これからも、君と。
48いぬ
第一話 年越し蕎麦
「いやぁ~寒いねぇ……帰りたい……」
大きく息をはきながら
「何言ってんだよ、凛が一緒に行こって誘って来たんだろ」
*
一年の最後の日、あたし――
「ズズズ……」
(うん、おいしくできた)
年越しそば。
普段はお湯を入れるだけのインスタントで済ませているが、今年はたまたま親から送られてきていた蕎麦が残っていたので、自分で作ってみた。
「――――ちょっと味濃い? 美味しいからいいか」
普段、あまり料理をしないため、調味料は全部目分量。
『これ入れたら美味しくなるかな』
『塩ってどれくらい入れるんだろ……あ、麺つゆ入れればいいのかな』
など、一切作り方を調べることなく作ったにしてはなかなかの出来栄えだ。
「方正、アウト〜」
「あははは」
居間に小さな丸テーブルを置き、テレビをつけて、バラエティをみながら蕎麦を食べる。
一人で。
なんとも映えない光景だが、一人暮らしの大学生なんてこんなもんだろう――と自分に言い聞かせ、心の虚しさを紛らわす。
この繰り返しだ。
「ムー」
スマホのバイブ音がなる。
「あれ、スマホどこ置いたっけ――」
優は、部屋をキョロキョロと見る。
「あった」
スマホには『一件のメッセージ』と表示されている。
「なんだなんだ、こんな大晦日の夜に送ってくるやつは」
心当たりはある。
たぶんあいつだ。
真顔でスマホとにらめっこをし、スマホのロックを解除する。
「やっぱり」
『ねえ!』
――とだけ送られてきていた。
送り主はもちろん凛だ。
『なんですかー、こんな時間に』
『初詣』
『いけば?』
『今からいこ』
(こいつは馬鹿なのか?)
『ばかなんか? 寒いわ』
ドンッ! ドンッ!
壁が鳴る。
殴ってるのか、叩いてるのか、それとも蹴っているのか。
隣の部屋――凛の部屋からだ。
『こらやめろやめろ』
『やめるからいこ』
なんとも面倒臭いやつだ。
恐らく、ここで断ったりでもしたら壁をぶち破って無理矢理にでも連れてかれるのだろうから、私は『しゃーなし』と返信をした。
ピンポーン
「いや早すぎるだろ」
最後に返信をしてから10秒も経っていない。
ピンポーン
優のことを急かすように、もう一度インターホンが鳴る。
「わかったわかった。はーあーいー、今行くから待ってー」
食べかけの蕎麦を残したまま立ち上がり、玄関へと向かう。
「きた! いこ!」
「わかったからちょっと待って。ラップしてくるから」
「へいよー、ぶんぶんちぇけら!」
凛は眉間にシワをよせ、左手を耳に当て、右手で空を擦る。口はもちろんアヒル口。
「そっちのラップじゃない、ベタすぎるだろ」
「あははっ、なににラップするの?」
「蕎麦、年越し蕎麦」
「ああ〜! インスタントの! 優、得意料理だって言ってたもんね」
「今年はちゃんと作ったわ。あと別に得意じゃねぇよ」
「苦手なの!? お湯入れるだけだよ?」
「じゃあ得意料理でいいよ、インスタントに得意不得意なんてあるか」
凛の怒涛の優いじりはいつもの事だ。
あたしはテーブルに置いてある蕎麦にラップをかけ、喋りっぱなしのテレビの電源を切った。
「着替えるからちょっと待ってて」
「見に行っても良かですか!」
「くんな」
別に凛になら見られてもいい。
友達としての凛になら。
これまで何度も温泉へ行ったり、女子更衣室で着替えたりと、凛の下着姿や裸を、見たり見られたりしてきたのだから。
「ほほぅ、お姉さんいい体してるねぇ」
「――入ってくんなって言ったろ……」
「そりゃ好きな女の子がすぐそこで着替えてるって知ったら、近くで見たくなるのは当然じゃん」
凛は『え? なになに私悪いことでもしました?』と言わんばかりの表情を浮かべた。
「エロおやじでも思うだけで行動はしないぞ」
「え! でも行動して捕まってる人いるじゃん! それとおんなじだよ」
「じゃあ逮捕」
さっきまで着ていた部屋着の袖を、凛の手首にグルグルと巻きつけた。
「いやぁん、優ったら――ご・う・い・ん」
「うっさいわ」
「いでっ」
優が着替えを進める中、凛は優の行動をずっと、目で追いかけていた。
「そんなあたしの着替え、見てて楽しいかね」
「最高です」
でへっとした笑顔を浮かべる凛を見て、優はため息をこぼす。
「――ねぇ凛?」
「ん〜? なんです――」
まだ下半身は下着一枚の優が、凛の腕と肩を掴み、体を強引に押した。
「きゃっ、ちょっとなになになに」
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