第54話「奄美大島ダンジョン」
そこは砂浜で一面に海が広がっていた、海を背にして振り向くと小高い山と鬱蒼と生い茂るジャングルが目に入った。
「孤島でしょうか」
水平線の向こう側には何も見つけられない。
「ここがダンジョンなんですかね」
疑問を抱きながら手近に落ちていた石を拾い魔法で身体強化してから思いっきり海に向かって石を投げると海岸から100m程の地点で壁のような物にぶつかり石が海面に落ちた。
「外海には出られないみたいですね」
「海を探さなくて済んで不幸中の幸いです」
この孤島外周一周するのにどの程度の距離があるのだろうか。
「この砂浜大分と締め固められて居るみたいですね」
「石川に有る千里浜みないた物でしょうか、車が有れば走らせてみたいです」
ご要望に答えてJupiter号を出してみた、初めて目にした森下と北川は驚いたようだが肥後を先頭にして乗り込んでいく。
「車を持ち込めた事はまだ理解出来るのですがどうしてエンジンが掛かるんですか」
「肥後さんのスキルの力だと思いますが島の外周を回ってみますね、生き残りが居れば何かしらの痕跡を残していると思いますから」
Jupiter号が砂浜を走っていく、時速30キロのノロノロ運転だが徒歩で歩くよりは余程ましだ。30分程走った所でなんと掘っ立て小屋では有ったが人工物を発見した。
「北川さん、何人の作業員がどのようなジョブとスキルを持っていたかハッキリと教えて貰えませんかね」
「簡易アイテムボックスを持った建築家と樵それに魔道士の三人組です、建築家は重機無しで建築が出来ますし、樵は切り倒した木を一瞬で木材に乾燥成形する事が出来ます。魔道士は緒方さんには遠く及ばないものの魔法が使えます」
他の二人は判るとしても何故魔道士が攻略隊のメンバーに選ばれて居なかったのか不思議に思ったので聞いてみた。
「魔物に有効な攻撃手段が無かった為です、火を起こしたり水を取り出したりは出来ましたがそれでおしまいです。緒方さんは魔法で魔物を攻撃出来ると聞いてますが何か方法が有るのでしょうか」
私が何か特別な事を行ったろうか、拠点の図書館に有る魔法書を読んだ程度でそれ以外特別な訓練を積んだ訳ではない。しかし彼らはその魔法書も読んでは居ないのか、でもあの本を日本語に翻訳するとかちょっと遠慮したいので口には出さないでおく。
「私にも判りません」
小屋の近くにJupiter号を停めて今度は私が先頭に立って降りる最後に降りてくるのは肥後でコスモを始め全員が周囲の警戒に当たる。
「小屋の中に気配が有ります気をつけて」
「私が外から声を掛けますので皆さんは警戒しつつ待機を願います」
北川が小屋の中に向かって少し大きな声で呼びかけを行う。
「長島さん、杉浦さん、屋敷さん聞こえますか、私は攻略隊の北川です私の声が聞こえたなら返事をして下さい」
「救助に来て貰えたのですか・・・私達は3人共無事です」
中からか細い声が聞こえて来る、すすり泣くような声も聞こえるので生きて居た事には違いなかった。
「小屋の結界を解けますか」
「はい・・・解除します」
その返事と共に小屋の壁が一面剥がれ落ちた、そう言えば出入り口は無かったなと思い返す。小屋の中に入ろうとしたが思わず躊躇してしまった、なぜなら中からかなり強烈な臭いが漂って来たからだ。
「聡志兄ちゃん臭いよ」
小屋の中に居た3人はほぼ寝たきり状態に陥って居たようで臭いは糞尿の物だと解った、北川と肥後が3人を小屋から運び出してくれたのでコスモの『鑑定』に従って回復魔法を掛けて行く。
ろくな物を食べて居なかった3人に『収納』でしまって有った米を使って森下に雑炊を作ってもらった、貪る用に食べる3人はやはり臭いがきついので森下の『野営』でコンテナハウスを稼働させ風呂を沸かしている最中だ。
「よく生きていられましたねこんな場所で」
「持ち込んだ食料と海の幸でなんとか命を繋いでました、長島さんの『建築』スキルと『結界』が無かったら魔物達に襲われて死んでいたと思います」
比較的元気な屋敷と言う男から事情を聞いている、レベルは9の樵で3人の中では唯一直接戦える戦闘員だった勿論私達のような戦闘職では無いので同レベル帯の敵でも勝てる保証は無いが。
3人で一番弱っていたのは魔道士の杉浦何ヶ月もの間水を作り出し続けていたらしい。
「魔法で作り出した水なんて飲めるんですね」
「殆ど味はしませんでしたが杉浦も頑張って魔法を使い続けてくれました」
風呂の用意が出来たので元気な屋敷から順番に入ってもらった、コンテナハウスの排水溝から泥水のような汚水が流れてくる光景は忘れられなくなりそうだ。
最初に風呂に入った屋敷がコスモ商会で購入した新しい下着と服に着替えると直ぐにベットで眠ってしまった、次に汚れを落とした長嶋も、肥後の介助で入浴した杉浦もやはり疲れた貯まって居たのだろう3人とも深い眠りにはいっていた。
「彼らが起きるまでどうしましょうか」
「安全地帯をキープするために森下さんの居残りは決定で私と涼子とコスモ君で周辺を探索してきますよ」
「それなら私も一緒に行かせて下さい」
肥後が着いてくると言いだしたが森下と同じ用にJupiter号の機能を使い続ける為には残って貰った方が良いだろう。
「肥後巡査部長の代わりは務められませんが私が同行しても構いませんか」
北川のレベルは15まで上がっているし弓を使うにも適した場所だ連れて言っても邪魔にはならないだろうと判断し北川を連れ周囲の探索に向かう事にした。
「どうしてあの人達ダンジョンに入っちゃったのかな」
マッピングはコスモに一任なので私と涼子は周辺居るであろう魔物の位置を探りながら歩いている。近場に魔物が居ないようなので涼子が彼らの話を北川に聞いていた。
「レベルを上げたかったようです奄美大島ダンジョンは他の下級ダンジョンに比べて推奨レベルが低いので」
コスモが読み取ったダンジョンの情報は私達が訪れる前既に供給化されていて下級ダンジョン内でも更にレベルの低いダンジョンだと言う認識が有ったようだ。
「レベルを上げてどうしたいの?」
「新たなスキルに目覚めたかったんだと思います、長島さん達工作隊のみなさんは攻略隊に比べるとレベル上げの支援が薄いですから」
戦闘員以外のレベル上げが後回しになると言うことは私にも理解出来た、しかし何故そこまでレベル上げに固執するのかと言う理由は解らなかった。
「スキルを有効だと言う事は身を持って経験してますが、それでも命を掛けてまでレベルを上げる必要は無いのでは無いですか」
「一部の職員にダンジョンから魔物が溢れて世紀末が来ると言う末法思想が広がっているのです、長島さん達はその影響を受けてレベルを上げて家族を守りたかったのでは無いでしょうか」
世紀末にダンジョンから奴らが溢れる事は無かったがその後人類は滅亡寸前まで追い込まれている、誰が言い出した事だがかは知らないが的を射た話だと思う。
島の中心部に向かって移動していくと魔物の襲撃を受けるようになり雑談している余裕は無くなった、しかし襲ってくる連中のレベルは低く怪我を負うような場面は一度も無かった。
「あの部分が上下階の入り口らしいですね」
小高い山の山頂に孤島には不釣り合いな階段が存在していた、上りも下りも同じ場所なのであの階段を登って行けば外に出られるだろう。
「リュウ君アレって中ボスかな」
階段の前にはレベル15のホブゴブリンが鎮座していたが私や涼子からすると雑魚以外の何物でも無い、コスモの『鑑定』の結果特殊な能力も無さそうなのでさっさと討伐してしまう事にした。
「北川さんコスモ君の事お願いします、あのホブゴブリンは私と涼子が始末しますので」
「援護に入りましょうか」
「弓の援護に慣れてないので今回は遠慮しておきます」
「そうですか」
涼子が先頭に立って私は支援魔法を涼子に掛ける、ホブゴブリンの探知範囲に入るとホブゴブリンの左右に新たなゴブリンが湧いて出た。
湧いて出た内レベルの高い方に向けて魔法の火の矢を放つ両手をクロスして炎の矢を耐えようとしたがクロスした両腕毎吹き飛ばして絶命した。
ホブゴブリンに向かっていた涼子はそのままホブゴブリンの首を吹き飛ばし、取り残された最後のゴブリンはホブゴブリンが使っていた槍を拾い涼子に向かって突きだそうと構えたがその頃には涼子の刀がゴブリンを袈裟斬りにしていた。
「圧巻でした」
「レベルも低そうだったしこのくらいの奴なら負けないよ」
北川が涼子を称賛している内に奴らの死体をコスモに『収納』してもらう、珍しく残された槍だったが攻撃力は7と私や涼子の使う聖剣には劣るがダンジョン内で出現する宝箱の中身の同等以上の品だった。
「肥後さん達も心配してると思いますので戻りましょうか」
反対する理由もないので山を降りて肥後達が休んでいる野営地に向かう、Jupiter号で直接乗り込む事は難しいだろう山に生い茂る木々が車の侵入を拒んている。長島達の状態を見る限り今日中に出口に向かう事を難しい、今日どころか彼らの体力が回復するまで数日は付き合う必要性が有るかも知れない。帰り道も散発的に襲ってくる奴らを狩るだけで無事に帰り着いた。
「もう帰り道を見つけたんすか、じゃあ今日中に帰れますね」
「長島さん達歩ける程回復されたんですか?」
森下が私達の帰りを出迎えてくれて出口を見つけた事を伝えると喜んでくれ、今にも帰り支度を始めそうだったので北川が長島達工作隊の様子を聞いている。
「忘れてました、起こす事も難しそうです」
私もコンテナハウスの中に入ってベットで眠りこける3人の様子を確認した、今日は勿論明日も厳しいかと言う雰囲気だった、ただ回復魔法を使い食事も充分に摂取した事により顔色は悪く無かった。
夕方、そうここでは時間の経過が景色に寄って判る稀有な場所で有ったようで夕日が海に向かって沈んでいく。
「時計が無くても時間が判るね」
涼子と二人砂浜を歩いている目的地なんか無くてただなんとなくだ、海岸沿いにも魔物が居たが私達が近づくと逃げていくヤシガニを少し大きくした程度のカニの魔物で『鑑定』の結果食べる事も出来そうだった。
「ここで泳げるかな」
「リュウ君海で泳いだ事有るの」
「有るよ」
「そうなんだ、じゃあ夏になったら私も連れてってね」
記憶に有る限り私が海で泳いだ事が有るのは大学時代の爛れていた時期と子供たちを海水浴に連れて行った時だったからこの時点ではまだ泳いだ事は無いのかも知れない。
「まだ春だったね、ここに居ると季節感が無くて今直ぐにでも泳げそうだと錯覚しちゃったよ」
「ダンジョンに有る海なんて何が居るかも解んないよ、こんな場所で泳ぎたいなんてリュウ君らしくないね」
私らしく無いか、本当にその通りだと思いながら沈む夕日に背を向けて野営地へと戻っていった。
「聡志君何でも持ってますね」
「何でもは有りませんよ事前に仕込んでいる物だけです、コスモ君に言えばそれこそ異世界の物でも購入出来ますよ」
「クレジットなんて持ってないですから」
森下が料理してくれているのはバーベキューで海のキャンプの定番の品だ、野菜と肉を切るだけなので誰がやっても味は変わらないだろうが『調理』スキルの持つ森下がカットすると平凡な野菜も旨く感じるので不思議だ。
「長島さん達起きて来ませんね」
「まともに眠れたのが久しぶりなんじゃないですか、あの小屋の中じゃ無理も無いですよ」
既に長島のスキルで作られた小屋はバラされて居る、そのままでも問題無さそうだったが北川の判断でダンジョン内に建築物を残したままだと何が起こるか解らないと言う案を採用した。小屋をバラしたのは主に肥後で残骸はコスモが『収納』していた。
「さあ焼けたっすから皆食べて下さい」
森下手製のバーベキューを食べた後はそれぞれの場所で一夜を明かすことにした、組分けはコンテナハウス内に森下と北川Jupiter号の中に残りのメンバーと言う風になった。森下がコンテナハウス、肥後がJupiter号この組み合わせは絶対で森下の居ないコンテナハウスは薄い鉄板が貼ってあるだけのプレハブ小屋に過ぎずモンスターの襲撃に耐えられないかも知れないのだ。もっとも野営地そのものが森下のスキルで安全なのかも知れないが念には念を入れた形だ。
既にコンテナハウスに収まるベットの残りは1つで森下と北川が同衾していた流石の森下でも男ばかりの密閉空間に1人で寝る勇気は無かったらしい。Jupiter号の組分けは主寝室のダブルベッドに私と涼子それにコスモの3人、ゲストルームの二段ベットには肥後が休んでいる。
ダンジョン内で一夜を過ごす事は初めてで多少緊張していたがウトウトしている間に寝入ったようで目が覚めた時には日が登っていた。
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