第24話:白夜


「魔術師!?」


 ルミネの言葉を聞き、フィリが目を凝らす。

 しかし狭い路地裏は、巨体のバンダルのせいで視界が悪く、いくらフィリが探しても魔術師の姿は見当たらなかった。


「こいつをやっぱりどうにかしないと……」


 当たれば間違いなく致命傷になりそうな一撃を繰り出し続けるバンダリの猛攻をフィリは何とか防ぐものの、攻めあぐねていた。


「魔術師であればこっちの〝白夜〟を使えるのに!」


 フィリが歯噛みしながら、右手の紫色の短剣――〝白夜〟と名付けた――を隙を見付けては叩き込むが、異常な硬さの鎧に弾かれるばかりだ。


 ルミネも魔術を使いたいところだが、路地裏という場所がら、前にフィリがいると射線が取れず、使える魔術が限られていた。かといってフィリを下げると、バンダルの攻撃に無防備な自分を晒してしまう。


「僕にもっと破壊力があれば……」


 相手が下級の魔物であったり防具を装備していなければ、短剣も通るのだが、腐ってもAランク重戦士の鎧はあまりに硬かった。


 フィリは、カエデにも課題だと言われていた火力の問題に直面していた。普段なら、それを補ってくれるルミネがいるが、こういう状況では中々難しい。


 その時、側にいたレギナが鳴いた。


「コンコン!!」

「え? ルミネに魔術を撃ってもらえって? でも僕が下がったら……え? 下がるな? お前がその魔術を――だって!? ああ、そうか!」


 その意図が理解したフィリが叫ぶ。


「ルミネ! 一番火力のある魔術を――!!」

「な、何をとち狂ったことを言っているんですか!?  カエデさんの修行じゃあるまいしそんなことをしたっ……て……そうか、そういうことですね!!」


 ルミネは何度か修行と称して、カエデの指示でフィリに向かって魔術を撃ったことがあった。フィリはそれは必死に避けたり、右手の短剣で無効化していたりしたが……。


 ルミネは思い出したのだった。〝白夜〟の真の力を。


 フィリは確かこう言っていた――白夜は、――と。


「いきますよ!――【サンブレイズ】!」


 ルミネの杖の先から、紅蓮の炎球が放たれた。それは火属性の魔術を日属性で更に強化した魔術であり、火力だけで言えば彼女の魔術の中で最も高いものだった。

 

 炎球はまっすぐフィリへと向かっていく。


 それを遠巻きに見ていたとある人物は、やけくそになったなとほくそ笑んでいた。


 だが――


「魔術に――刃を合わせて!!」


 フィリは修行の成果か、ルミネの魔術の速度、軌道を完全に掴んでいた。炎球をギリギリで躱すと同時に――真横を通り過ぎるその魔術と重ねるように、白夜を振った。


 すると白夜の紫色の刀身が輝くと同時に炎球を吸収。その刃の色が白く輝き始めた。


「凄い……刃の中で魔力が増幅されています!」

「これなら――いける!!」


 フィリが白く輝く短剣を手に疾走。


「ウゴアア!!」


 バンダルの袈裟斬りをサイドステップで躱したフィリはその懐へと飛び込んだ。


「白夜――解放!!」


 刀身に込められ、増幅し解放されたルミネの魔術――【サンブレイズ】が斬撃となり、振られた白夜と共にバンダルを直撃。


「ウ……ガ? ウガアアアア!!」


 白光の斬撃はいとも容易く銀鎧を貫通し、バンダルの身体を切り裂いた。


 だが――


「なんで……生きてるの!?」


 ルミネが思わず叫んでしまった。なぜなら、バンダルの鎧はあまりの高熱に融解し、露出した胸板は切り裂かれていた。どう見ても心臓にまで傷が到達しているにもかかわらず、バンダルは立っており、雄叫びを上げていた。


「痛だいいいいい!! アアアア!!」


 バンダルは吼えると同時に大剣を地面へと突き刺した。


「うわっ!」


 その衝撃波は地面を砕きながら、近くにいたフィリはもとより、離れた位置にいたルミネまで届いていた。


「……逃げた?」


 衝撃波を必死に避けた二人が路地裏を再び見るも、そこには地面に突き刺さった大剣しか残っていなかった。


「……みたいです」

「どうして……バンダルさん」

「分かりませんが……すぐにギルドに報告に行きましょう」

「うん」


 二人が急いでその場を離れるが……その側にレギナはいなかった。

 

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