虫怖-ムシコワ-
ジロギン
怪音
母から聞いて思い出した話。
今から25年ほど前、当時の私は3〜4歳だったため、すっかり記憶から抜け落ちていた。
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ブー…ブー…ブー…ブー…
部屋のどこかで何かが鳴っている。
けれど音源はどこにも見当たらない。
気のせいだろうと思った。
ブー…ブー…ブー…ブー…
やっぱり聞こえる。
気のせいではない。
ブー…ブー…ブー…ブー…
いつまで経っても音は鳴り止まない。
私はリビングにいる母に、
「変な音がする。何か鳴ってる。」
と相談した。
母にはブー…ブー…なんて「音」は聞こえていない。
しかし間違いなく私には聞こえている。
我が子の不審な様子を見て、母は察したそうだ。
「この子には聞こえてはいけない音が聞こえている」
のだと。
大人より子どもの方が、幽霊に対して敏感だと言われている。
そしてこの世の者ではない存在を感じ取るのは「見ること」だけとは限らない。
音…匂い…気配…視覚以外の五感に反応する場合もあるのだ。
「この子は幽霊の声を聞いているのかもしれない。私は特殊な能力を持つ子どもを産み落としてしまった。この子は将来、幽霊の存在に悩まされながら生きていくことになるのではないだろうか。」
母はこう思ったそうだ。
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耳の病気ということも考えられる。
念のため、母は私を車に乗せ、家から十数分の場所にある耳鼻科に連れて行った。
車に乗っている間も、「音」はずっと聞こえ続けていた。
耳鼻科に到着。
何度か来たことはあったが、私はこの耳鼻科が大嫌いだった。
木造の古い建物で、中はボロボロ。
怪しい老婆が診察を担当しており、どことなく不気味な雰囲気が漂っていたからだ。
この日も例の老婆が私を診ることになった。
診察用の椅子に座らされ、老婆の目線の高さまで椅子が上がっていく。
当時は自覚していなかったが、電気椅子にかけられる寸前の死刑囚のような気持ちになっていたと思う。
お医者さんが頭につけているCDのようなものを使い、私の耳の中を覗く老婆。
そして一言放った。
「ああぁ〜これだね。」
おもむろに老婆はピンセットを私の耳の穴へ突き刺した。
そして引っ張り出す。
ピンセットの先には1匹のミツバチがつままれていた。
私が聞いていた「音」の正体は、耳の中に入ったミツバチの羽音だったのである。
当時、私はよく母や祖父が運転する自転車に乗って出かけていた。
おそらくその時に偶然ミツバチが耳に入り、出ようとして羽を羽ばたかせていたのだろう。
「よかったねぇ、刺されてないよ。刺されてたらもっと大変なことになってたけど、これで大丈夫。」
いつもは怪しい老婆が、この日は優しい女神に見えた。
こうして謎の音事件は解決。
母の期待に反して私は、霊感など全くない子どもとして育っていった。
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