第88話「北海道合宿2」
昨日の夕飯は海鮮丼とザンギと呼ばれる唐揚げを食べた、レストランに来ていたのはうちとあずみの家族だけで、他は自炊していたらしい。
早朝目覚ましで目覚めると、朝食前にランニングを行う、メンバーは私、涼子、森下、美奈子それに自転車で追いかけてくるトレーナーの森永、自転車はレンタルサイクルの借り物だ。
「朝に走るのは身体に悪いって聞いた事があるんですけど、大丈夫なんすかね」
「私達3人は大丈夫なんじゃないですか、それに気温と湿度が低くて走りやすいですよ」
普段ランニングなんて殆どしてないから新鮮だ、ペースも遅いし私達3人は平気だったが、美奈子は真っ赤な顔をして汗まみれで追いかけてくる。
「美奈子先輩に合わせて走った方が良くない?」
「美奈子師範代の為を思うなら、もう少し頑張って貰いましょう」
自転車で追いかけて来ている森永がそう言うので、このままのペースで走りきり、私は朝風呂に入る為自分のコテージに戻った。
朝食は我が家には珍しく完全洋食で、焼きたてのパンとスープ、それにスクランブルエッグが出されて居た。
「このパンどうしたの?」
「森下さんが焼いたんですって、聡志達と走って居たんでしょ、いつの間に焼いたのかしらね」
『収納』を使ったと思うのだが、十和子達の目が有るのに大丈夫だったのだろうか、後から注意して置いた方が良いな。
「このスープも森下さん?」
「そうだと思うけど、持ってきてくれたのは十和子さんなの」
十和子の料理の腕前なんか知らないしな、ポタージュスープなので市販の物の可能性は有るか、スクランブルエッグだけは母が焼いた物らしい。
「卵はどうしたの」
「昨日管理棟で頼んでおいたのよ、近くの農家から運んで貰ってるんですって」
フランスパンは絶品だった、スープも少なくともインスタントでは無かった、市販の物か森下達が作った物かまでは解らなかったが。
朝食を食べた後は紀子と徹を連れて外に出る、ついでに涼子と浩介を誘いに行ったらあずみとタックンも着いて来ると言うので、子供だけで周囲を探索する事になった。
「聡志君とあずみさんは北海道二回目なのよね」
「そうだけど、前に来たのは試合の為だから、観光なんて殆どしてないよ、札幌でラーメンとジンギスカン食べたくらい」
「朝市も回ったよ」
そう言えば土産物の公設市場を回ったな、以前の記憶とごちゃまぜにならないように気をつけないと、色々ボロが出そうだ。
「札幌ラーメンか、お昼ご飯には良いかも、時間に余裕が有る時で良いから案内して欲しいな」
「もちろん構わないよ」
「お兄ちゃん私も絶対に連れてってね」
「「僕も」」
コテージの周りの風景は、私に取っては何てことの無い日常だったが、あずみや弟達は感動しているようだった、涼子も北の大自然を楽しんでいるように見える。
散策中にラベンダーの群生地が有った、自生しているのか、育てられた物かは解らないが一面が紫色の絨毯のようになっていた。
「お兄ちゃん摘んでいってお母さんに見せたい」
1、2本なら良いかと許可を出した。
「聡志君大丈夫かな、ここで育ててるんじゃない」
「そうだとしても少しくらいは良いんじゃないの、もうすぐシーズンも終わるだろうし」
本当は駄目なんだとは思うが、子供が数本摘むつくらい目こぼしが有っても良いだろう、怒られたら知らなかったと謝れば、幼気ない子供達なのだ許してくれるだろう。
「聡志君って悪い事は絶対に許さない人かと思ってた」
「それ誰の話?」
私なんて悪いことばかりしてきたのに、あずみがそんな風に私の事を見ていたなんて意外すぎて驚いた。
「リュウ君の事では無いね」
私をよく知る涼子は、善人だとは思っていない、敢えて捨吉のように犯罪を犯す事は無いが、だからと行って罪を犯す事に躊躇はしない。
ラベンダーを紀子と浩介とタックンが摘見終わると、散歩も終了と言うことで、別の道からコテージに帰った。
「あら良い香りね、椅子とテーブルを運ばないと駄目みたいだから、聡志行ってきてもらえるかな。和美さんが車を出してくれるから、管理棟で借りて来てね」「良いよ」
着々と昼めしのバーベキューの準備が整っているらしい、私は一旦森下の居るコテージに向かって、森下と一緒に管理棟に移動する。
「今朝のパン『収納』してきたんですか」
「昨日の晩に仕込んで朝ランニングしてる間に焼いたっすよ、なんかおかしかったっすか」
疑ってゴメンナサイ、大変美味しく召し上がらせて頂きました。
「スープも森下さんが?」
「仕込んだのは私っすけど仕上げは師範がやってくれたっすよ」
十和子は料理が出来る人だったのか、見た目から出来る雰囲気は醸し出していたが。
「料理もそうっすけど、椅子も持ってきたら良かったっすね」
「椅子をわざわざ宅配で送るような事不自然じゃないですか」
「アウトドア用の折り畳める奴っすよ、聡志君知らないっすか」
映画監督が座るような椅子の事かな、見覚えは有るが使った事は無いな。
「普通の椅子が『収納』されてるんで気にも止めて無かったです」
「あの休憩用のプレハブの中にも有ったっすね、そう言われると、便利過ぎるスキルにも困った事が有ったっすね」
管理棟で貸してもらった椅子は、木製の椅子で、古い学校なんかで使っているような椅子だった。
流石に私の世代ではお目に掛からなかったが、森下の子供の頃にはまだ使っていたようだ。
「廃校から貰って来たんすかね」
「学校で使って居たものかは判りませんけど」
「それもそうっすか」
椅子を運び終えると私の役目は終わって、後は肉を食うだけだ、炭火も器用に森下が起こすと最後の仕事として皆を呼びに行く係に任命された。
「めちゃめちゃ美味しいよお兄ちゃん」
紀子が森下の焼いた肉を絶賛していた、それは私もそう思うが、紀子もはしゃぎすぎだ、普段美味しくない物を食べて居るように思われてしまうじゃないか。
けど、右を見ても、左を見てもみんな森下の料理を絶賛しているので、奇異な目で見られる事は無さそうだ。
「和美さん、また腕を上げた?」
「まあ、レベルが上ったっすからね。涼子ちゃんの作る料理も旨いっすから大丈夫ぶっす」
レベルが上ったってのはどっちの意味なのだろうか、森下の場合はスキルに依存して料理が上達したから、冒険者としてのレベルも影響しているかも知れないか。
「昼からどうするっすか」
「今日はこのままダラダラ食べてましょうよ」
ここにビールでも有れば最高なのだが、車を運転する事も考慮して、森下が飲んでないから、私が隠れて飲むなんてのは人として駄目だろう。
「私もリュウ君と一緒にお昼寝したいよ、ハンモックを吊るそうよ」
何処にそんな物を吊るすつもりなのかは疑問だが、確かに寝転がったら気持ちよさそうだ。
「じゃあ昼からハンモックを作るっす」
森下がそう提案すると、紀子達が森下にダイレクトに飛び込んで行った、喜びの表現が過激すぎる、誰に似たのだろう。
ゆっくりとランチを摂った後、後片付けは母たちが買ってくれたので、私と涼子、それに森下の3人でハンモックを吊るす事になった。
「材料って持ってきてたんですか」
「ハンモックのですか、作ろうかと思ったんですけど、聡志君なら作れないですか」
私のスキルに該当するような物は無いし、東京で買ってくるにも戻れるのは札幌市内だ、それなら車でホームセンターに直接買いに行った方が早い。
「一瞬だけ子供達の気をそらして貰う事って出来ませんか」
「一瞬っすか、10分とか20分とかならやれますよ」
何をするのかと思うと森下はフリスビーを取り出し、紀子達の上方をかすめるようゆっくりと放り投げた、それを子供達が追いかけるので、私は木陰に向かうと衛星電話で、コンシェルジュにハンモックを4張り頼んだ。
「お待たせしました注文のお品です」
「リュウ君の魔法?」
涼子が驚くのも無理は無い、私が連絡を取ってから20分程で頼んだハンモックを運んで来てくれたのだ。
「どうやって注文したの」
「電話でだよ」
「そっか、通販って凄いんだね」
涼子は公衆電話から掛けたのかと思っているのか、それ以上聞いては来なかった、運ばれてきた荷物を持って森下の元に行くと、コテージ近くの木にハンモックを吊るす事になった。
「リュウ君、私も寝転びたいんですけど」
「子供達が飽きたら交代して貰ってよ、追加で注文するのは嫌だよ、それにもう吊るす場所も無いし」
4張りのハンモックは4人の子供達が独占している、こういう事には興味を示さない、徹までもが寝転がっているので、涼子が使ってみたい気持ちに成るのも無理が無い事だろう。
「聡志さん、私達も使わせて貰っても良いですよね」
「順番に使って下さい」
美奈子が声を掛けて来たのかと思ったら、十和子だった、お嬢様然としているがそんな人間が真剣を持って斬りかかったりはしないか。
私は後の事を森下に任せると、コテージの部屋に戻ってベットで昼寝をする事に決めた。
すかした態度を取っていたが、内心では私もハンモックで寝転びたかったのだ。
夕方タクシーに乗って父が合流してきた、学会はまだ終わって無いらしいが、父が聞きたかった講座は終わって、3日程はこちらで滞在するつもりのようだ。
夕飯は父が土産代わりに買ってきた海産物で、料理は森下が行ってくれた、うちだけで食べるには量が多かったので他のコテージにも森下作ってくれた、アクアパッツァと言う料理を食べた。
「明日はプールに行こうって話になってるんだけど、聡志はどうするの」
「明日からは十和子師範達と練習が有るよ」
「そっか、そうよね、合宿なんだから練習くらい有るわよね。解った紀子の事は私とお父さんに任せて練習頑張ってきてね」
任せても何も、紀子は私の子供では無いのだが。
「お兄ちゃんと一緒が良かった」
「紀子はお父さんと一緒は嫌なのかい」
「嫌じゃ無いけど、お父さんって泳げるの」
「・・・」
どうやら泳ぎには自信がないらしい。
「大丈夫、最後に水の中に入ったのは高校の授業の時だったかけど、あの時はちゃんと泳げたから、今でも泳げるはずだよ」
父に期待するのは止めたほうが良さそうだ、うちだけじゃ無くて他の家族も参加するなら誰か一人くらいはちゃんと泳げる人間も居るだろう、そっちに期待した方が良いかな。
「大丈夫よ心配しないで、美智子さんが泳げるって話だったから。それに溺れるような深い所は行かさないように、お父さんに見張ってもらうから」
膝丈程水が有れば人は溺れる事が出来るらしい、不安は残るが監視員も居るから大丈夫だと思い込み明日に備える事にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます