第30話「レベルとは」

 霊園からダンジョンに至る途中で車を止めそこからは山道を歩いて登っていく、コスモもレベルアップの効果だろうかスタスタと歩いて私達に着いてくる、産後2ヶ月経とうかと言う後藤だったがその歩みは軽やかでお産のダメージは感じない。欧米人なら出産後1日休んで次の日から仕事に戻るなんて話を耳にした事もあるので人によってダメージの受ける割合が違うのだろう。


「この道も涼子ちゃんのお祖父さんの土地なの?」

「私は知りませんけど」


 涼子は本気で知らないのだろうがここは公道だろうな、舗装されてる部分も有ったし。


「公道だと思いますよ車が入れた辺りまでは舗装されてましたし、この辺りの山道だって昔は整備されてたんじゃないですかね今じゃご覧の通りですけど」


 緩やかな坂道を登っていくと小屋が真っ先に目に入る、前回来た時と変わらず誰かが立ち寄った形跡は見られない。


「あの小屋は?」

「あそこは涼子のお祖父さんが所有している小屋です」

「ああそうなの中は何が有るの?」


 その言葉でコスモから説明がしてない事は理解出来た、拠点の話を後藤に伝える役目は私かと自分の顔を指差すとコスモが大きく頷いていた。


「あそこはダンジョン攻略の拠点です、涼子の持っている鍵を使えば宿屋兼商店のような物に変わりますが口で説明するより実際に見てもらった方が早いでしょう涼子鍵を」


 涼子に解錠を促すと懐から取り出した鍵で小屋の扉を開ける、すると外観が西洋風に変わり中も以前見た商館と同じになった。涼子に続いて私とコスモそして最後に後藤が中に入る、後藤は若干戸惑っていたが椅子に腰掛け質問してきた。


「これってどういう事なの魔法の力って事じゃないのよね」

「魔法じゃ無くてスキルらしいですよ、コスモ君の商人としてのスキルなので完全に把握出来ては無いみたいですけど」

「そうなのコスモ君」

「うん拠点、ホームを作れるスキルで今は1箇所しか無理だけどクレジットが貯まったら他の場所にも拠点を増やせるみたい」


 クレジットを貯める為には現状奴らの素材を売るしか無い、コスモが何故スキルの仕様を理解出来たのかは不明だがダンジョンに入りたい理由の一つに拠点を増やすという目的が有るのかも知れない。自宅近くに拠点を設定すればコスモも移動し放題と言うことになる。


「トイレも有ってシャワーまで浴びれるのね、快適に狩りが出来る事は心の余裕に繋がるわよね。うんレベル上げが楽しみね」


 拠点に一瞬にして戻れるキーワードをコスモは後藤に伝えるつもりは無いようだ、当然私と涼子も余計な事を言わず荷物を置くと早速ダンジョンに突入しようと言う話になった。


「後藤さん今のレベルは0ですよね」

「うんそうよ、聡志君と涼子ちゃんがレベル15でコスモ君はレベル10なのよね」


 レベルは15のままだ、奴らを倒さない事にはレベルは上がらないと言うことだろう、現実には筋トレや模擬戦でも経験を積むことは出来るのだが私達が得たレベルシステムはそうでは無いらしい。


「ホームセンターでバールを買って来たんだけどどうかな」

「バールですか、有効かも知れませんがそれよりもこの斧を使ってみませんか、私と涼子は剣を使いますので」


 以前アキバで買ったバトルアックスを後藤に手渡す、重さを確かめて居るが少々振り回すには筋力が足りないようだがバールよりは取り回しが楽だろう。私と涼子それにコスモは防具を装備して準備をすすめる、後藤は防具に関して一切持ち込んでおらす今回は後ろで見学に徹してもらうしかない。


「何処で防具なんて用意したの?」

「自作が半分とサバゲーのショップで買った物が半分です。コスモ君は自分の商店で買った物らしいですよ」


 コスモが日本円で590万の防具を一揃していたのには驚いた、今なら俺だってそのくらいの金右から左に用意出来るが不審すぎるだろう、ダンジョンの素材でクレジットを稼いだ方が良い。


「そろそろ行きますよ」

「うん大丈夫私は大丈夫よ」


私が最初に続いてコスモ、後藤そして最後殿は涼子が入ってくる。直線の通路は見通しが良くゴブリンの姿は見えない、前回に引き続き警戒しながら進んで行くとゴブの姿が目に入る。


「アレが敵?」

「敵です」

「レベル10のゴブが2匹と弓を持ってるのがレベル7のゴブだよ」


 合計3匹のゴブリンと遭遇戦を行う、まず私が火球の魔法を直線に放つ目的は弓を持っていたゴブリンの無力化木製の弓でも人を殺すことが出来る。私の放った火球は直線に飛んで弓持ちのゴブリンに命中し炸裂し前衛二匹のゴブリンにも少なからずダメージを与える、焼け焦げた弓持ちがどうなっているのかはコスモの鑑定待ちにして私と涼子の2人が二匹のゴブリンめがけて剣を振り下ろす。


「すごい、レベルが上がったわ」


 直接攻撃せずとも経験値のような物が入ってくるようだ、どのような振り分けかは分からないがパーティーに寄生してレベルを上げる事が出来る事が確定した。


「いくつに上がったんですか」


 後藤に聞きつつ私は鑑定を使って後藤のステータスを読み取る努力を行う、私の意識では後藤のレベルは2、私と涼子がレベル0の壁を破った時間よりはるかに短い時間で2まで上がっているようだ。


「レベル2よ」


 嘘はつかないようだ、今日は後藤のレベルが5になった時点で撤退すると伝えていたから誤魔化すかもと考えて居たがその心配は杞憂に終わったようだ。


「聡志兄ちゃん素材を収納するね」


 前回レベル7のゴブリンは2クレジットだったなら10だとどうなるのだろうか。


「レベル7のが2クレジットで10のは10だったよ」

「10クレジットって事は1000円でしょ、ゴブを狩ってもお金は貯まらないね。確かレベル11のホブは2万円だったよねあっちを狩ったほうが断然お得だよ」


 レベル11のホブならまあ私と涼子の2人なら軽く捻れる、しかしレベル16のホブ相手には死にかけたからな報酬は5倍以上だし今ならあのホブ相手にも引けは取らないかも知れないが足手まといを抱えながら戦いたくないな。最初の小部屋で前回と同じレベルのホブが出るなら周回したいものだ。

小部屋に到達するまでに2度ゴブリンを撃退した、後藤のレベルは3に上がっていたがレベルの上昇に寄っての効果が見えるほど体力その他のステータスが上がっているようには見えなかった。


「小部屋の前で一旦止まってもらえますか」

「どうしたの?」

「前回訪れた時にはここで少し強い敵と遭遇したので前準備を行います」

「前準備?」

「魔法による補助です」


 私と涼子には身体強化の魔法を後藤とコスモには防御力上昇の魔法を掛けユックリと部屋の中に進んでいった。やはり罠が発動して奴らが召喚される、見覚えの有るホブが1体現れコスモによってレベル13だと告げられた。


「リュウ君どうする」

「どれだけ強くなったか試してみたい気持ちは有るけど、良いかな」

「うん良いよその代わり危ないと私が感じたら処分するね」

「了解」


 涼子の許しを得て私が一対一で戦ってみる、前回戦ったホブはレベル11と16、レベル13のホブがどの程度の物なのかあの地獄のような特訓を受けて自分自身がどこまで戦いたいのか試してみたい。できれば魔法の補助なしの状態がベストなのだが桁外れの強さのやつが来た時対処の遅れは命に関わる。

最初から全力全開とばかりにホブに対して斬りかかる、私の斬撃をホブは棍棒を使って受け止めようとしているがミエミエの回避行動で剣の軌道を変えて棍棒を持つ右手を切りつけた。


『イタイハラヘッタニンゲンクウ』


 ホブが咆哮を上げた、咆哮と同時に意味の有る言葉が脳裏を過る、頭を抱え込みたくなるほどの不快感を得たが動きの鈍ったホブの攻撃を避け、それと同時に胴抜きをお見舞いした。


「聡志兄ちゃんそのホブ『咆哮』スキル持ちだよ気をつけて」


 スキルね、効果の程は実感している頭の中にホブの叫びが鳴り響いているしかし耐えられない程では無い、私が腹を切り裂いた事によって更に動きが緩慢になり私はホブの急所を狙って剣を繰り出す。都合6度の剣撃でホブを討伐出来た、結局萎縮スキルあの咆哮は1度しか放ってこなかった回数制限が有るのかマジックポイントの用なエネルギー消費型なのかともかくレベル13のホブとは剣術だけで倒せる事が分かった。


「400クレジットだったよ」


 レベル13ホブの買取価格は400クレジットだったらしい。


「レベル11で200、13で400、16だと1100かレベルが高いほど買取価格が高い事は間違い無さそうだけど均一に上がるわけじゃ無さそうだね後藤さんレベルは上がりましたか」

「上がったようね、レベル5になってるそれに『頑強』って言う技能を取得したみたい。聡志君今日の攻略はここまでって事になるのかな」


 体調は問題ないが精神に少しダメージを負ったような感覚だ、何が言いたいかと言うと魔法を使う為の魔力がゴッソリ無くなったような気がする。あの『咆哮』と言うスキル魔力を削る効果が有るのでは無いだろうか仮定でしかないがダンジョンで検証するには危なすぎる一旦退却して3人にあの咆哮スキルを確認した方が良さそうだ。


「戻りましょう、あのホブが使った咆哮の効果も気になりますし」

「その代わりって言うのもなんだけど帰りにゴブリンが現れたら戦わせて欲しいんだけど駄目かな」

「駄目って事は無いですけど自己責任でお願いします」

「勿論よ、でもフォローはよろしくね」


 帰り道に出てきたゴブリンの内レベル4の相手を後藤に任せる、魔法の支援は防御力上昇を掛けるだけに留め様子を伺う。手にした斧で大きく振りかぶってゴブリンめがけて叩きつけるストロングスタイルでの攻撃を行う、ゴブリンは小剣を片手にオンボロ盾を持って戦うスタイルで防戦気味に戦うようだ。後藤とゴブリン両者の間で力は後藤に分があるが戦い慣れているのはゴブリンのようだ。

 それも当然だろういくら学生時代にスポーツをやってたと言ったって女性なのだ殴り合いの喧嘩すらした事は無いのでは無かろうか。刃物を持って向かっていけるだけでも普通じゃない私の隣に例外が見守っているが涼子は特別中の特別だろう。


「後藤さん動きが硬いね」

「斧を持ったのも初めてだからじゃないかな、それに生き物を仕留めるって中々出来る事じゃ無いよ」


 力押しで戦うスタイルが後藤に有っていたのかゴブリンが使っていた盾がやがて壊れると後藤の放った一撃が小鬼の脳天に直撃し見事後藤はゴブリンを討伐していた。


「これでレベル4なの、聡志君と涼子ちゃんって凄いのね。私も何処かで戦い方を学ばないと駄目みたい」


 後藤は握っていた斧を離せないで居た、極度の緊張と興奮で力が入りすぎたのだろう。そう言えばレベルが上る前の身体測定を後藤に対して行っていれば良かったなと今更気付いたのだが時既に遅しだな、そもそも身体能力を測定するような器具用意してなかった、次来るまでに用意をしておこうと心のメモに書き込んだ。

 ダンジョンの入り口まで戻って外に出る、やはり時間経過はほんの僅かな時間のようで後藤はだいぶ驚いていた。


「今回レベルを上げられたのは私だけみたいね、完全に寄生する形になったけど次も一緒に付き合って貰えるのかな」

「次はしばらく間が開くと思いますがそれでも構いませんか」

「勿論付き合ってくれるなら待つわよ、年内にもう一度くらいお願いしたいけど駄目かな」

「11月中なら何処かの日曜なら行けると思いますよ、次は現地集合で構いませんか」

「そうね、それが良いかも」


 10月は剣道の全国大会や文化祭が行われる、土日と言えどもダンジョンに潜る余裕は無い、12月は甚八と一緒に例の資金作りが待ち構えて居るから余裕が出来そうなのは11月しか無いと言うことになる。


「聡志兄ちゃんクレジットはどうするの?」

「預かって貰えるかな、全部で2000くらいだよね」

「聡志兄ちゃんと涼子お姉ちゃんが2430で明菜お姉ちゃんが501だよ」


 私と涼子のクレジットが2430と言うのは奴らを討伐して素材を売った物だが明菜の501ってのは日本円をクレジットに替えた物とゴブリンの1クレジットを足したものだろう。だとすると後藤はコスモから商品を購入していると言うことだろう、主な購入品は薬だろうけど。


「一旦小屋で休憩しませんか、精神的に疲れたので」

「車の中に着替えを置いて来たから取って来るわ、まだ帰らないのよね?」

「1時間程は休んでいくつもりです」

「OK」


 後藤が車まで着替えを取りに行った往復すると30分程度はかかるだろう、後藤が居ても問題なかったのだが今日の戦闘に着いて2人の意見を聞くことにした。


「今日私が戦ったホブゴブリンだけど『咆哮』の効果で魔力が吸われた感覚がしたんだけど2人はどうだった」

「魔力って私にも有るのかな、魔力自体を感じた事は無いよ」


 涼子のスキルで魔力を使いそうな物は瞬間移動くらいの物か、それだってスキルで発動していて魔力を消費して無い可能性も有るな、解りやすい攻撃魔法でも覚えない限り魔力を自覚する事は無いのかも知れない。


「僕も感じなかったよ、近くで戦ってたのは聡志兄ちゃんだけだから。鑑定で『咆哮』スキルを調べたけど分かったのは一時的に萎縮させるって事くらいかな、それもレベルに依存って書いてたから聡志兄ちゃんには通じてなかったのかと思ってた」


 魔力が吸われたような感覚に陥ったのは気の所為って事だろうか、ゲームのようにMPやHPが目視できる訳でもないから実証しようがない。魔法が使える限界って物が分からないしそもそも魔力を使い切ったら何が起こるのかと言うことも分かっちゃ居ない、考えていたより魔法を使うと言うことはリスクの塊だったらしい。


「魔力って寝て起きたら回復する物なの?」

「今まで疲労を感じる程魔法を使ってないから分からいんだ、試した方が良いのかも知れないけど魔力が尽きたら死にましたってのは勘弁して欲しいから実験もできそうに無いよ」

「リュウ君絶対駄目だからね」


 魔法の事以外で今日の戦闘得られる物は殆どなかった、コスモ商店に追加でいくつかの商品が並んでいたが私達が所持するクレジットで買える物が無い、薬の類は後藤がほとんど買っていたし武器防具類はすべて1万クレジットを超えている。

15分程話していたら後藤が帰って来た、軽く走ってきたらしいが息は切れて居なかった、そのままシャワールムに入って着替えて出てきた後藤が涼子に軽く模擬戦の相手を行うよう頼んできた。


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