【八】融通が利かない山神様

~~~『不運☆品目』とは?~~~

「第X位、XX座。アンラッキーアイテムは・・・」と、星座ごとにを伝えるラジオ番組。明け方に1度だけ放送される。

~~~~~~~~~~~~~~~~


【1】

 小学5年生のサクラは最近、スマホを持ち始めた。両親が共働きなので必要な連絡手段だ。スマホを使って 『不運☆品目』 を聞いている。裏サイトに誰かが上げている音声を聞くのだ。サクラお気に入りの声優がナレーションをしているだけでなく、怖い話が気になるのも興味をもつ理由だった。


「さて、今日は?」

 起きる前に布団にもぐってイヤホンでこっそり聞く。


『今日のおとめ座のアンラッキーアイテムは。先生、指導をお願いします!・・・・・・じゃないですよ。道の方です。 『わたしみち』 とも書きますね。他人の土地なので通るとコラって言われちゃいます。今日だけはバレないと思っても避けた方がいいでしょう!』


(やっぱ、声かわいいな。ところで、この辺に私道ってあったかな?)

 サクラはそう思ってベットから出た。

 

【2】

 放課後、サクラは少し遠回りをして帰った。いつもは通らない裏道を抜けると突然、看板を見つけた。


「このさき、しどうなので、とおってはいけません」


(見つけた、私道だ)

 民家から少し離れた広場の横にある小道。小高い山へ向かって続いている。スマホで地図を確認した。


(この山を超えたらウチの近くに出るじゃん。こんな近道、知らなかった)

 ダメと言われてもやって見たくなる年ごろ。


(まあ、土地の人に会ったら平謝りしよう)

 サクラは小道を歩き始めた。


 少し歩くと林に入った。林を抜けると少しぬかるんだ土の道。その次は岩ばかりの上り道。


(なかなか頂上につかないな)

 そう思っていると、突然、見晴らしの良い高台に出た。


(?!)

 見下ろすと、ウチのあたりが見える・・・・・・はずだった。

 しかし、下に見えたのは深い森。遠くに高い山が見える。家が1軒も見えない。


「うそぉ」

 思わず声が出た。そして、来た道の方を振り返った。森と山。家も学校も見えない。焦ったサクラはスマホを出した。

「圏外・・・・・・」

 まだ、明るいが1時間くらいで暗くなる。サクラはパニックになって来た道を下り始めた。


 一本道だったはずなのに来た道を戻っても山から抜けられない。そして、周囲が暗くなっていった。


【3】

「サクラが学校から帰ってこないの」

 母親が勤務中の父親に連絡した。その後、暗くなっても帰宅しないので、両親は捜索願を出した。両親がパソコンからサクラのスマホのIDにログインして確認した。履歴は山へ向かう小道で途絶えていた。


「何らかの理由で一人で山に入った」

 そう結論付けられ、捜索隊が編成された。


 捜索の開始前に隊長が土地の所有者に話を聞きに行った。地元で土地を多く持つ名家だ。


「なに、あの道に入っただと!」

 ヒゲを蓄えた老人は怒りをあらわにした。

「入らんように看板で警告しとったじゃろう」

「 『しどうなので』 ってやつですね。子供はそのくらいじゃ入りますよ」

 と隊長。

私道しどうじゃない。死道しどうじゃ。 『死ぬに道』 じゃ」

「なんですって?」


 『私の道書きますね』 番組ではそのように放送された。SNSでは 『、って他に書き方あるっけ?』 と気にする書き込みも見られたが、大多数の人が気にしていなかった。


「1年に1日だけあの道を通って山の社にお参りをするんじゃ。他の日に入ると山神様の怒りを買って、帰ってこれんようになる。昔からシキタリじゃ」

 老人の真剣さにはリアリティがあった。

「なんで、平仮名ひらがなで書かれたのですか! 漢字で書けば小学生はビビッて通らなかったでしょうに」

「小学生でも読めるようにわざわざ、平仮名ひらがなにしたんじゃ。それだけじゃ」

 老人は申し訳なさそうに言った。


 捜索は決行された。3人ずつ2班に別れた。しかし、うち1班が忽然こつぜんと消えた。追加の捜索が検討されたが志願者がおらず中止された。


【4】

 仲間を失った隊長が、翌日、老人を尋ねた。

「どうすれば山神様の怒りを抑えられのでしょうか?」

 老人は言った。

「方法は1つだけ、ひたすら謝って許しをうのじゃ」


 その日の夕方、例の小道の脇でサクラは発見された。体育座りをしてブルブルふるえていた。そして、うわ言のように何度もこう言っていた。


「ごめんなさい、ごめんなさい・・・・・・」


 現在、小道はバリケードで封鎖されている。


(終)





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