葉桜
最低。
最低。
最低。
私って本当に最低。
あの日から、もう5日経っている。
私は部屋から一歩も出ず、ずっとこうしている。
今は、朝の7時。下の階で、家族が準備している音が微かに聞こえる。
今日も、何もする気が起きない。
私は、あの日からずっと後悔している。
あの時、あの余計な一言を言わなければ、少しでも我慢ができていたら、恒星を思いやることができていたら。。。会いに行かなかったら。。。。
もっと素直に言えてたら。。いや、それは違うか。。
もっとちゃんと、いろんなことと向き合わなきゃいけなかったんだ。。
でも、もういい。
もう何もかも遅い。もう疲れた。どうせもう、元には戻らないもん。
私は、今までなんのために頑張ってきたの??
自分なりに頑張ったのに、誰も認めてくれない、助けてくれない。
私はいつからこんなに他人に依存するようになってしまったんだろう。。
もう何もしたくない。もし、これから誰か別の人を好きになっても、またこうやって別れて、こんなに辛い想いをしなきゃいけないんだったら、もう恋愛なんてしたくない。
恒星に出会えて、あんなに幸せだったのに。。失ってからその大切さに気づくなんて、私って本当に馬鹿。最低。
もう一度会いたい。
でも、会ってどうするの?
何を言うの?
もう一度考えなおしてって?
もし聞き入れてくれなかったら?
また冷たく突き離されてしまったら?
そう、何も言わなくても、何の理由がなくても会えていたのは、恋人同士だったから。
だったから。
もう違う。そりゃそうだよ。私から壊しちゃったんだもん。
痛い。また目尻のあたりが痛い。
視界が霞む。
ほっぺがくすぐったくなる。
布団に濃い点ができる。。
こんなの何回繰り返すの?
もう無理なのに。
あの日、私が我慢して部屋でこうして一人で泣いていたら、こんなに何度も泣かずに済んだのに。
恒星。
少し眠ったみたい。
頭が痛い。
息苦しい。。
恒星。あの時みたいに、私の頭を撫でてよ。
会いたい。。
あの腕、あの背中、あの横顔、あの匂い。。
今ははっきり思い出せる。。
でも、でもいつか。。
思い出せなくなってしまう。。
いやだ。そんなの。。
助けて、恒星。。恒星。。。恒星
初めてケンカになった、あの梅雨の日。何度もデートしたハーベスト。東京の水族館。何度も繋いだ右手。お揃いのストラップ。私の部屋。恒星の部屋。あの電気屋さんから見た夕日。告白された日のこと。涙。ぬくもり。肌の匂い。温度。
指輪。
お揃いの指輪。
綺麗で可愛い指輪。
ピンクのクロスに包まれた箱。
私の指につけてくれた時のこと。
全部。全部なくなってしまった。
助けて。
私はもう、なにを大切にしたらいいのかわからない。何を支えにしたらいいのかわからない。
悲しい。寂しい。会いたい。。
こうやって、頭の中を思い出が駆け巡っては悲しくなって涙が出て、苦しくなって、少し眠って、でも起きても恒星はいなくて、また悲しくなる。。
ずっと、こんなこと繰り返しているわけにもいかないよね。。
やっぱり。。もう一度連絡を。。
いや、やめよう。。
でも。。。このままなにもしなかったら、ずっとここであの日のことを考え続けることしかできない。。
せめて。。メールして、それから、電話でも。。
ベッドから飛び起きた。
この数日ほとんど動かなかったからか、足が絡れてバランスを失った。机に突っ伏すようにしてどうにか倒れずに済んだ。
携帯。あの日から一度も見ていない。。
震える手を抑えて開くと、新着メールの通知が出ていた。
8件?そんなに?
もしかして、恒星から。。??
メールを開いてみると、2通はメルマガ、4通は友達、残りの2通は。。
嘘。。。
詩乃君。。。?
なんで。。
恐る恐る開いてみる。日付は一昨日。
【この間は悪かった。学校、来てないのか?俺とのことが原因なら謝る。一度連絡をくれると嬉しい。】
ごめんね、心配してくれたのに。
でも、詩乃君とのことじゃないから。
もう一通を開いた。
【俺とのことじゃなさそうだな。なんでも話してくれ。いつでも真っ直ぐ受け止めてやる。吐き出すことを怖がらないでほしい。】
なんで?なんで優しくするの?
私、こんなに最低なのに。。
やめて。。。このままだと、頼ってしまう。。
いや。一人にしないで。。
誰か私と一緒にいて。。。
また涙が出る。
いや、もう出ていない。目が痛くなるだけ。。
助けて
誰か?誰でもいいの?
最低。。
もうわからない。
もういい。。
最低でもなんでもいい。。
助けて。。
詩乃君。。
「詩乃ー!いくぞ」
仲間に呼ばれた。
『あぁ、悪い。先行っててくれ。』
そう言ってみんなとは違う方に歩き出した。
もう授業どころではなくなった。。
急ごう。
駅に辿り着くと、電車に飛び乗った。
携帯を見ると、さっきのメールが開きっぱなしになっていた。
【会いたい】
の一言だけ。送信元は山本さぎりとなっている。
どう言う風の吹き回しだと思ったが、ただごとでは無さそうだ。
だいぶ上っていた息を整えて、返信を打つ。
【電車に乗った。今小山に向かってる。駅からどこに行けばいい?】
【駅の西口を出たら真っ直ぐきて。そこにいるから。ごめんね】
【わかった。気にするな】
俺も、会いたいから行くんだからな。
駅について歩き出すと、桜並木になっていた。
花は散ってしまっている。そうか、もうそんな季節か。
ここからは急ぐ必要もないので、ゆっくり歩いた。
葉桜の先で、さぎりが待っているのが見えた。
さて、行くか。
君との恋の物語-Obverse- 日月香葉 @novelpinker
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