第75話「驚天動地」

 テスト結果が張り出されると大異変が起こった、私の順位はいつも通りだったから、こんな物かなと納得していたのだが、涼子の順位が何と職員室の前に張り出されて居るのだ。


「涼子さんって勉強出来るようになったのね」

「私もびっくりしました、涼子さんは仲間だなって思ってましたから」


 あずみと弥生のテスト結果は芳しく無いようだ、弥生はもっと勉強出来そうな雰囲気を持っていたが、学年の平均より上の成績を取った事は無いらしい。


「私もやる時にはやる女だって言う事、リュウ君と一緒の高校生活を送るから、このくらいの成績はね」


 涼子がふんぞり返って偉そうにしている、私は不正を疑っているのだが表面上はおくびにも出さない。


「皆さん席に着いて下さい」


 教室に小田切が入ってきたので、会話は強制的に終了させられた。

 朝のホームルームで、小田切の担当する数学の時間を使い、修学旅行での回る場所を決める事を連絡してきた。


 午後に成って小田切の授業が始まる、宣言通り修学旅行の回る場所を班で決める相談に入る。

 既に修学旅行の班は決定していて、結局女子班は私達以外の班と合流して、私達は9人で回る事になっていた。


 事前情報を仕入れて居たあずみが中心になって行き先を提案している、福島や宮城の事なんて全く知らない私は、あずみに全てを任せても良いと思っていたのだが、私以外の班員はそうでも無いようだ。


「自由時間が設定してあるのが喜多方と仙台の2箇所ね、喜多方はラーメンが有名であとは七日町通りって言う所が観光スポットみたい。仙台は自由時間に昼食を食べる所を予定に入れないと駄目なのよ」


 会津の方は一般的な観光地を回るようだが、仙台観光は割と自由が利いて、昼食を予定に入れる理由は社会性を育てると言う学習目的の一環のようだ。会津の自由時間は概ね、あずみの提案通りに進んでいく、2箇所程他の提案が盛り込まれたがその程度の修正で済んだ。

 もめたのは仙台での自由行動だ。


「仙台名物って牛タンだっけ」

「駄目よ昼食は1000円までって上限が決まっているから、牛タンなんて無理よ無理」


私も牛タンの他に思いつく物と言えば寿司や米沢牛なので、高価なものばかりだから中学生のランチには相応しくない。

 学校からのシオリには、手頃なランチが摂れる店が書かれて居たが、あずみはその店に納得していないようだった。


「牛丼屋で良いよ、安くて旨いし」


 食に興味が薄いらしい中垣内が、チェーン店の牛丼屋を提案してきたが、そこに行くぐらいなら学校側が推薦してきた店を選ぶ。


「牛丼行くならマックバーガーにしようぜ」


 宮沢の部活仲間横田が、中垣内に輪をかけて馬鹿な提案を盛り込んできた、その提案に案外悪くないとうなずいているのが美術部の増尾、宮沢と涼子は質より量なので聞くだけ無駄だ。


「海鮮丼の店はどうかな、ランチタイムだと1000円切るみたいだよ」


 雑誌に乗っていた、海鮮丼980円でうどん付きと言う店を提案した。


「悪くないんじゃないか、大盛りに出来るようだし」


 大盛りは1190円でアウトなのだが、レシートを見せる訳じゃないから好きに食べれば良いと思う、涼子も私の提案に賛成しているがどんな店を提案したって反対はしなさそうだ。


「生物が駄目でも天丼やカツ丼も有るみたいだから良いかもね、帰ってから電話して確認してみるわ」


 あずみの反応も良好だが、確認作業は学校か旅行会社の仕事なのでは無いだろうか、仙台での昼食は決まりそうだが、その後も立ち寄る場所決めで時間ギリギリまで話し合った。


「時間が来ましたので今日はここまでです、決まらなかった班は来週中に予定表に記入して提出して下さい、来週いっぱいで決まらなかったら旅行会社が提案した、寺社仏閣なのどの旧所名跡めぐりコースになりますからそのつもりで居て下さい」


 今日中に終わった班は無さそうだが、小田切の一言で未提出の班は出て来ないだろう、何処の中学生が好き好んで寺や神社なんかを巡りたいと思うのやら。


帰ってから、涼子の家を真っ先に訪ねてテストの詳細を確認する、涼子自信は無罪だとほざいていたが、そんな事信用出来るわけがない。


 まだテストが全て返却されて無いが、どうやらカンニングなどの不正を行って居た訳では無さそうだ。

 涼子の点数は文理で点数の良し悪しが有る訳では無く、暗記系の得点が異常に高く、それ以外特に応用が必要な物に関しては全ての教科で点数が低い。


「これって何かのスキルの影響なの」

「たゆまぬ努力とリュウ君への愛の力が結果に結びついたんだよ」


 勇者涼子のスキルは6つ、私も同じスキルを持っているがテスト結果に反映されそうな物は無い。強いていうなら『未来予知』だが、それだと暗記以外の点数が悪い理由に、説明が付かない。


それとも『鑑定』では計り知れない能力が存在するのだろうか、そうなると私には知る術が無いし、当人の涼子自信自覚出来ないのかも知れない。

 涼子は勉強した結果だと譲らなかったので、それ以上理由を追求する事は出来なかった。




水曜日3回めのレベリングが始まる、今回からSDTFのメンバーも1群は抜けている、江下の他は工作隊のメンバーでお初の人間も多い。

 冒険者も彦根同盟は抜け、全く別の顔ぶれになっていた。


SDTFの隊員から御園が居なくなったと言うことで、同行者に対して『鑑定』が効くようになった。気になるのは江下の能力で、早速江下に対し私とコスモで『鑑定』を仕掛けた。


江下敬子、30歳5月4日生まれ軍師、誕生日が来て1つ年を取ったらしい。

 誕生日が表示されるようになったのは、コスモだけで私の能力ではまだ無理だ。   


 レベルは公表していた通りの38、SDTFの攻略隊の中では森下に次いで高い。次のレベルまでの、残り経験値が表示されれば尚良いのだが、残念ながら私も、コスモも表示機能は付与されて無かった。


スキルで追加されていたものは『八門遁甲陣』と『速攻陣』、『遅滞陣』の3つ、効果は『速攻陣』が先制率アップ、『遅滞陣』は撤退防戦時に防御力アップと言う物だった。

最後の聞き慣れない『八門遁甲陣』だが敵の方向感覚を無くし、常にバックアタック状態で攻撃出来ると言う、何とも摩訶不思議な物でにわかには効果が信じられない物だった。


工作隊と公認冒険者の中で、気になる能力を持っている人間が1人居る、逆に言えばその人以外特段興味を持てる能力が無いとも言えるが、工作隊の隊員で野口清太郎59歳定年間近の初老の男だった。


「お待たせしてしまったようだね、今日はよろしくお願いしますよ緒方君」


 野口の能力を『鑑定』している最中に現れたのは佐伯室長だった、1人レベリング要員が少ないとは思っていたのだが、まさか最後の1人が室長だったとは思いもしなかった。


「室長こういうのはこれっきりにして下さい、優先してレベルを上げたい人員は室長以外にも沢山居るのです」

「そうは言うけどね江下君、彦根ダンジョンも奄美大島ダンジョンも攻略出来て、今は余裕が有るじゃ無いですか私がレベルを上げるのに丁度良いと思いませんか」

「室長それはまだ公開情報では有りません」


 下級ダンジョン2つが攻略されたのか、ならば私に一報が入っても良いのだが、秘匿されて居たと言うことは、石碑の解読に私を頼らず成功したのだろう。


「ここに居る皆さんは大丈夫ですよ、信頼出来る方々ですから」


 攻略されたダンジョンに関東の名前が無い、SDTFダンジョン攻略隊の中では1班が1番レベルが高く戦力も充実している、なのに何故攻略してないのだろうか。


「御園さん達って何をされてるんですか」

「御園君達には中部甲信越地区のダンジョンを探して貰ってます、有力候補の名古屋でもまだ発見されていませんので、範囲を広げて居るんですよ」


 中部甲信越のダンジョン発見に尽力を注いでいたようだ、あそこら辺りで気になる場所と言うのは、一箇所心当たりが有る情報を提供して置いてやるか。


「富士山周辺に中級ダンジョンが有るみたいですよ」

「その情報は何処で入手されてた物ですか、それと詳しい場所をご存知なら住所を教えて下さい」


 室長と話している所に、江下が割って入ってきて富士ダンジョンの詳細を知りたいと聞いて来た。


「情報元は神託ですね、情報自体を手に入れたのは1年程前です、富士山に中級ダンジョンが存在するって情報だけなので詳しい場所は分かりませんよ」

「そうですか、参考にさせてもらいます」




 ダンジョン突入前に一騒ぎ有って中に入って、いつものように60部屋を回って、レベリングは終了した。  

ダンジョンの外に出て、改めて今回レベリングに参加した冒険者達に『鑑定』を掛けて回った。

私達のチームではコスモが41レベルに上がった、取り扱う商品が再入荷したが新たな商品の入荷は無かった。


 今回のレベリングに公認冒険者は3人参加している、剣士が2人に戦士が1人と言う、今までにも見かけた事が有るジョブばかりで、レベルも20程度まで上がったが特段私が気にするような事はスキルを含めて無かった。


 SDTFでは佐伯室長がレベル17から23にまで上がって『測定』と言うスキルを手に入れていた。

『測定』は世の中の出来事を、数値で測定出来るように成るスキルのようだが、使い方が特殊過ぎて私には何が何の事かサッパリ解らなかった。


 工作隊3人の内2人は、歩荷だったので彼らもいわば普通だ、『収納』スキルは優秀だが代替手段も今は多い。工作隊と言う部署では、『収納』持ちは重宝されるだろうが言ってしまえばそれだけだ。

 問題の野口清太郎に関しては、私とコスモの2人体制でじっくりとその能力を『鑑定』する事にした。


 野口清太郎、59歳10月25日生まれジョブは魔導技工士。

 レベルは3だったのが20まで上がって居て、スキルは全部で5つ。最初に鑑定した時には『魔道具製作』の1つしか所持していなかったので、『整備』、『鑑定』、『修繕』、『廃棄』のスキルは今日のレベリングで取得したものだと思われる。


 簡単に魔道具と言っても、私が知る物は帰還用の魔道具しかない、他にも有るのだろうがコスモに問いただすような事はまだ行っていない。

 何が作れるのか、また今後作れるようになるのかは『鑑定』で読み取る事は出来ない。『整備』、『鑑定』については私達も良く知るスキルなのでそこは大丈夫だ。

 残りの『修繕』と『廃棄』だが、修繕はダンジョン産の武器防具魔道具に関して耐久度を修繕出来るスキルで、『廃棄』は呪われたアイテムをコスト無しで廃棄出来るスキルらしい。

呪われたアイテムが存在する、という情報をまた1つ得られた、この情報によってダンジョンで得られる物を、全て鑑定しなければならない事になった。


 いつもならレベル上げが終わったタイミングで解散するのだが、野口の事が気になり、直接野口に声を掛けるのでは無く、まずは佐伯室長に声を掛ける事にした。


「佐伯室長ちょっとお話よろしいですか」

「暇じゃないとは言えないね、レベリングを手伝って貰ったんだから。緒方さんになら少しくらいの時間は構いませんよ」


 涼子達は先に帰るようだ、私が話している相手が室長だったからだろう、女っ気が無いと判断したのだと思う。

 私は室長に誘われ、梅田支部近くの純喫茶やどり木に移動する、この喫茶店警察関係者だけでは無く、SDTF職員にも使われて居るようだ。


「お話は私が新たに得たスキル『測定』についてですか」

「魔導技工士野口清太郎さんについてですよ」

「やはりそちらでしたか」


 そう言うと室長は、懐からおもむろにライターを取り出した、時代的に誰もがタバコを吸っているのだが中学生を目の前にして、喫煙は辞めてほしい物だ。


「野口さんが作り出した魔道具です、手にとって確かめて下さい」


 どう見ても、チャッカサンにしか見えないライターなので引き金を引いてみたら、やはり火が着いた。


「これが魔道具ですか」

「ガスを使って無いんですよ」


 マジカと思い、ガスが入ってるであろう場所を見ると、小さな石がはめ込まれているのが見えた。


「その石なんですがね、魔物のコアを加工した物なんですよ」


 普段コスモに買い取って貰っている物か、だとするとこの魔道具、飛んでもないコストになるんじゃないのか。


「その石だけで1000クレジットはしますよ」

「10万円ですか」


 ライターに10万は出せない、使い捨てライターなんて100円も有れば買える物なのだから。


「他の素材や野口さんのコスト、利益を考えると倍の値段は必要ですよ」

「無限に使えるとか、そう言う機能は?」

「ライターよりは長く使えますが、普通のライターを2個3個と用意した方がよっぽど効果的で経済的です。ただ、ダンジョンの中でも使えると言うのはメリットですね、ダンジョン内ではマッチすら反応しないので」


 なるほどそう云う使い方が有るのか、私達には必要ないが他の冒険者達には有っても邪魔にはならないだろう。


「冒険者相手に売れるんですか」

「販売していませんよ、そのライターモドキは」

「つまりは他の物を販売している、と言うことですか」

「野口さんのレベルが低くて、今日までは実用品が作れる状態では無かったと言うことですよ、明日からはどうなるか分かりませんが」


 野口の事を秘匿するよりも、レベリングに参加させた方がメリットが有ると判断したようだ、だから私達の目に入る事は覚悟の上だろう。


「この先に期待ですか、出来た物は見せて貰えるんですか」

「それは勿論、悠木さんにも買い取ってもらいたいので」


 魔道具を収集することで商品が充実する事を狙っているのだろう、となるとあのリターンの魔道具、元は野口が作った物では無いのか。


「野口さんと世間話をする機会ってありますかね」

「どうでしょうか、もうすぐ定年されますので機会が有るかどうか、私には何とも言えませんよ」


 腹の探り合いでは佐伯室長には敵わないが、魔道具の現物はこちらにも回してくれるようだ、全ての魔道具とは行かないとは思う。

 それでも他の公認冒険者達よりは、私達を優遇するつもりが有る事を確認出来た。


ある程度話に納得出来たので、私は純喫茶から帰る事にした。


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