火命頭

エリー.ファー

火命頭

 素面ではいられない。

 情報を得られなければ帰るしかない。

「暇だな」

「暇ですね」

「いるのか、本当に」

「いるんじゃないですか。本当に」

「真似して喋ってるだろ」

「真似して喋っていないと思いますか。本当に」

「まぁ、なんでもいい。とにかく、この場所で待ち続けよう」

「そうですね。火命頭でしたっけ」

「そうだ、火命頭」

「不思議な名前ですよね。一応、妖怪だそうですが」

「まだ分からないところが多い。ヌートリアに似ているとか、一応、犬と一緒であるとか、妖怪であるとか」

「そんな生き物もいるんですね。妖怪と、霊と、怪物の定義づけが二百年も前に終わったと考えれば、凄く興味が出てきます」

「そうだろうな。火命頭についての情報が最近まで一切なかったはずなのに、急に目撃情報が出たからな」

「しかも、大量でしたからね」

「どうにか姿くらいは撮影しなければな」

「でも、もうこの場所で一週間以上経過してますよ」

「ただ、目撃情報はここだけだからな。移動するリスクの方が圧倒的に高い」


 多くの目撃情報はあるが、そこまでだ。

 これ以上のことについてはよく分かっていない。

 研究者は数多くいるものの、所詮は烏合の衆。自分たちの足で稼ごうという考え方がないから、情報の正確性に責任を持つことができない。自分たちの立場を守る方向でしか生きていないというのは、滑稽そのものだ。

 私はね。現状に嫌気がさしたからこそ、ここにいるのだよ。

 これは未来のための研究だ。過去のしがらみを断ち切るための神話なのだよ。君なら分かるだろう。いや、分かっているはずだ。

 大丈夫。

 私の研究結果を見れば、多くのことに気が付けるだろう。間違いない。

 火命頭。

 これは鼠の仲間だ。だが、鰓呼吸も肺呼吸も可能だ。非常に特殊であると言える。


 私にとって、あれは希望だよ。

 多くの研究者が虜になった。

 おそらく、その数は増えることだろう。

 条件さえ整えば、多くの人間を一瞬で死に至らしめ、地球を壊してしまうほどの力を持っている。

 恐ろしいことだ。

 そうは、思わないかね。


 「はい、僕が火命頭です。ちゅーちゅー。あぁ、こういうのを語尾につける必要はないですか。そうですか。分かりました。余計なことをしてしまってすみません。でも、人間が僕を見つけて、しかも捕獲するなんて中々の快挙なんじゃないですか。多くの人は伝説上の生物であると思っているだろうし、これでいくつかの研究がお釈迦になって、いくつかの研究が爆発的に進むことになりますよ。ちょっとくらい、僕に感謝して欲しいなあ、なんて、いやあ、嘘嘘。いいですよ、別に。僕を捕獲できる人間なんて絶対にいないと思っていましたから。あぁ、言葉を喋れることですか。そおれが驚きだと。まぁ、そうですよね。確かに、びっくりですよね。火で命で頭ですからね。知能指数が高いのか、それとも何か別の要因があるのか、とか考えちゃいますよね。実は僕、元々人間だったんですよ。ある研究で無理やり火命頭に改造させられたんです。ひどい話ですよね。今じゃあ、この体で生きていくことに慣れてしまって、死ぬまでこのままなんだろうなあ、とか思ってますけど。あ。今の嘘ですよ。本気にしちゃいましたか」

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