第114話「戦いが終わって」
官舎の庭で倒れ込むように膝を着いた、魔力の使い過ぎで体調は最悪だったが、以前倒れた時よりはまだましだ。
「みんな無事っすよね」
俺は声を出す事も億劫になって、手を上げる事で返事の代わりにした。
「和美さんは運転席に座ってたけど大丈夫だったの」
「ちゃんとシートベルトをしてたっすからね、後部座席よりは安全っすよ」
「伊知子は大賢者様にお礼を言って置きなさい、助けて頂いたのですから」
「緒方君ありがとう、あんなのがウジャウジャ居るんなら、迂闊に攻略なんて出来ないわね」
それは私も思った、仮にアレがボスや中ボスと言うのなら対処のしようもあるのだが、無限に湧いて出るモブだとしたら、今のままでは探索どころでは無い。
「私はレベル50に成りましたが皆さんはどうですか」
ようやく呼吸が整ったので全員にレベルを聞いてみた、『鑑定』する程の魔力はまだ回復していない。
「私もリュウ君と同じだよ」
「私は49っすね、6つも上がったっすよ」
「46です」
野田は37から46に上がっているから、9レベルも一気に上がったという事か。
「私は48です」
英美里は森下と同じレベルだったが、一つ下の48レベルらしい。
「私は45この中では一番レベルが低いのね」
小田切が一番レベルが低いが、それは元のレベルが35と低かった為だ、しかし一度の戦闘で10もレベルを上げている。
「よくもまあ、あんな出鱈目な相手に勝てたわね、英美里の攻撃も効いてたんでしょ」
「それは大賢者様の水流攻撃のお陰です、水に浸かったワームは再び地面の下に潜れなくなったようでしたから」
体がサラサラしてないと砂中に潜れないって事なのだろうか、弱点が水ってそう云う意味かと野田に訪ねたが分からないと言う返事が帰って来ただけだ。
最初に水で攻撃していれば、少しは戦いやすく成ったと言う事だろうか、試してみる価値はあるか。
「小田切先生はあのワームをテイムする事は出来そうですか」
「まず無理ね、自分のレベル以下の子じゃないとよっぽど相性が良くないと、近づく事さえ出来ない物。それに私がテイム出来る子って3人までなの、今はミーくんとキューちゃんの2人が居るでしょ。最後の枠をワームに使う気は無いわ」
私達がへたり込んでいる事に気づいたSDTFのスタッフが駆け寄ってきた、事情を聞かせて欲しいと頼まれたが、今は体調がよろしくないので後日にしてくれと頼み解散した。
「お元気そうでは無さそうですね」
「そうですね、体調はイマイチですが、そちらは元気そうですね。先日ぶりです」
こんなに短い期間で藤倉課長と会う事は初めてでは無いだろうか、今回のアプローチは藤倉側からなのでこちらとしては何を聞かれるやらとドキドキしている。
その割には挨拶から嫌味を言ってしまうんだから、私は心身共に絶不調のようだ。
「千葉ダンジョンで死ぬ程の目に有ったと聞きましたが、本当ですか」
「危なくなかったと言えば嘘に成りますね」
ワームと邂逅した瞬間支店に逃げ込んでいれば、あんな危険な目に合わないで済んだとも言える。情報を得るためにリスクを取ったのだが、そのリスクが思ったよりもでかすぎたと言うだけの話だ。
「千葉ダンジョンの地下2階は、移動するには大変だと聞いて居ましたが、危険な魔物と遭遇したと言う情報を得て居ませんでした」
「出発地点から200キロ程北に行った場所で襲われましたので、調査した攻略隊はそこまで移動してなかったんじゃないですかね」
「その通りです、徒歩で1時間程歩いて帰ったようです」
徒歩じゃその程度が限界だと思う、何か有効なスキルか、魔道具でも有ればその限りでは無いのかも知れないが。
「サンドワームが出たと聞きました、持ち帰って来られたんですよね、SDTFで買い取らせては貰えませんか」
「それはチーム内で相談させてからにして下さい、後私の魔力が回復するまでは取り出せませんので」
これまで『収納』で魔力の消費を感じた事は無かったのだが、巨大ワームの死骸は『収納』するだけで結構な魔力を持って行かれた。あの時はかなり弱って居たので、特にそう感じただけかも知れないが、今はまだ取り出す気にはなれない。
「それほど巨大なのですか」
「私がこれまで『収納』してきた最大の物がキャンピングカーですが、それの10倍以上の重さは有ると思いますよ」
『収納』のスキルが重さに寄ってなのか、体積に寄って取り込める容量が変わって来るのかは分からないが、少なくとも私にはワームを取り込む事はかなりの魔力を使ったように思えた。
「他に何か変わった事は有りませんでしたか」
「そうですね、1階の迷宮が入る度に形を変えるって事くらいですかね、それも2回しか入ってませんから必ずしもってわけじゃ無いかも知れませんが。そうそう賢者の石ってアイテムを拾いましたね」
「実在したんですか」
急に藤倉が大きな声を上げたので驚いてしまった、やはり有名なアイテムだったのだろうか。
「鑑定結果ではそう出ましたけど、不老不死に成れるような物とは思えませんよ」「それは伝説の石の話ですね、錬金術のレシピの中に賢者の石を使って生み出せるアイテムが存在するんですよ」
錬金術が使えるジョブが存在するのか、魔導技工士が使えるのか、単純に考えると錬金術師と言う存在が真っ先に思い浮かぶ。SDTFの職員で錬金術師と言うジョブを持った人間に会った事は無いな。
「誰がそんなスキルを使えるのか気に成りますが、それで何が作れるんですか」
「水から原油を生成出来るアイテムです」
「それは・・・随分と都合の良さそうなアイテムですね」
「私もそう思います」
中東がきな臭くなってきた所で原油が作れるアイテムが手に入る、作為的な物を感じるがそんな物私達の手には余る。
「買い取って貰えるんですか」
「勿論です、10億でも20億でもお好きなだけ、なんなら利益のいくらかを延々とお支払いしたって良いですよ」
今野田に余計な金を渡したくは無いのだが、龍の首飾り正式な代金はまだ野田に支払って居ない。そもそも私もハッキリとした金額は聞かされて居ないのだが。
「じゃあ利益の方でお願いします、受け取り人は、私、川上涼子、森下和美、小田切伊知子、三条英美里、野田梨乃の6人で、6等分して下さい」
「最初の支払いは数年先に成りますから、手付だけでも支払いましょうか」
「いえ、後払いで構いません」
取り合えす野田への支払いを引き伸ばした方が良い、彼女もその内まともになってくれるかも知れないしな。
「そうですか、では龍の首飾りの代金をお支払いしましょう」
何で今それを言い出すのやら、こちらとしては受け取りたくは無いのだが、そのまま野田に渡してしまって良い物だろうか。野田の兄弟を交えて話し合った方が良さそうだ。
「最低5億で引き取ると言いましたが、倍額の10億、先払いした1億を抜いて9億お渡ししましょう」
これ大丈夫か、幾らかは手数料を貰うとは言っていたが、半額でも渡した日には何をしでかすか分からない怖さが有る。
いっその事全額渡して野田の破綻する人生を観察してみるか、10億が何日で0になって、さらにどでかい借金を抱えるのか、悪趣味だがそれも野田の選ぶ道。
親兄弟でも無い私が何かをしてやれる物では無い。
藤倉の所から帰りしばらくは魔力の回復に務める、この先どうするのかと言うことを話し合わなければならないのだが、完全回復するまでに1週間の時間が必要になった。
「緒方少し良いか」
またかと思ったのだが今日呼ばれたのは顧問の氏家だった、何の話かと氏家に連れられた場所は相談室だった。
「こんな事を緒方に言うのもどうかと思ったんだけどな、職員会議で今年の夏までは対外試合は禁止される事に正式に決まった。剣道部の存続は許されて居るんだが、運動部の半分は解散する事になるそうだよ」
「野球部の件そんなに問題に成っているんですか」
涼子の方は分からないが、少なくとも私は剣道に興味を失っていた、全力を出せないとか剣道自体の注目度の低さ等と色々理由は有るが、一番の問題はスポーツに情熱を燃やせない事だと思う。
「特待生を入れた手前、解散する事は出来ないが、それでなければとっくに解散させられて居るんだろうな」
私含めた特待生の存在が運動部を存続させていたのか、今日まで意識した事が無かったな。
「学校に誘っておいてこんな事を言い出し難いんだが、横浜の本校から誘いが来てる、勿論俺達は残って欲しいとは思っているんだが・・・。だけど緒方と川上は本校に行って剣道を続けた方が良いかとも思う」
千葉の兄弟校から横浜の本校に移ってはどうかと言う打診って事だな、それで私達が居なく成ると、剣道部の活動に更に制限が掛けられるかも知れないって事なのだろう。
そう云う話なら考えるまでも無く結論は出ている、今更横浜になんて行く訳が無い。
「私は千葉に残りますよ」
「そうか、残ってくれるか。ほっとしたと言う気持ちが半分、剣道界の若き天才の芽を摘んでやしないかと言う気持ちが半分、ちょっと複雑だな」
氏家の話はそれだけだったようで開放された、その後は部活に参加して涼子と一緒に帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます