第59話

そうして話していると、少しワクワクしてくる。

鉢植えに、盆栽に、どんな石を並べていくかを考える。そしてそれを拾い集める、一個一個手に取って、吟味して。

そんな時間に似ている。今度はそれを足元から、地面から。そうではなくて、あの夜空に浮かぶ、それで。


「あのさ。」

「えっと、何かな。」

「カメラって、どんなのがいるの。」

「何を撮るかにもよるかなぁ。」


そう言えば、彼女は難しい、そんな事を言っていた。

色々と選び方があって、やりたいことによって変わる物らしい。

それに写真を加工なんて話もあったけど、それをするなら、デジタルな物を選ぶ必要があるのかもしれない。

ちょっと僕の思考はまだとっ散らかっているし、どうしたって実際にやりながら決めたい、考えたいことはあるから、とりあえず思いついたことをそのまま口にする。


「えっと。アルバム作るでしょ。」

「そうだね。」

「最初に、此処から見上げた物を撮ってさ、それでこうその中から気に入った物をまずは並べて、後は惑星かな、月とかも、こう見て変化が分かるものを並べてみたいかなって。」

「わ、思った以上に具体的に考えてるんだ。」

「楽しそうじゃない。やってるうちにやっぱりこうしたいとか、きっと思うけど。」


そう思ったら手直しすればいい。それこそ一度完成させて次を作ればいい。


「昼間石を拾ってる時みたいに、こう、とりあえず集めて、手に取って、それで気に入らなかったらやっぱりやめて。そんな感じで作ってみたいかも。」

「最初に、どうするか決めないと大変だよ。」


それはそうかもしれない。だって盆栽一つ、僕はまだ完成させていないのだから。


「良いんじゃないかな。」


そう、祖父だって言っていた。


「別に、次の夏で作らないとか行けない、そんな事も無いでしょ。」


そう言えば、彼女は声をあげて笑いだす。

ランタンの光を目の端がかすかに返してくるけど、楽しそうだから、きっとそれは悪い物では無いのだろう。


「そっか、そうだよね。うん、別に一回で作らなくてもいいものね。」

「うん。何なら季節ごとに作ってもいいしね。」

「流石に、秋は長い休みないから、私来れないよ。」

「僕は僕でやるよ。それは無いけど、まぁ、それならそれで出来ることくらいありそうだし。」


そう、天体望遠鏡がないなら、それこそ自分で双眼鏡とか、祖母が持っているって言う物を借りるとか。

色々やりようはある。自分で買う気になれない、それはそれで本音だけれど。


「秋、そっか、来れないかもしれないよね。フォーマルハウト、見せてあげたかったけど。」

「その、うん、いいよ。やっぱり恒星みたいとは、そんなに思わないから。」


彼女には申し訳ないけれど、そこは変わらない。

こう、それを使ってはっきり変わるんだたら、まぁ、それも楽しいかもしれないけど、例えば星雲とか、星にしか見えなかったけど実はって言うのは、面白い。そうでないなら、わざわざそこまでしなくても、そう思ってしまうから。


「興味、持ってほしいけど。」

「アルバム作ってるうちに、気が向けば、かな。」


そういって、ぼんやりと夜空を見る。

こうしてみているだけで、今は十分。鉢植えだってそうだったのだ。実際に自分の鉢、それに向かい合ってみるまではそこらにある物、誰かが手を入れていると若生それも、ああ、そういうものが有るんだ、遠目に見て綺麗だね、それで終わっていたのだから。

やっぱり今もその誰かの物に、特別な興味はわかないけど、それでも自分の鉢植えには、やっぱり、こだわりがある。アルバムも、そうかもしれない。


「昼間、さ。」


僕がぼんやりと夜空を見ながらそう口に出せば、彼女がただこちらに続きを促す。

先ほどまでの、初めて見る大声で笑う彼女の姿はもうないけれど。楽しそう、それは伝わるから。


「石を拾ってるんだけど、こう、拾ってから初めてじっくり見るんだ。」

「えっと。うん。」

「だから、こう、アルバムに、実際に写真並べたら、この星を大きく見たいなとか、そんな事もあるかも。」

「そっか。」


そう、だから祖父は僕に言うのだろう、やってみるか、調べるかと。

ぱっと興味を持てなくても、もしやり始めてみれば、何か興味を引くものが出て来るのかもしれない。


「ほら、えっと、あのイカ、じゃないやおとめ座、あれの写真を撮ってさ。」

「分かるんだけど、イカはやめよ。」


でも、そんな形をしているから。


「アルバムにおいたら、スピカ、一等星のことくらいは、書きたくなるかもしれないし。」

「そっか、そうだね。」


彼女は、何か別の呼び方をしていたような気がする。

そして、それを書こうと思ったら、やっぱりあの青白い星の写真は欲しくなるだろう。


「うん、結構、しっかりしたアルバムになるかもね。」

「別に一冊にしなくてもいいし。」


少しづつ増えていく、僕と祖父の鉢植えの様に。


「そっか、そうだね。」


さて、こうして一先ず僕の天体観測は先送り。せっかくやるなら、準備してからやってみたい。

今しっかり見て、写真を撮りたいとか、アルバムを作りたいとか、そういった気持ちが盛り上がりすぎても困るし。


「君はさ、何か、そういったのを作るなら、どんなのを作るの。」

「まずは、キミのを手伝うかなぁ。」

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