第25話:エルダの最期(side:FOX)


 どこかの路地裏。


「ありえない……何なのあの力!!」


 逃げるのに力を使い切り、地面に倒れて動かない瀕死の重戦士――バンダルを踏み付けながら女魔術師エルダが舌打ちをする。


「せっかく、禁薬まで使ったのに、負けるなんて、最後まであんたは愚図ね!  やっぱり私自ら行くべきだったわ……」


 エルダがそう言って、バンダルを蹴飛ばした。


 巨体のはずのバンダルの身体がまるで小石のように吹っ飛び、壁に激突。バンダルはその衝撃で絶命。すると、その肉がずぶずぶと溶解していき、残ったのは骨と鎧だけだった。


 腐臭が辺りに漂う。


「ああ……憎らしい!! フィリ……! フィリフィリフィリぃいいいいい!! あいつのせいだ!! あいつのせいで私は……!!」


 エルダはずっと探し続けていた。あの夜に襲ってきた恐ろしく強い狐獣人を。そしてその姿を追ううちに、なぜかその周囲に、フィリという名の冒険者がいたことに気付いた。


 そして唐突に思い出したのだった。


 かつてフィリが雑用として同じパーティにいたことを。それがどういう理屈で、どういう力かは分からないが、その記憶が飛んでいたのだ。


 そうすると――最初の襲撃、フィリが行きつけにしている商店、修練所。

 

 彼の周囲には何かしらの狐や狐獣人の目撃情報があり、怪しいと踏んだエルダが密かにその行動を監視していたのだ。結果――あの狐はどうやらフィリのスキルであると分かり、それを確かめるべくバンダルを向かわせたのだが……。


「ああ!! なんであいつはあんなに楽しそうなのに私は!!」


 エルダが吼えた。既にその姿は、理性を失いつつあった。


 だからこそ――その声を聞いた時。


 エルダは狂喜乱したのだった。


「――警告したよな? 二度とフィリに近付くな、手を出すなって。お前、もしかして馬鹿なのか?」


 その声と共に、夜空から降ってきたのは――狐耳に九尾を携えた美女だった。


「あははははは!! 馬鹿ね!! 本当に来るなんて!! 私知っているのよ!! 貴方の名前は――

「どこで……それを」

「教えてあげない。だって貴女はここで死ぬから!!――【アグニブレイズ】!!」


 エルダが杖を向けて魔術を放った。それはルミネが放ったのとは比にならないぐらい巨大かつ超高熱の火球だ。


「くだらねえ。そんなチンケな魔術はあたしには効かない!」


 狐耳の美女――レギナがアビリティによって肉体を得た姿――が魔力を込め、右手にカエデが持つ物とよく似た形の剣――刀を生成。


 更に、左手から魔術を発動。


「――〝狐騙し〟」


 目の前に迫る火球が一瞬で消滅。


「あはは!! なにそれ!? 凄いわ!!」


 嬉しそうに喜ぶエルダの目の前へと接近したレギナが無造作に刀を振った。


「痛い!! けど、それがたまらないわ!!」


 杖を腕ごと切断されたエルダがさけぶ。


 その狂った様子に、眉をひそめたレギナが水平に刀を振って、その首を切断した。


「あはははは!! 私を殺したところで何も変わらない!! ねえ、こんなところに居ていいの!? 愛しのフィリ君が――死ん」

 

 生首のまま喋ったエルダの首はしかし最後まで言い切る前に、レギナの魔術によって木っ端微塵に爆破した。


「……まさか」


 そこで、ようやくレギナは気付いた。【遊撃する牙】の重戦士がいて、魔術師がいたのに――


「フィリ!!」


 レギナが叫ぶと同時に、飛翔。


 奇しくも、その日は満月であり――その月と重なるようにレギナは空を駆けたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

スキル【守護霊獣】が過保護すぎる件 ~無能はいらないと追放されたら、何もしてないのに勝手にそのパーティが崩壊した。君は何もしてないよね守護霊獣さん?「もふ!? コンコン!(な、なんのことかな!?)~ 虎戸リア @kcmoon1125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ