向日葵 - ひまわり -
夏海ゆーな
第1話
中学一年の春に彼女、
その時の彼女はくせっ毛のふわふわとした柔らかそうな長い髪で、彼女の周りには男ばかりだった。
一目見て、可愛い子だな。なんて思ったのを覚えている。
気付いたら彼女の側にいるのが男ではなく私になっていた。
季節は夏。暑い暑い日差しの中で二人してアイスを食べていた。
古い記憶で一番覚えているのは、これだけ。
後は何となくで、ずっとそばに居た。
「なーぎっ」
嬉しそうな笑顔を私に向けながら背中越しにぴったりとくっつく葵。
「暑いよ、離れて」
優しく諭しても嫌だの一点張り。暑苦しくても、嬉しかった。
葵と私、
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「今年の夏はさ、毎日一緒にいよーよっ」
その発言をしたのはソーダ味のアイスを頬張る葵だった。
首筋に汗を垂らし、見るからに暑いというのが分かる。
「毎日って言ったて、今も毎日一緒にいるでしょ」
何を当たり前な、という風に返答を返すと葵は頬を膨らませ不満そうな顔になる。
来年の夏は受験シーズンに入るので私たち二人も勉強に専念しないといけなくなる。
だから、葵は自由に遊べるこの夏を精一杯遊ぼう、とでも言いたいのだろう。
「ふふ、今でも毎日一緒にいるけど…仕方ないから遊んであげる」
「めっちゃ上から目線ー」
と言いつつも嬉しそうな顔に戻った葵。
笑う顔が、とっても可愛い。
「あ、あのっ」
二人の時間を割くように、同じ学校の制服を着た男の子が私たちに話しかけてきた。
顔が赤い。暑さのせいかと思うけれど、そんな雰囲気では無いので、あっと思う。
「ほら、葵」
「い、いえ!えと……えっと……向坂…さんの方で………」
てっきり、葵に向けての告白だと思ったので葵を出す素振りをしたのに、相手は私だった。
手に持っていたアイスを地面に落としてしまい、気持ちが下がる。
「………凪、行ってきなよ」
軽く背を押され、相手の男子の近くまでやってくると、緊張した体により力が入り硬くなっていた。
「…ここで待ってて」
葵にぽつりとだけ残し、彼と人気のない場所まで向かう。
この時の葵の表情が、哀しそうな寂しそうな…そんな表情だった気がする。
「向坂さん…その、す、好きです…つ、付き合ってください!」
凡その予想はついていたとはいえ、告白をされたのは初めてでちょっと嬉しかった。
でも、彼にときめくことは無かった。
「ごめんなさい、貴方のことよく知らないし…そもそも、好きになれないと思う」
ですよね……と、彼も寂しげな顔を見せ俯く。
その姿に葵を重ねては、早く葵の所へ戻らなきゃという気持ちが私を急かす。
「あの、何くんだっけ?顔は見たことあると思うんだけど…名前は思い出せなくて」
彼はそうですよね、とさもわかり切っていたかのような顔をする。
そんなにも私は人の名前を覚えない人だと思っているのか…。
「
名前を聞いて漸く頭の中のパズルが一致した。
あれだ、葵と席が近くの。
「えっと、日向くん。このお話はごめんなさい、私葵の所に戻らなきゃ」
言い終わる前に私の足はその場を去っていた。
一刻も早く葵の機嫌を戻さなくては、と。その事ばかりに思考がもっていかれていた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
先程まで一緒になってアイスを食べていた場所には、私の落としてしまったアイスに群がった蟻しか居なかった。
葵の鞄も無く、携帯を開いてみてもメールも電話も入っていない。
この暑さの中、足早に来たのは間違いだった。呼吸が早まる。
「んっんっ!」
胸を軽く小突き呼吸を整える為に深呼吸をする。
………かんっぺきに怒らせてしまった。
こういう場合の葵はとても面倒なので明日何かお詫びの品を持っていかなきゃならない。大体自販機のジュースで事足りるのだけど。
私は仕方なく鞄を手に取り、アイスの木の棒に書かれたあたりの文字を眺めながら、ゴミ箱へと放り投げた。
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