第81話「冒険者ギルド」

 しばらくの間、空いていてたレベリングが再開した、メンバーはチーム緒方全員と攻略隊から江下、その他のメンバーは工作隊と公認冒険者だった。


「子供がエースなのかよ、聞いてた話とは随分違うんだな、こんなんで本当に中級ダンジョンなんて潜れるのかよ」


 梅田の支店で公認冒険者の一人が江下と揉めて居る、こんな事がいつかは起こるんだろうなと思っていたから、気にも止めて無かったのだが、用心棒よろしく森下がぷらっと冒険者に近づいていくと、一発ボディーブローを放っていた。


「レベル12の雑魚が吠えるな、ぶちのめすっぞ」


 男は、既に意識も無い程打ちのめされて居るように見えるのだが。


「森下特補、昇進して浮かれて居るんじゃ無いのか、相手はこんなでも民間人だ。もっと手加減してやれ」

「これでも最弱の攻撃なんすけど」


 江下も公認冒険者に腹立ちを覚えて居たようで、森下を煽っている、腹を抑え四つん這いに成っている冒険者が嘔吐いている。仲間に介抱されていたが回復する兆しが無い。


「小僧いつまで待たせるんだよ、このクソ雑魚が」

「緒方さん、回復魔法をお願い出来ますか、置いていきたい所なのですが次の攻略戦に参加予定なので、死なれても目覚めが悪いので」


 特段反論する事も無いので、冒険者に回復魔法をかけてやる、町の不良でももう少し根性を見せるだろうに、威勢が良いだけで腹は座って無いようだ。


「すまねえ、なあ、あんたもあの女くらい強いのか」

「森下さんですか、そうですね同じくらいですかね」


 一発かまされ、私に回復を受けた事で男は大人しくなった、一応『鑑定』をかけてみるかと、私とコスモが男に『鑑定』を掛ける。


 木下武宏36歳レベル12盾騎士、スキル『盾』、『身代わり』の2つを所持していた、今まで公認冒険者で騎士のジョブも持っていた人間は居なかったので、男の態度が大きかった理由を察した。

 そんな事より森下は、36歳相手に小僧なんて凄んでいたのか、一回り以上相手が年上だろうに。


 ダンジョンに入る前、ゴタゴタが有ったが中に入ってからは、木下は大人しい物だ、大人しい理由の一つに私の使う魔法にビビっている、と言うことも有ったのだろう。

30部屋回った所で江下から撤退の提案が入った、何か有ったのかと聞いたら、レベル上げのメンバーを替えたいと言うことだったので了承した。


「バカにするような事言って済まなかったな、俺達とは次元が違うわアノ魔法は」 


 工作隊のメンバー入れ替え中、少し木下と話す事になった。


「木下さんは何処のダンジョンに潜っているんですか」

「俺は日光と水戸の二箇所を回ってる、日光の方が報酬が良いんだが水戸の方が魔物は弱いんだ、レベルが上がって新しいスキルも手に入ったから、これからは日光一本で稼ぐ事にするよ」


 公認冒険者はダンジョンに潜って日銭を稼いでいるらしい、私達は半分SDTFに雇用されているような物だから、固定給プラス歩合で働いてるような物だ。


「日光でどのくらい稼げるんですか」

「ゴブの魔石1個で10万、ホブなら倍の20万で換金出来る、俺達は6人組でダンジョンに潜っているから、一人あたりの収入は多くても50万を越えないな」


 ゴブリンのレベルが解らないが、それでも下級ダンジョンなら知れている、今倒しているスケルトンナイトや、スラムの核を集めて売れば、遥かに高い収入を得られるのかも知れないが、それよりもコスモが売却してクレジットを得た方が良い。


「回復薬っていくらで買えるんですか」

「初級回復薬なら100万、中級だとオークションなんで天井知らずだな、俺は見た事すらないよ」


コスモが販売している初級回復ポーションが1000クレジット、つまりは10万で購入出来るのだが、コスモからSDTFに転売してそこから冒険者に流れて居るにしては中抜しすぎだ。

 そもそも支店に有る自販機を使えば、もっと安く手に入るのでは無いのか、自販機のラインナップに回復薬の類も有ったはずだ。


「支店の自販機を使えないんですか」

「アレはギルドの連中しか使えないだろ」

 

 知らない組織の話が出て来た、ギルドと名乗るからには組合的な物だとは思うが。


「ギルドって何ですか」

「トップ冒険者様なのに知らないのかよ、ダンジョン攻略互助なんたら組合って名前だったけど、皆冒険者ギルドって呼んでるぜ」


 冒険者ギルドね、私達が出入りしている支店は特定の場所ばかりで、公認冒険者に開放されているダンジョンには、支店を含めて立ち寄った事も無かったな、一度行って実情を確認したほうが良いかも知れない。


「SDTFの管理している支店に飛んだ事は無いんですか」

「今日が初めてだよ、許可されてない場所へ飛ぶとペナルティーがな、噂によると国会とかもっとヤバイ場所にも飛べるらしい。俺達の商会レベルだとそもそも複数の支店をホームに選べないから、梅田支店を登録した時に日光の方を一旦解除したんだ」


 そんな制約が存在したのか、コスモ商会の幹部は私、涼子、肥後、そして商会長がコスモで残りは全て平会員だと思っていたのだがどうやら違うらしい。


 後半のレベル上げはいつも通りすんなりと終わった、ゴタゴタは有った物の、一般の冒険者が私達とはだいぶ違う生活をしている事が知れて、有意義な一日となった。




「おかげで私もレベルが有りました、来週もよろしくお願いします」


 江下のレベルが39に上がったようだ、他のダンジョンも潜っているようだが、下級ばかりなので、ここほど経験値は美味しく無いようだ。私達のチームでは今日やっと肥後が41に成った、次かその次では森下も41に上がるだろう。


 そろそろ東兼支店に戻ろうかとしてた所に、木下が近寄って来て耳打ちされた。


「金が必要なら、札幌に行けば稼げるらしい、中町って言う女を探してみな」


それだけ言うと木下は私から離れて行った、ここでも中町町子の話が出て来るのか。



 東兼に戻ってからも、モヤモヤした思いが広がる、札幌旅行が決まってこんなに早くフラグの回収要素がやって来るのかと考え込んでしまった。


「聡志君、課長に何を言った知りませんが、例の件難しいって連絡が有りましたよ」 


 例の件って何の事だ、と考えるが藤倉に頼んだのは札幌支店ともう一つ、デパートの貸し切りの話だ、森下を伝令に使うのだが恐らく後者の件が駄目だったのだろう。私も要求しておいてなんだが、無理な事を言っている自覚は有った。


「解りましたと伝えて置いて下さい」

「例の件って何ですか、教えてくれるまでお使いはしませんよ」

「森下さんの給料を上げて欲しいって言うお願いです」

「何でですか、私課長に嫌われてるんですか、それと公務員の給料ってお願いしたら上がるんですか」


 冗談でそんな事を言ったら森下が詰め寄って来て、しどろもどろに成っていたら、解りました室長に聞いて来ますと言って飛んで行ってしまった。森下は課長なんて雲の上の人だと言って、とても話なんて出来ないと言っていた気がしたのだが。




「サトチンおかげさんで給料が上がったっす」


 翌日支店に顔を出すと満面の笑みを浮かべた


「そのサトチンは辞めて貰えますか、辞めて貰えいないと森下さんをSDTFに返却します」

「あれ、その目本気の目ですね、嫌だな聡志君乙女の軽い冗談じゃないっすか」


 冗談で言った給料が上がるって、SDTFはそんなゆるい組織だったのだろうか。


「基本給が上がったって事ですか」

「そうっすよ、なんか階級が上がるんで基本給も上がるらしいです」


 特務巡査部長から特務警部補に昇進した話はチラッと耳にしていたが、それで給与まで上がるとは知らなかった。


「おめでとう御座います、良かったじゃないですか」

「それとどう言う訳か、課長から沖縄旅行の慰労金を預かって来ましたよ、この封筒ごと聡志君に渡すよう頼まれちゃいました」


封筒を受け取って中を確認する、手紙が一枚と地図が入っていて慰労金は1万円札が10枚入っていた。


「藤倉課長に直談判を掛けたんですね」

「我ながら無茶しちゃいました」


 手紙には札幌支店の候補地が決まったと書かれていて、コスモの都合がつき次第飛行機で向かい、支店を作ると言うことが書かれて居て、地図はその候補地の場所の物だった。


「お金は森下さんが管理して下さい、私や涼子が持っていると不自然ですし」

「預かって置きますね、このお金でまた買い物に行きましょう」


 おう、やぶ蛇、いらん事を言わなければ良かった、どうせ何をやっても買い物に行かなければならないのなら、テストが始まる前に行ってしまった方が良さそうだ。


「涼子はまだ来て無いみたいですね」

「あずみちゃんと一緒に来るって言ってましたよ」

「なんでまたここにあずみと?」

「知らないっす」


 学校で用が有ると別れた涼子だったが、用が有る相手はあずみだったらしい、そこまでは理解が出来るのだが、どうしてここにやって来るのかは解らなかった。


「和美さん遅くなってごめんね、リュウ君もお待たせ」

「聡志君お母さんが迷惑かけてごめんね」

「あずみさんのお母さんって?」

「弟が明星先輩の所でお世話に成ってるでしょ、特に聡志君が優しく教えてくれてるって聞いてるから。合宿に私とお母さんも一緒に着いてくなんて変よね、でも涼子さんも一緒だって言うし、飛行機にも乗りたいし、北海道も行って見たかったら楽しみなの」


 これでタックンの姉があずみで有る事は確定した、そんな気はしていたし、タックンの母親実は見覚えも有った。あずみは母親とタックンの3人で参加するらしいが、うちなんて総勢5人だ、横田家を変だなんて言えない。


「タックンのお姉さんだったんだね」

「あれっ、知らなかったっけ、7つ下だから小学校もかぶらないか」

「そんな話より、あずみちゃんも一緒に買物また行きたいんだって、リュウ君も一緒に行ってくれるよね」


 結局そこに行く付くわけね、予想はしていたけど。


「行くなら早めが良いと思うんだ、期末テストも有るし、あずみさんは部活の地区予選の試合も有るんでしょ」

「7月の21日と22日が地区予選、そこで勝ったら県大会が8月の1日からだから旅行には行けないのよね」


 県大会で優勝すれば関東大会、全国大会へと進んで行くがうちの学校のレベルだと地区予選に勝ち上がるのも難しい。


「勝てそうなの?」

「予選を突破するのは難しいかも、悔しいけど江南中学には勝てそうに無いの」


 江南中は隣町の中学で、部活の地区予選は同じブロックだ、私と涼子もテニス部時代には江南中学とも戦っている。


「涼子さんがバレー部に入ってくれたら楽勝かも知れないけど」

「部活はやらないって決めたの、それにね私達も23日からセレクションって言うのを受けるんだ」


 そう言えば付属で試験が有るんだった、完全に忘れて居た合宿の話が出た時に十和子に伝えるべきだった、これじゃあ涼子の方がしっかりしている。


「そうよね、そう簡単に2つの事を、同時にやるなんて出来ないわよね」


買い物の日取りは、6月の最終週の土曜の午後からになった、この日から部活はテスト前と言うことで全面禁止になり、7月の第1週の週末3日間期末テストが行われる。


「美奈子師範代も買い物に誘った方が良いかな」


 今だに美奈子と親交が有るのだろうか、私の方はとっくに切れて連絡先も知らないでいる。


「あの人は来るかどうかも解らないし良いじゃないの、確か此花神社に下宿してるんでしょ」

「私も下宿先探さないと駄目なのかな」


 千葉市内まで通うのはかなり厳しい、部活をやらないのであれば平気なのだが、それじゃあ本末転倒だ。部活の推薦で特待生になるのだし、部活をやらないのであれば高校も辞めないと駄目なのでは無いだろうか。


「母の実家に一緒に住むって訳には行かないから、何処か探さないと駄目かもね」「リュウ君と一緒に住むのか、同性生活も悪くないかも」


 それは世間の目が許さないし、うちの両親も許しちゃくれないだろう。部屋を借りて住むと言うのも高校生には許してくれない、大学と高校なんて僅かな年齢差なのだが、どういう理屈か高校生の一人暮らしは簡単には認めてくれない。


「学校の寮は入りたく無いよね」

「寮なんて有るの」

「それは有るとは思うけど、セレクションの時に聞いてみる?」

「寮は嫌かも、リュウ君と会える時間減っちゃいそうだし」


 ダンジョンに潜る関係上、寮生活は辞めて欲しい、いよいよとなればSDTFに頼る方向でなんとかしてもらおう。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る