第58話

普段よりも少し騒がしい夕食を終えて、僕はしばらく縁側でのんびりと鉢植えを眺める。

彼女は夕飯を終えてしまえば、直ぐに準備をして出かけて行った。僕を待つとかそんな話も合ったけど、お互いに何となく、やっぱりあそこで顔を合わせるのもらしいよね、そんな事を考えたからだろうか。

これまでよりもゆっくりしている、などと彼女は言っていたけれど、それにしてもまだ日も残っているというのに。

そんな背中を一先ず見送って、今は祖父と並んでぼんやりと鉢植えを見ている。

少し鉢を選んで位置を変えてみたが、今は良い感じだ。最初の鉢植え、正面から見たときに、こちらを手招きするような、そんな石に腰かけた姿を想像しながら育てた物が、夕日に照らされて、不思議な温かみを感じさせてくれる。


「星座か。」

「うん。ばーさんが色々話してくれたし、面白かったよ。」

「そうか。」


それ以上何もない当たり、祖父にしてみればあまり琴線に触れない物であったらしい。

まぁ、それも仕方ない。僕と祖父はなんだかんだで趣味が合わないこともたくさんある。


「石を加工するのは、次になりそうだな。」

「うん。それまでに僕も少し調べておくね。」

「ああ。」


そうしていつものようにぽつぽつと会話をする。

日が沈むまで、その日に手入をした盆栽たちをここからこうして眺める時間は好きなのだ。

荷物持ちの手伝いでもと考えたけれど、こっちを優先するくらいには。

それに、何となくだけれど、これまでの様に彼女が先にあの小高い山の上、そこで待っているところに後から行く、その方が僕としても楽しいのだ。

のんびりとお茶を飲み、湯呑が空になるころには日も沈む。

隣からは祖父がいつもの将棋盤と会話している姿があるし、少し離れたところからは、祖母がお弁当を用意してくれている音も聞こえる。

これまで、祖母がそうして準備している音など気声もしなかったのに。改めて彼女がここに来て、なんだかいろいろ変わったと、そんな事を感じる。拾う石にもこれまでと違った意識を向けるようになったし、鉢植えを大きく使用、そんな事も考えるようになった。

初めてここに来た時の様に、疲れたからとか、そこから離れたいとか、そういった気持ちではなく。変えてもいいかな、そんな事を思ったのだ。

空になった湯呑を持って、少しぼんやりと考えて。

そして星がよく見えるようになってきたら、その場を立って、僕も出かける準備をする。

そして玄関に出れば、祖母が当たり前のようにお弁当を渡してくれる。それを受け取ったらギターを肩から下げて、ランタンを頼りに。先に準備をして星を見ている彼女の下に歩いていく。

そんな不思議な、何処か楽しい時間を過ごせば、昨日までと同じように、彼女は望遠鏡を覗き込んでいる。

特に何か変わったわけでもないだろうに、なんだか母が昔過ごしていた、そんな場所がとても特別な場所に思えてきた。これから先、ここに来る人は増えるのだろうか。それこそ母に強請れば昔そうしたというように、家族そろってここで彼女がしているようにシートを引いて、そんな日が来るのかもしれない。


「こんばんは。」

「ええ。こんばんは。」


そうして、昨日までと同じようにシートの上にお弁当を置くと、早速とばかりにギターを取り出そうとする。


「その、ごめんね。」

「何が。」

「勉強、見てほしいって言ってたけど。」

「えっと、良いよ。そこまで好きでもないし。」

「本当に、はっきり言うんだね。」

「隠さなきゃいけないときは隠すけど。」


面接とか、学校でとか。でも、今くらいは、この場所で位は。色々隠さなくてもいい、そうしたい。


「ばーさん。今でも学校の時の物とか持ってたんだ。」


取り出したギター、早速それを鳴らしながらそんなことが口から出て来る。


「うん。それだけ大事で、大事にしたいものなんだろうね。」

「同じじゃないの。」

「なんとなく、違う気がするんだ。えっと、今日も何か見てみる。」

「うーん。」


何となくこれまでよりも指が軽く動くなとか、そんな事を感じながら考える。

でも、直ぐには思いつかない。


「えっと、アルバム、作るんじゃなかったの。」

「夏からね。流石に用意がないし。無理に今用意して、変に少しだけになるのは嫌だから。」

「あ、結構本格的に作るつもりなんだ。」

「本格的かは分からないけど、知ってるものくらいは、全部集めるよ。ここの星空は好きだから、ここから見えるものは全部。」

「そっか。」

「うん。また、夏手伝ってくれたら嬉しいな。」


そんな事を、思ったままに呟く。

そう、彼女と僕は元の場所に戻れば、会おうと思えば会えるのかもしれないけど、まぁ合わないのだから。

約束するなら、連絡先を交換しないなら、ここで。


「その、いいのかな。」

「僕は、居てくれたら嬉しいよ。祖父母に聞いてね、としか言えないけど。」

「そうだね。一応聞いてみるし、その私も両親に話して、それで大丈夫なら、としか言えないけど。」

「まぁ、それでもいいんじゃないかな。僕は大体夏休みに入ってから、お盆が終わるまではこっちにいるし。」

「分かった。私も、その期間で来れそうだったら、また来るね。」

「なんだか、休みの間はずっとこういった場所にいるのかなって、そんな気もするけど。」

「流石に、部活もあるし。他にもやらなきゃいけないことがあるから。」


そういって彼女が笑う。


「じゃ、もしできたら、夏に一緒にアルバムつくろっか。」

「うん。まずは覚えてる星座からかな。あ、でもアルビレオとか、蛇座。」


彼女との話の中で、少し口に出したものを思い出す。


「あ、覚えてたんだ。そうだね、白鳥座のアルビレオと蛇座のわし星雲。」


彼女も覚えていてくれたらしい。

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