないっすけど何か有ったっすか」
「公認冒険者の入場を規制している話は聞きましたが、何をしてるのかまでは聞いて居ません。何かとんでもない魔道具の実験を行っていると言う噂が有りますが」
魔道具の実験か、そう言えばそんな物も有ったな、ごみ処理をしてるなんて決めつけは良くないな、場所も四国と離れて居るし暫く様子を見る事にするか。
「そうなんですか、じゃあ一般の冒険者ってどこのダンジョンに入っているんですか」
「北九州の中級ダンジョンでミスリルを掘っていると聞いてます、大分買取価格は落ちているようですが、それでも同じ重さの金よりはまだ高いようですよ」
「公認冒険者の広田さんがレベル上げに参加してたのもその関係ですか」
「広田さんですか、広田さんは公認冒険者を辞めて、SDTFの工作隊に入隊したと聞いてます」
やっぱりSDTFスタッフに潜り込んでいたか、そうでも無ければレベル上限までのレベリングに参加出来る訳が無いか、他の公認冒険者でレベル上げに参加している人間は居ないしな。
「それよりも緒方さん、貴重なレベルアップ薬を軍事技術と引き換えにアメリカに渡したと言う話、聞いて居ますか」
これまでの表情と打って変わって、鹿島の目つきがキツくなっている、誰から聞いたのかは忘れたが、そんな話は聞いていて、良いんじゃ無いですかと答えた気がする。
「同盟国だし構わないんじゃないですかね」
「確かに同盟国では有るのですが、自主国防の観点からは戦闘機は自国企業で賄って欲しかったです」
鹿島は国粋主義なのだろうか、自衛隊からの出向組だとは聞いているが、SDTF内には設立当初から自衛隊員が居た筈だ。
極端な思想を持っていたから弾かれた隊員って事か、事態が切迫して政府が増やしたのが自衛隊出向組だ。アメリカと喧嘩なんて勘弁して貰いたいものだな。
「どのくらいの量を渡したんですかね」
「5本分だと言う話です、しれでF22の技術を得たと言う話なんですか、開発には何年も掛かる筈なんですよ」
F22ってラプターか、よくもそんな最新鋭の技術をあんなクソマズ薬と交換したものだ、確かに原価で1本10億とも言うトンデモナイ薬だが、最新鋭の戦闘機と交換する価値が有るのかは疑問だ。
「米国内ではまだアスフォデルスの花畑は見つかって無いんですか」
「そうですね、これはまだ確定情報では無いんですが」
前置きをされて、私の知らない石碑の情報を流してくれた、これは国内で発見された石碑では無く海外の石碑の内容らしい。
「上級ダンジョン前に挑む、最後の中級ダンジョンで、ソーマが手に入ると言う話が有るんです」
「ソーマって何ですか」
「インド神話に出てくる神々の飲み物です」
「アレが神々の飲み物なんですか、そうなると神ってとてつもない悪食なんですね」
札幌中級ダンジョンは確かに北海道・東北地域に残された、上級ダンジョンを除いた最後のダンジョンだ。
他の地域にはまだ上級ダンジョン意外に複数のダンジョンが残されている、そのソーマを飲んだ人間しかダンジョンのボスにたどり着けないと言う事なのだろうか。
「アメリカには沢山ダンジョンが有りそうですもんね」
「いまだ全ての下級ダンジョンを、把握しきれて居ないのでは、と言う噂も有る程です」
常任国入するのに、全てのダンジョンを把握する必要が有ったのでは無かったか、日本や西ドイツに先行されるのを嫌い、無理やり常任国に名を連ねたとか。
あり得る話だとは思ったが、アメリカが奴らに侵攻されても、私には関係の無い話だ。
「流石にそれは大げさな噂だとは思いますが、下級ダンジョンと言えどまだ、一度も入られて無いダンジョンは有りそうです。何せ上級ダンジョンが日本の3倍以上の18ヶ所存在しますから」
確かに多いが、国土の広さを考えると多いとも言えない、50州も有るのにその半分以下しか上級ダンジョンが無いのだ。
「それは攻略出来た暁には見返りもでかいって事ですよね」
「そうですね、現状では日本がミスリルの最大産出国ですし、これも噂の域に過ぎないのですが、原油も出て居ると言う情報も有ります」
ミスリルはともかく、原油の方はダンジョンから産出されている物では無い、賢者の石がこのまま永遠に存在し続けるのなら、日本がガソリンや石油に切迫する事は無いと思いたい。
10月10日、涼子達がレベルアップ薬を飲むため、札幌ダンジョン前に集まって居る、勿論私と森下も見送りの貯めに集まっている。
誰一人脱走する事なく集合していたので、感動で涙が出そうだ、私だったら素直に逃げて居た事だろう。
「リュウ君、行っています」
「行ってらっしゃい、帰りを待ってるよ、ここで」
「うん、帰って来たら抱きしめてキスしてね」
それはどうだろうか、みんなの前でするには恥ずかしすぎる・・・御免なさい嘘です、臭いに耐えられ無いかも知れない。
見送りは盛大で、SDTF関係者の見たことも無いお偉方が集まっている、この状況下で逃げ出す、もしくは飲むことを拒絶出来るSDTFスタッフは居ないだろう。
そしてスペシャルゲストの首相が激励の言葉を皆に掛けると、全員が一斉にダンジョンに入っていった。
「聡志君急がないと時間が無いっすよ」
出迎えるスタッフ全員が一斉に防護服に着替えて居る、1秒後には全員戻って来るかも知れない、着替えが間に合わないと大変な事になるかも知れなかった。
「森下さん背中のチャック確認お願いします」
「オッケーっす、次は私のチャックの確認もお願いするっす」
慌ただしい喧騒の中、帰ってきたスタッフの体調を管理する看護師達は諦めの境地に達している、彼彼女達はその役目上防護服を着る事が出来ないらしい。
まだ準備が整っていない札幌の大通り公園のダンジョン前に涼子達が一斉に帰って来た。
「お、おかえりない」
「リュウ君、それ何のつもり」
私は両手を広げて涼子を受け入れる体制に入っているのだが、どうも気に要らないらしい。
「出迎えですけど、駄目ですか」
「ここは感動して抱き合う所よね、どうしてそんなおかしな格好をしてるの」
私が涼子に詰められて居る間、他の人間達は着ていた服を処分するため続々と飛んでいく、具合の悪そうな人間は看護師達が血圧や体温を測っているが、涼子も一緒に飛んで欲しいのだが、そうはしてくれなかった。
「聡志君、諦めるしか無いっすね、涼子ちゃんと一緒に隔離生活に入って下さいっす」
森下に裏切られた私の防護服は無残に引き裂かれ、耐え難い臭気と共に隔離施設へと涼子と一緒に送られてしまった。
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