心の隙間、雪の街

春嵐

心の隙間

 心に、隙間があったのだと思う。

 小さくて、それでも、関係を破綻させるのには十分な隙間が。わたしの心にあった。

 彼はわるくない。わるいのはわたし。わたしが、彼に頼りすぎたから。心の隙間が、私自身の持つ防衛本能と結びついて。彼を拒絶しはじめた。

 彼はやさしい。だから、彼に頼ってしまう。彼の存在に、安心を求めてしまう。それは、彼にとっての負担でしかない。

 仕事。

 雪。

 仕事をしている間は、彼のことを忘れていられる。どうでもいい喧騒けんそうに身をゆだねて、意味のないことを続けて。

 それでも。

 仕事はいつか終わる。

 彼との関係は。

 終わるのか。

 わたしは。

 終わらせたいのか。

 自分のなかに、こんな感情が。心が。こんなことになるなんて、思ってなかった。ドラマとか歌でしか、存在しないと思っていた。

 好きだから、離れる。

 彼のことが好きだから。彼の負担に、なりたくなかった。きっと、彼のこれからの人生に、わたしは、必要ない。それが分かる。仕事をしながらでも。分かってしまう。

 わたしなんかより、いいひとがいるとか、そんな感じではない。わたしと彼が、合わない。彼のやさしさに、むくえるだけの心を。私は持っていなかった。

 雪。

 この雪みたいに。

 思いも、彼を好きだった感情も。いつか、融けて、なくなるのかもしれない。

 ただ、今は。

 心の隙間に、彼のやさしさだけが。

 静かに、刺している。

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