第22話:その子は誰?
インティス郊外の農村。
「ルミネ、最後の三匹がそっちに行ったよ!」
フィリが羽の生えた巨大なアリのような姿の魔物――デビルアントにトドメを刺すと、後方に控えていたルミネへと声を上げた。
「はい! これで終わりです――【メリクリウス】!」
ルミネへと迫る三匹のデビルアントだったが、彼女が杖を振って魔術を発動。
本来なら反発するはずの金属性と水属性を組み合わせることで生成した、銀色の液体――水銀が蠢き、そしてまるで針のような触手を射出。デビルアント達の堅い甲殻をいとも簡単に貫き、その命を奪う。
しかし一匹は当たり所が良かったのか傷が浅く、緑色の血を流しながらも逃げようと羽を広げた。
「あ、逃げちゃう」
「大丈夫です。【メリクリウス】の真の力はここからですから」
飛行し、森へと逃げようとするデビルアントだったが突然、空中で羽の動きが止まり落下。
地面に激突し、身体が潰れる音が響いた。
「何が起こったの?」
「ふふふ……水銀は……毒ですから。あの攻撃を受けてしまった時点で、あいつらはもう終わりでした」
目論見通りとばかりに暗い笑みを浮かべるルミネを見て、フィリは彼女を怒らせることだけはしないように気を付けようと心に誓ったのだった。
「よし。これで依頼は終わり。Eランクのわりにはそんなに難しくなかったね」
「それはフィリさんが強すぎるからですよ。普通はEランクのパーティ総出で数匹をやっと倒すぐらいなんですから。それを一人で何匹も倒せるなんて反則です」
「あはは……それを言うならルミネの魔術もどんどん新しいのができてるね。初級魔術しか使ってないって本当なの?」
フィリの言葉に、ルミネがはにかみながら頷いた。
「はい……! ですが、組み合わせ次第で応用が利くので、今のところは問題なさそうです」
「凄いなあ。僕は相手が武器を持っていないと、斬ることしか出来ないからなあ」
「剣士は普通そうだと思いますよ。よほど良いスキルを持っていないと……ところでフィリさん」
ルミネは、パーティを組んでからここ最近ずっと疑問に思っていたことを、口にした。
「――
そう、ルミネが言った途端――フィリが彼女の方へと驚きの表情を向けたのだった。だが、レギナは今さらかとばかりにあくびをしている。
「え? え? まって。ルミネは……レギナのことが見えるの!?」
「コンコン」
「え、あ、はい。魔力を目に込めたらですが……」
「……初めてだ」
「え?」
「レギナが見える人は初めてだよ!! レギナはね、僕のスキルでね! 誰にも見えなくて、でも優しくて――」
手を握って嬉しそうに語り出すフィリに圧倒され、ルミネは頷く他なかった。
「でね! いつも慰めてくれて……」
「あの……フィリさん、その話はまたゆっくり聞きますので。それで、彼女は何者なんでしょうか?」
「えっと、守護霊獣? らしいんだけど。僕も良く分からない。物心ついた時からいたし」
「なるほど……スキルって沢山あるらしいんですけど、そういう自立型のスキルもあるんですね……えっと、今さらですが、レギナさん初めまして、私はアガニスのルミネです。フィリさんにはいつもお世話になっていて!……えっとだから今後ともよろしくお願いします?」
ルミネがぺこぺことレギナに向かって頭を下げるが、レギナは視線を一瞬ルミネへと向けて、コン、と一鳴きすると再び地面に寝そべってしまった。
「クールな方ですね……雌の狐でしょうか?」
「うん。レギナは優しいし、綺麗だし、素敵なんだよ」
「はい、分かります。なんというかこう、高貴なオーラが漂っていますね。しかしスキルということは、凄い力を持っているのでしょうか?」
「んー。分かんない」
にこりと笑ったフィリを見て、ルミネが引き攣った笑みを浮かべた。
「わ、分かんない?」
「うん。だって特別なにか出来たわけでもないし。あ、でも役立たずじゃないからね! いつも僕を支えてくれる大事な存在なんだ!」
「はい。それはもう嫌というほどに伝わっていますが……ふうむ」
ルミネが考え込むが、まあいいかと思考を放棄した。
「じゃあ、帰ろうか。帰ったら依頼達成の祝宴をしよう!」
「ふふふ……それ、好きですねフィリさん。毎回やってますもん」
「だって冒険者らしいでしょ!? 依頼終わりのビール!」
「はい。私も嫌いではないです」
こうして二人は、依頼を達成しインティスへと帰還したのだった。
だけど、彼らは気付いていなかった。レギナすら気付かないほどの遠方から二人を監視し、その会話を包み隠さず聞いていた存在がいたことを。
「――やっぱり、あのクソ狐は……
農村の遙か向こうの山中に――女魔術師エルダの怨嗟の声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます