アウト・オブ・ヒア OUT OF HERE

宝輪 鳳空

第1話 ブリウス・プディング

 〝STATE TROOPER〟


 朝早い時刻には意識が朦朧とする

 ラジオの中継塔よ、あの娘の所へ連れて行ってくれ

 車のラジオはトーク・ショーの局と混線

 いつまでたっても話ばかり

 いいかげんにしてくれよ

 おまわりさん どうか見逃して


 誰でもいいから俺の最後の祈りを聞いてくれ

 ハイ・ホー・シルバー

 このどんづまりから救い出してくれ


 ――BRUCE SPRINGSTEEN


 ****


 二人は逃げるところだった。

 セントラスト銀行の襲撃はうまくいった。

 ブリウスは手にかいた汗を膝で拭い、バックミラーで後方を確認すると少しアクセルを緩めた。

 追手のパトカーのサイレンが小さくなってゆく。



 ジャックが言った。

「あと五キロほど走れば州境だ。注意しろ」

 ブリウスは頷くとジャックの右足を見た。

「傷、深いのか? ジャック、どこかで手当てを」

「いや、このまま行け。大したことはない。それよりブリウスお前のおかげだぜ。ここまで逃げられた。お前は本当に最高の運転手だ」



 州境を数キロほど過ぎたところで待ち伏せていた警官隊に包囲された。

 警官の放った弾丸は、ジャックの胸を貫いた。


「ジャック!」

「……妹を、頼む……」

 それがジャックの最後の言葉だった……。


 ****


 ブリウスの刑期は四年。

 今その三年が過ぎようとしていた。

 ジャックと組み、〝仕事〟を始めたのは十八歳の時。

 首謀者はジャックで、ブリウスは必ず車で待ち、逃げ道を切り開いた。

 仕事といってもそれは法に背いた犯罪。

 理由がどうであれ正当化はできない。

 しくじれば法の番犬に捕らえられ、制裁を加えられる。

 もっとも、それは覚悟の上だったが……。



 あと一年。

 ブリウスは決して卑屈になってはいなかった。

 ずっとアウトサイドで生きてきた。

 逃げるように生きてきたが、誰のことも恨んではいない。

 ただ友を信じて動いただけだ。

 今はムショにも慣れ、心を入れ替えたつもりでいる。



 短く刈ってあるブロンドを撫で、ふっと息を吐く。

 青い瞳で牢壁のはるか向こうで待つ彼女を今日も見つめる。

 あと一年、おとなしくしていればまたクリシアに会える。また一緒に暮らせる――ブリウスはただ一途にそう願っていた。


 ****


 デスプリンス刑務所は渓谷にあり、天空聳え立つ巨大な見張塔がその権力を誇示していた。

 塔の各階に監視が五人ずつ配備され、カメラが始終囚人たちの動きをチェックしていた。


 刑務所長のアーロン・ウォルチタウアーは椅子に反り返り葉巻を咥え、いつもモニターを見ていた。

 その長身から見下ろす目は冷たく、低くかすれた声は底知れぬ野望を臭わせた。



 一九六九年十月。

 その日ブリウスは看守に腕を掴まれ、所長室に案内された。

 先日の食堂での喧嘩その罰か、それとも――。

 ブリウスは思い巡らし、中に入った。

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