キミと僕との7日間
五味
第1話
最初は、何となく、学校から帰ってきたときに、なんだか疲れたな、そんなことを考えた。
家族の仲はいいし、学校も楽しい。
友達と遊ぶ日もあれば、こうして一人で帰る日もある。
本当に、そんなよくある子供時代。
それでも、ある日、小学校の5年に上がった春。家に帰ってきたら、なんだかとても疲れたと、そう感じてしまった。
両親は、どちらも働いていて、家に帰ると、いつもガランとした、そんな中にいたからだろうか。
そこで、突然、本当に子供らしい脈絡のなさで、祖父母の家に行こう。
そんなことを考えてしまった。
幸い、それなりに裕福な家で、頼めば買ってもらえるものと、自分で使うためとある程度のお小遣いを毎日貰っていたこともあり、それなりの額は財布にあった。
珍しい事かはわからないが、祖父母の家の住所も覚えている。
最寄駅からは遠く、駅からかなりあるかなければたどり着かないだろうし、バスが走っているのも両親に連れられて行ったときに、碌に見た覚えもない。
それでも、そこに行こう。そんなことを考えた。
決めたが早い、明日から学校はしばらく休み、その思い付きはとてもいいもののように思えた。
この四月末の連休は両親はどちらも仕事が普通にあり、土日くらいしか休みがないと聞いていた。
そのため家族で何処かに行く予定もない。祖父母のところに行く予定もないのだ。
持っている携帯を使って、祖父母の住所を入力し道順を改めて確認し、周辺の地図もまとめて画像をそのまま保存していく。
電車で片道2時間以上はかかると出ているが、その時の僕にとっては、むしろ都合がよかった。
のんびりできるなと、そんなことを考えるほどに。
翌朝、両親と一緒に朝ご飯を食べて、仕事に出ていく二人を見送り、鞄に着替えを詰めて、さっそく家をでる。
疲れたから行きたいと、そんなことを考えていたはずなのに、気が付けば、すっかり冒険気分で楽しくなり始めた。
何処かわくわくした気持ちで、駅に向かい、一人で切符を買って、電車を待つ。
連休の始まりだからか、駅にはたくさんの人がいたけれど、僕の乗る電車が来るホームは、人がまばらで、連休、駅や駅に来るまでに感じた忙しさは何処にもない。
そうして、やってきた電車に乗り込めば、流れる景色をただぼんやりと見て、過ごす。
3両しかない電車に、数人の人が乗っているだけ。
時間帯もあるのだろうが、ほとんど乗り降りもない。ガランとした電車の中、ただぼんやりと窓の外を見る。
立ち並ぶビルやマンション、そういった物が減れば、工場が、それも過ぎれば緑が広がっていく。
それをみて、ああ、目的地が近くなってきた、そんなことを考え、何となく感じていた疲れは、何処かわくわくとした、そんなものに置き換わっていった。
ぼんやりと電車の窓越しの景色を楽しんでいれば、次は目的の駅、終点ではないから、乗り過ごしだけには気を付けて、アナウンスが聞こえれば、降りる準備をする。
持ってきたのは、少し大きなスポーツバッグ。中には着替えと、宿題、筆記用具、念のために携帯を充電するためのモバイルバッテリー、それだけを放り込んでいる。
そんな、身軽な、荷物は重いけれど、いつも持ち歩く教科書やノートが詰め込まれた鞄よりも軽く感じるそれを肩から下げて、止まった電車から降りる。
電車を乗った駅に比べれば、あまりにも小さい駅舎。他に誰もいないし、古めかしいプラスチックの独特な単色が目に優しくない椅子が、壁際にいくつか引っ付いている。
線路にも、草が生えているし、その脇に至っては、もっとだ。
誰もいない改札に、ぽつんと置かれた切符入れと書かれた箱に、ここまで持ってきた切符を放り込み、待合に移るが、そこも違いといえば囲われていて、先ほどまでいたホームに比べれば、薄暗い、その程度でしかない。
そこから出て、周囲を見れば、駅の前で車が一回りできるようになっていて、脇には駐車場もある。
タクシーが止まっているわけもなく。舗装された道は続いているが、これもどこまでかはわからない。
駅の脇には自動販売機があり、そこで水を一本だけ買って、荷物を改めて肩に担ぎなおして歩き出す。
少し駅から離れれば、大きく間隔をあけて家が何軒かあり、そこを超えてしまえば、舗装された道は、遠くに見える山に向かってだけ伸び、脇に逸れる道は、そのどれもが砂の色を晒している。
その道を、急ぐでもなくのんびりとスマホを片手に歩く。
保存した地図だとここから歩いて3時間そんな数字が見えるが、特に急ぐわけでもない、子供の足ならさらにかかるかもしれない。
それでも、時折スマホを見て、それよりも車が通った後だけが残っている道、その脇に流れている、草に隠れる様な水の流れ、何処かから聞こえてくる、住んでいる場所では聞くことが無い音、そういった物に意識を向けながらのんびりと歩く。
四月の末、風は涼しいけれど、日差しは暖かく、暫く歩けば熱く感じるくらいになっていた。
何処からか覚えのある匂い、食事の匂いもしてくるけれど、それでも誰かに合うこともない。
ここに来る前に感じた疲れは、すっかりなくなり、僕はただのんびりと道を歩いた。
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