第17話 力を合わせて、走り抜け!!(後編)

 カケルは上空でニヤニヤわらっている閻魔王女を睨む。

 このままアイツの思い通りになるなってゴメンだ。


(どうする? どうしたら勝ちが見える?)


 このまま持久走を続けたら確実に負ける。

 マラソン勝負以前に、飢えと渇きで終わる。

 ならば、短期決戦を挑むしかない。

 だが、しかし、このルールでは……


(ルール?)


 カケルの中に一つのアイデアが浮かぶ。

 それは無茶で無謀でやけっぱちとすら言える方法。

 そうだ。

 それしかない!

 だが……


「みんな、聞いてくれ」


 カケルはカオリ達に言った。


「このままじゃ絶対に勝てない。マラソン以前に、飢えと渇きで負ける」


 その言葉に、カオリ達3人の反応は冷ややかだ。

 わかりきったことを言うなという表情。

 代表して、ケイミが言った。


「そんなこと、カケルに言われなくても分かっているわよ。だけど、このルールじゃどうにも……」

「だから、ルールを変えるんだ」

「ルールを変える?」

「ああ」


 カケルは自分のアイデアを語った。

 3人は驚いた表情。というよりも、無謀だと言いたいらしい。

 カオリが悲鳴じみた声を上げた。


「無茶だよ。そんな方法、勝てる可能性なんて一%もないよ!」


 カケルはうなずく。


「無茶だっていうのは分かっている。でも、このままじゃ勝てる可能性は0だ。0%より1%に賭けたいと思う」


 カケルの言葉に3人は沈黙。


「たのむ、みんな。ツヨシはもう限界だ。オレが代わったって、そんなにもたない。勝負するなら、眠って体力回復した今しかないんだ!」


 カケルの言葉に、ケイミが「ふっ」っと笑う。


「確かにね。このままじゃジリ貧か」


 フトシも同意する。


「このまま負けるなんて、僕も嫌だ。ほとんど役に立っていない僕が言うのもなんだけど、カケルくんの提案に乗るよ!」


 そして、カオリ。


「分かった。守りに入る場面じゃないわね」


 3人が同意してくれた。

 後は――

 ケイミが一番の懸念を口にする。


「でも、閻魔王女がルール変更にうなずくかしら?」


 確かに。

 だが、カオリが言う。


「その交渉は私に任せてくれない?」

「大丈夫?」

「将棋っていうのはね、ある意味で会話なの。『アナタは攻めるのね、なら私は守るわ』って。一手一手、相手と無言で語り合う競技なのよ。AI相手ならともかく、あの女との交渉くらい勝ち取ってみせる」


 カオリは力強く断言した。


「わかった、任せるよ」

「ええ、私を信じて。私もカケルくんを信じるから」


 カオリの信頼に、カケルは力強くうなずいたのだった。


-------------------


 カオリは閻魔王女に叫ぶ。


「閻魔王女! 1つ提案があるわ」

「ふーん、何かしら?」

「ルールを少し変更したいの」

「へぇ、どう変えたいっていうの?」

「走るスピード……道が崩れる速度をあげない?」

「あら、いきなりね? スピードをあげるって、どのくらいに?」

「時速25キロに」


 時速25五キロ。

 短距離走ならともかく、長距離走ならば無謀なスピード。

 世界最高のマラソンランナーでも、平均時速は20キロ程度なのだから、それよりも速い。


「なるほどねぇ」


 閻魔王女はニヤつく。


「その意図はともかくとして、そもそも私がそれに応じる理由ってあるのかしら?」


 予想通りの反応だ。

 交渉材料がなければルールの変更なんて応じてもらえない。


(カオリ、どうするつもりだ?)


 カケルには交渉材料が見つからない。

 だが、カオリはにっこりと笑う。


「このままだとさ、観客の皆さんが飽きちゃうと思うのよ」

「うん?」

「だってそうでしょ、このマラソンも、さっきまでいた会場の鬼の子ども達が見ているんじゃないの? 7日間もあの会場でモニターを見ていろっていうのも、ひどくない?」


 カオリはさらに声を大きくして語る。


「観客の皆さん、私の声が聞こえるかしら? このまま7日間そこで見ているのも暇でしょ。スピードをあげればそれだけ早く決着がつくわよ。たぶん、数時間で終わる。悪い話じゃないと思うけどいかがかしら?」


 こっちの声が観客達に届いているのだろうか?

 いや、届いているはずだ。

 閻魔王女はマラソン勝負中も実況していた。

 ならば、きっと聞こえている。

 閻魔王女はすこし顔をゆがめる。

 それから「はぁ」っとため息。


「しかたがないわね。観客達があなたの提案を受け入れろって騒いでいるわ」


 どうやら、閻魔王女には観客達の様子もわかるらしい。


(そういうことか)


 カケルは納得した。

 カオリの交渉カードは、観客の反応だったのだ。

 観客は閻魔王女にとってもお客さん。そして、お客さんの要望には閻魔王女もある程度従わざるをえないらしい。

 閻魔王女はカオリに言う。


「ただし、ルール変更をするなら条件がある」

「何かしら?」

「この先はリレーはなし。カケルくん1人に走ってもらう。もともと、リレー形式っていうのは相当なハンデなんだからね。ルール変更するならこっちの条件も受け入れてもらうわ」


 閻魔王女の言葉に、カオリが「うっ」とうめく。

 すぐに返答できないでいるカオリ。

 なら、ここはオレの出番だ。

 カケルはカオリの前に進み出る。


「いいぜ、残りはオレ1人で走ってやるよ!」

「OK! それじゃあ、いったんレースを止めるわよ」


 閻魔王女がそう言って指を鳴らすと、道が崩れるのが止まった。

 そして、次の瞬間。

 ツヨシがゆっくりと倒れこむ。


「ツヨシ!」


 カケル達は飛行車から飛び降りてツヨシの元へ。


「大丈夫か?」


 カケルがたずねる。


「すまねぇ、カケル、みんな」

「謝るなよ。ここまでありがとう。肩だけじゃなくて、足もケガしていたんだろ?」

「気づいていたのか」

「ダテに毎朝勝負してねーよ」

「へへっ、ライバルにはバレバレか」


 フトシがツヨシを担ぐ。


「カケルくん、がんばって」


 フトシに担がれたツヨシも言う。


「後は、まかせた」


 ケイミも。


「私たちの命、カケルに預けるわ」


 最後にカオリは。


「勝利を」


 仲間達がカケルにそう言ってくれた。

 カケルは大きくうなずく。


「ああ、任せろ!」


 仲間達が飛行車に乗り込むと、イダがカケルに尋ねる。


「先ほどの条件、聞かせてもらった」

「そうかよ」

「それで、勝てると?」

「さあな。あんたはどのくらい走れると思う?」

「分からん。だが、人間に負けるつもりはない」

「そういうけどさ、実はけっこう疲れているだろ」


 鬼とは言え、イダもすでに10時間以上走っているのだ。

 バケモノだって疲労くらい感じるだろう。


「ふっ、気がついたか」

「7日間走ったとかいうけど、それって自己ベストだろ? いつもいつもそうはいかないさ」


 カケルだって、走るたびに自己ベストタイムを更新できるわけじゃない。調子が悪いときだってある。

 イダだって、今日が最高のコンディションってわけでもないのだろう。

 そんなカケル達に、閻魔王女が言った。


「おしゃべりはそこまでにしてよ。再スタートするよ!」


 そして、再び道が崩れ出す。

 今度こそ、本当に最後の最後の勝負が始まった!

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