第2話
それが三千代に押し切られる形で交わした昨夜の電話の内容だった。
妙子はのろのろとベッドから起き上がり、ぬるいシャワーを浴びて汗ばんだ身体を洗った。それからバスタオルを巻き付け、洗面所の鏡台に立ちドライヤーで髪を乾かした。食欲はさしてないが空腹だった。パジャマに着がえ、冷蔵庫の方に歩きかけたとたん、電話のベルが鳴りだした。三千代だ、そう直感しつつ、そろりと受話器を持ち上げる。
「もしもし、妙子?」三千代の甲高い声が、いきなり耳元で響いた。一呼吸置き「さっき帰ってシャワー浴びたばっかり、暑くて、もう・・」そう言いおわらないうちに、三千代の声が受話器からまた飛び出してくる。
「まり子、やっぱり実家にいたわよお。それでさ妙子の休みの次の木曜日、十二時に新宿のアルタの前で会うことにしたんだけど」
「まり子の様子どうだったの、離婚の原因とか聞いてみたの?」
「さあ、あの子って何も言わないのよね。別れたのは今年の春頃らしいけど、あんまり突っこんで聞いても悪いじゃない」
よく言うよ、心の中で妙子はつぶやいた。
「ま、とにかく一度会って慰めてあげましょうよ。じゃ木曜日、正午にアルタでね」
「わかった、おやすみなさい」
電話を切り、ふうと、妙子は大きなため息をついた。今更ながら三千代が際限なく嫌な女に思えてならない。他人の不幸でしか自分の幸福を量れない、哀れでさもしい女・・・
妙子はキッチンへ行き、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。缶の口を開けコップに移しもせず、ぐいぐいと一気に飲み干す。食道そして胃壁が焼け付くように熱くなる。ふらふらベッドにもぐりこみ、習慣的に目覚ましをセットしたあとは朝まで熟睡だった。
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