第32話「札幌ダンジョン」

 試合が終わると1時間程の休憩の後表彰式が行われ私は賞状と盾を貰った今回はプレ大会なのでトロフィーは無いらしい。式が終わると遊馬達が祝ってくれると言うので遊馬の知り合い達と関東代表勢合同でジンギスカンを食べに行くことになったのだ。

 時刻は6時を少し回った所で周囲はかなり暗くなっているがまだ人の姿は確認出来る、逢魔が時と言えば良いのか私達が向かっているジンギスカン屋は北大を突っ切って行った先にあるらしく無許可で入って大丈夫かと心配になったが私達だけでは無く多くの人が行き交っていた。


 そんな中で西門前にたむろっている集団がある、こちらに難癖着けて来るでもないがまるでゾンビのような死んだ目でこちらを見つめてくるのだ。死んだような目をしている原因はシンナーか薬物だろう、かなり離れた場所に居るのに匂いが漂ってくる。彼らは不良・ヤンキーもしくは暴走族に分類される解りやすいアウトサイダーで何故こんな場所にたむろしているのか理由は分からない。ラーメン屋の奥さんが言っていた輩はこいつらかと言う程度の認識で無視していたのだが無視出来なかった跳ねっ返りが私達一行の中にいて早速彼らと揉めていた。


「緒方達は先に店に行っておいてくれないか、俺は弘岡達の尻縫いをしてから行くので少し時間が掛かるかも知れない。店の場所は・・・」

「遊馬君場所は私が知っているから大丈夫だよ、君たちも管轄外なのだから程々にしておいてくれよ」


 引率者の1人が警察OBで遊馬とも顔見知りのようで、店の場所もその理事が知っていたから私達子供グループと引率の理事だけが先に店に行くことになり警察関係者はたむろしている少年グループを補導するらしい。

 早足になって北大の構内を移動する、中にまでヤンキーグループは入りこんで居ないようだったから歩くスピードを戻してユックリと移動していたのだが構内の一角に違和感を覚え鑑定を試みる。


「涼子あそこ変じゃない?」

「あそこって建物の影の所?アレってひょっとしてダンジョンかなこんな場所にも有るんだ」


 私が指差した先を涼子が確認してダンジョンでは無いかと答えてくれた、鑑定の結果は初級ダンジョンと出ていたがまさか北海道にダンジョンが存在するなんて考えても居なかった。少なくとも2020年時点で北海道から奴らが溢れ出ていたダンジョンは無かった筈だ。


「明日の昼間調べに行ってみよう」

「うん良いよ」


 釈然としないものを感じながらジンギスカン屋で羊肉をたらふく食った、遊馬達警察組がジンギスカン屋に現れたのはだいぶ時間が経過した後だった。ヤンキーグループは全員札幌署に引き渡されたらしいが弘岡が首を捻って納得していない表情だったので話を聞いてみた。


「弘岡さんどうかしたんですか」

「どうかしたって訳じゃないんだけど札幌署の連中の態度がね、あんな道端でシンナーや怪しい葉っぱを吸っている奴らを放置してたのが気になってね。あの葉っぱが薬物がどうかは検査待ちだけどシンナーなんて誰が見ても一目瞭然なのに「ああそうですか」なんて職務怠慢としか言えなくてね」


 札幌署の無気力捜査に憤っているらしい、遊馬達年配の警察官達が他の事件で忙しくて手が回らなかっただけだろうと宥めては居たがその宥めて居る警察関係者自身が釈然としていなようだった。会がお開きになったのは10時前未成年者を連れている配慮がなされたようで私達はその後タクシーでホテルまで送ってもらった。明日は国体の開会式と試合があるようで応援よろしくと弘岡に頼まれた試合の予定時刻は11時からだったので朝一番に北大のダンジョンを探ってから試合会場に向かう事にした。


ホテルでモーニングビュッフェを食べて居ると涼子と佐奈江がやって来て私のテーブルに相席してきた、涼子はいつもの事だが佐奈江がやってくるとは驚きだ2人は仲が良くなったのだろうか。


「緒方君川上さんにもお願いしたんだけど練習の相手になってもらえないかしら」「練習するって何処でやるんですか」

「近くの小学校の体育館を午後から借りて貰ったの、何日も竹刀を持ってないと感覚が鈍るでしょ、だから川上さんを誘って緒方君には私達のサポートに回ってくれると有り難いのよ」


 男子の試合は到着した翌日からだったから練習している暇は無かったが女子の試合はだいぶ間隔が開く、練習したい気持ちは分かったので了承する事にした。


「そういう事なら大丈夫ですよ、昼食後にホテルで待ち合わせでいいですか」

「お昼は一緒に食べましょ、待ち合わせはホテルで良いけど午前中は何か予定が有ったのかしら」

「弘岡さんの応援に行く約束をしたんで試合観戦ですね11時に試合予定って話だったんですけど一緒に応援しますか」

「ごめんなさい、これから走りに行くつもりだから遠慮しておくわね、2人は気にせず応援に行ってきて」


 涼子と佐奈江の2人は山盛りの料理を運んできて朝食を食べているビュッフェ形式なんだからおかわりすれば良いと思うっていたのだがおかわりを2回も行ったので余計な事を言わなくてよかったと胸を撫でおろした。

 佐奈江と分かれて私と涼子は北大の構内を歩いている、始業時間なのか学生達の姿が幾人も見えるが私と涼子を気にしている学生は居ないようだ、こんな時間に中学生カップルが歩いていても不思議に思わないのだろうか。

 ダンジョンが有ったのは校舎と校舎の間にあるデットスペースで半分物置状態になっていてダンジョンはその物置の影になっていて表からは見えなくなっていた。


「誰かが隠したって事なんだろうね」

「そうなのじゃあ北海道にダンジョンが見える人が居るって事だね」


 見える人どころか中に入ってダンジョンを走破した人間が居る、この札幌ダンジョン既に攻略済だった。


「入ってみる?」

「神無山ダンジョンと同じで攻略済みたいだから入れないよ、涼子の『瞬間移動』候補には入ってる?」

「うん入ってる、試してみる?」

「今は辞めとこう、いつまでもここに居たら不審がられるから会場に移動しようか」


 札幌ダンジョンは私達が攻略した神無山ダンジョンと同じ初級ダンジョンで攻略された正確な日付までは分からないが少なくとも夏休み以降だった事は予想出来る。ダンジョンを隠すように囲っていた荷物の中に今年のオープンキャンパス案内の看板が有ったからだ。


「見つけられるかな」

「ダンジョンを攻略した人の事?」

「うん」

「僕らには無理だよ、それに探す気も無いし」

「あっそうなんだ」


 涼子と話た事は無いが私は新宿ダンジョンを攻略するメンバーを早々に集める気は無い、あのダンジョンに挑むとすれば推奨レベルの70を大きく超えて他のダンジョンも攻略した後だ。レベル上げが崩壊までに間に合わなかったら北海道に逃げるつもりだったが北海道にもダンジョンが有った現実を考えるとそれも長くは持たないのかも知れないが少なくとも関東、東北が全滅した後も北海道は人類が生きながらえていた。

 西門を出ると流石にヤンキー軍団は居なくなっていた、まだ流暢に入れられているかは不明だが昨日の今日でこの辺りにたむろしていたらイカれているとしか言いようがないか。会場に到着すると開会式は終わって試合が始まって居たが弘岡の出番まではまだ時間が有ったが会場に居た遊馬に手招きされたので近寄っていった。


「最終日まで観戦する予定だったんだけど午後の便で東京に戻ることになった、弘岡も負けたらそのまま帰るんだが万一勝ったら応援してやってくれ」

「応援はしますけど涼子の試合はまだなので午後から練習ですから今日は午前中しか会場に居られません」

「まあ負けるから問題無いだろ」


 相手が何者かは知らないが遊馬は弘岡が負けると予想しているらしい、対戦表は本日発表されたもので事前に誰と対戦するかは分からないようだ。


「東京で事件ですか」

「事件なんて毎日起こっているんだけどな、俺の方は警備の仕事だよアメリカの大統領が急遽来日する事になったんだ。弘岡は応援要因だな、大会を切り上げて帰って来いとは言われなかったから予備の予備なんだろうな」


 この時期に大統領が来日したなんて事は覚えちゃ居ない、バブル絶頂期のこの頃何か大きな出来事があったかと考えていたらそう言えば湾岸戦争ってのがあったなと思い出した。NHKで放送していたアニメが1月休止したから覚えているそれが正月明けくらいだったから2年程先の話だが状況はこの時期から既に関係は悪くなっていたのではないだろうか。

 時間を若干押して弘岡の試合が始まった、相手は熊本出身の選手で昨年の大会優勝者だった。開始そうそうに弘岡は一本取られ二本目は粘りに行ったが結局あっけなく一本を取られ二本先取され弘岡はまけてしまった。


「順当に終わってしまったな」

「あの宮本さんって強すぎませんか」

「選手権を三連覇中だから強い事は間違い無いな」

「宮本さんも警察官なんですか」

「いや高校で体育を教えている、熊本の神武館高校と言う剣道強豪校だから練習する時間は山程あるんだろうな」


 あの人が神武館高校を教えているのか、中等部も指導しているのかは分からないが肥後巧が中学剣道NO1になっている理由が垣間見えた。控室で着替えて来た弘岡は若干肩を落としていたがそれでも空元気を出して東京に帰っていった飛行機のチケットが取れなかったらしきキャンセル待ちで空港に詰めるらしい。


 ホテルに帰って佐奈江と3人で飯を食ってから近くの小学校に出かけウォーミングアップを行ってから防具を着けて3人で交代しながら模擬試合を行う。涼子と佐奈江の間には大人の子供の差どこれではない無い実力差が会って模擬戦を行う意味など無いが涼子を器用に立ち回って佐奈江の限界ギリギリの速度で打ち込んでいる。当然佐奈江が全てを交わしいなす事なのど不可能なのでアチコチを打たれているが練習にはなるだろう、私は2人のサポート役なので大した事はしてないがそれでも練習が終わった時刻には汗だくになっていたのでホテルに帰ると直ぐにシャワーを浴びて身体を清めた。


 夕食はホテルで揃って食べる、引率の理事の姿が2人程見えないが大会運営委員と一緒に繁華街に繰り出しているのでは無いだろうか。食事が終わった後1人部屋に引きこもると札幌ダンジョンの事を考える。

 そもそもダンジョンが最初に発見された鎌倉、一般人が見ないはずのダンジョンが何故発見されたのかそれは初級ダンジョンが攻略されなかった為姿を現したと考えて居たのだが札幌に存在した初級ダンジョンは既に攻略されている。つまり私はてっきり世界各国にあるダンジョンが共通しているのだとばかり思っていたのだがそれは甘すぎる考えだったようだ。国内どころか地域によってダンジョンは分断している、つまり元々北海道地区のダンジョンが攻略されていたので北海道が安全地帯になっていた。その北海道にも奴らの魔の手が襲いかかってきたのだがそれは本州から奴らがやって来たのでは無く中級以上のダンジョンが攻略期限を過ぎて崩壊したため襲ってきたと言うことにならないだろうか。

こんなのは想像だけで何の確証も無いのだが今ある情報を組み立てていくとそういう結論に達するのではないか、だとすると不味いのは他地域の初級ダンジョンが放置されている場合だ。むしろその可能性は高いと感じる、まだまだ余裕があると考えて居たのだがこうなると話は変わってくるどの程度の規模で地域が区切られているのかは分からないが他地域の初級ダンジョンは攻略しておかないと国内の秩序が崩壊しかねない。

幸い日本は島国で鎖国は比較的簡単に行える、実際襲撃が起こった日以降国外との国交は途絶えた。同盟国で有ったアメリカは勿論韓国や台湾とも往来は途絶えて居た。


じゃあ具体的にどうやって日本各地の初級ダンジョンを探すかと言えば方法が全く思い浮かばない、移動するための足は無いしダンジョンを知覚するにはよっぽど近くまで移動しなければならない、鑑定スキルを上げて行ったとしてもその先にダンジョンを発見出来るような能力が備わるとも思えない現状では為す術が無かった。

 来年以降ダンジョンが発見されていく筈で片っ端から回ればダンジョンを見つける事も可能かも知れないが目立行動を取りたくないそれに崩壊寸前のダンジョンがどうなっているかも分からないから初級ダンジョンだとしてもむやみやたらと入りたくは無い。


じゃあ何をするべきなのか、仲間探しとレベル上げ、いよいよとなれば鎌倉の下級ダンジョンの攻略も考えなければならない段階に入ったのかも知れない予定では成人してから行動に移るつもりだったのだがそれでは遅すぎる可能性が出てきた。


 翌日には何事も無かった顔でみなの前に顔を出す、今日は興津と田沼の姿も見えるが2人は今日の便で東京に戻るらしいから午前中観光に付き合って午後からは昨日と同じで涼子と佐奈江の練習に付き合う。今日は付添の理事も練習に出てくれるようで私がやらなくてはならない事はだいぶ減っていた、札幌観光を終え興津と田沼を見送った後着替えを取りに戻ってから近所の小学校に向かう。三連休の最終日で明日からはこの体育館は使えない、試合前日まで練習なんてしないかと思いながら2人の練習を手伝う。夕方練習を終えてホテルに帰ると明日一日は完全休養日にすることになり私と涼子は札幌デートを行う事を約束させられてしまった。


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