【参】疲れてたので、憑かれたんです

~~~『不運☆品目』とは?~~~

「第X位、XX座。アンラッキーアイテムは・・・」と、星座ごとにを伝えるラジオ番組。明け方に1度だけ放送される。テレビでは企画が通らずラジオになったと噂される番組だ。SNSで話題になっており放送後に誰かが結果をアップする。

~~~~~~~~~~~~~~~~


【不運☆品目 『トンネル』 × サヤ 『26歳/ネイリスト』】

 サヤは出勤前に『不運☆品目』でアンラッキーアイテムを確認する隠れ視聴者だ。SNSでこの番組の存在を知った。ラジオを直接、聞いたことはない。


「乙女座・・・・・・。あー、ワーストだ。でも、1/12の確率でワーストが回ってくる訳だし」

 SNSに上がった放送のコピーを読む。

『アンラッキーアイテムはトンネル!』

『車を運転する人は気をけましょうね!』


「トンネル、トンネル・・・・・・あっ」

 家から駅までのルートに線路下を通るトンネルがある。毎日、歩くルートだ。

「あそこを避けるのは面倒だな」

 とはいえ、不運が起こるのも嫌だったので遠回りをすることにした。いつもより10分早く家を出た。


「サヤさん、昨日のお客さんから苦情があったわよ」

 職場に到着した早々、上司の女性から苦言を言われた。

「す、すみません」

「あなた。失礼だけど、向いてないんじゃない? この仕事」

 サヤ自身、ネイルが大好きだった。しかし、好きなだけでスキルが上がるわけではなかった。


「フフフ・・・・・・」

 近くで聞いていた他の女性スタッフの嘲笑せせらわらいが聞こえた。

 ネイリストは華やかなようで激務だ。自身の外見に気を使うだけではなく、女性職場なので人間関係にも気を配る必要があった。サヤは限界を感じていた。


 帰宅する頃にはすっかり日が落ちていた。

「あー、疲れた。転職したーい」

 そう思いながら駅からの家路につく。

「そうだ、あのトンネル。今日は通っちゃだめなんだっけ」

 遠回りすると余分に10分かかる。線路を横切れる場所は意外と少ない。

 サヤはトンネルの前で立ち止まった。

「行っちゃおうかな。疲れてて早く帰りたいし」

 しかし、なかなか1歩が踏み出せない。


 その時、ジョギングしている男性がトンネルに入った。

「一人じゃなければ」

 サヤはトンネルに入った。長さは30mほど。古いトンネルなので途中2か所に小さい電灯があるのみだ。

「一人じゃないって・・・・・・ランナー、はやっ」

 男性は風のごとくトンネルを抜け去った。


 カツン、カツン。速足で歩く。

 サヤが履いている背の低いヒールの音が反響した。

「あれ?」

 反響がおかしい。

「反響、遅くない?」

 サヤは立ち止まった。本当は早く通過すべきなのだが、どうしても気になった。立ち止まったままヒールを地面に1度、強めに叩きつける。

 カツン。そのあと、少しずつ小さくなりながら、カツン、カツン・・・・・・と反響。その後、さらにカツン。最初のカツンから、最後のカツンまで3秒くらい開いている。明らかに反響が終わったあとに足音が聞こえる。

「ヒィ・・・」

 サヤは小さく悲鳴を上げた。ヒールなので転びそうになりながら家まで必死に走った。オートロックを解除してマンションへ入った。そこからは歩いたが、足音が響くと怖いのでり足で自分の部屋まで帰った。


 サヤは帰宅してからネットで調べてみた。遠方から引っ越してきたサヤは知らなかったが、30年前にあのトンネルで通り魔殺人があったらしい。

 被害者は20代女性、サヤと同じ年代だ。犯人は捕まらず未解決事件となった。救急隊に語った最期の言葉が 「足音が・・・・・・後ろから、遅れて足音が聞こえたんです」 だったそうだ。

「気の毒だな」

 それが、怖いよりも先に感じた心象だった。


 翌日。

 足音は変わらなかった。部屋のフローリングをトントンと歩くと、3秒後にトントンと音がした。摺り足で歩いたあと耳をこらすと、3秒後にススーっとるような音がした。

 人の居るところで大きな足音させたるなど、いくつかの実験を試みた。その結果、聞こえているのはどうやらサヤだけだと分かった。

「誰かに話したら気がおかしいと思われるなあ」

 その後、塩をいてみたり、おはらいにも行ったりしたが効果はなかった。

 しかし、サヤは誰かに信じてほしかった。知り合いに話せないのでオカルト雑誌に投稿をすることにした。


 私、その日、疲れてたんです。だから、そのトンネルを通ってしまったんです。そうしたら憑かれちゃったんです。でも、私、大丈夫です。 「何かいる」 と感じますが実害はありません。足音だけです。鏡に映るわけでもないですし、悪いことも起きていません。

 コンタクトから眼鏡に変えた瞬間って眼鏡のフレームがとても気になりますよね。でも、少してば慣れます。それと同じです。今はもう怖くはありません。むしろ、誰かが見守ってくれている気になれます。一度はやめようと思ったネイリストの仕事も続けることができてるんですよ。だって私、守られてるんで。


 『不運☆品目』のファンだと記事に書かれたため「#不運☆品目」のSNSは大荒れになった。

―足音だけでも十分、怖いだろ

―オレ 今、スランプだから行こっかな そこ


 ご自分の足音、ちゃんと聞いたことありますか?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る