第21話:破滅への誘い(ガルド視点)


 インティスの街外れ――


「おい、どけ。邪魔だ」


 冒険者のような格好をした青年が、酒場の前にたむろしていた男を睨み付けた。その格好はみすぼらしく、腰に差している剣も安物だ。


 だが、目だけはまるで野獣ように爛々らんらんと輝いている。


「あん? 誰だてめえ。俺が誰か分かってんのか? 俺は――ぎゃっ!」

「てめえこそ俺が誰か分かってんかクズが!! 俺はな!! Aランクのガルドだぞ!! くそが!!」

「や、やめ……ぎゃああ!」


 殴打される音が響く。


「ああ……クソ! 苛つくぜ!!」


 青年――ガルドの足下には男が気絶して倒れており、その拳にはべったりと血が付いていた。


 そんなガルドの背後から――声が掛かる。


「おやおや……随分と荒れているね」

「エルダか……お前だな、俺を呼び出したのは」


 ガルドが振り返った先――そこには全身に包帯を巻き、火傷の跡が痛々しい、安物のドレスを着たまるで娼婦のような格好の女がいた。

 

 彼女の名はエルダ。ガルドのパーティ【遊撃する牙】の魔術師を務めていた女であり、そして宿屋爆破事件を起こした張本人だとも言われていた。


 その美しかったはずの顔を火傷跡で醜く歪んでおり、ガルドも思わず目を逸らしてしまう。


「私が目覚めてから貴方、一度も見舞いに来なかったわね。醜女にはもう用無しってことかしら。Aランク剣士が、随分と落ちぶれたものね」


 そう自虐して笑うエルダを、ガルドが睨み付けた。


「黙れ! 元はと言えば全部お前のせいで!!」


 ガルドが激昂しエルダに斬りかかった。Aランクの剣士であるガルドの動きは未だ衰えておらず、魔術師でしかないエルダに、それを防ぐ方法はない――はずだった。



「くすくすくす……まだ動きは鈍っていなくて安心したわ」

「馬鹿な!?」


 しかしガルドの剣はあっけなく、エルダの片手によって止められてしまった。


 何だ? 何が起こった!? ガルドは混乱していた。スキルで筋力を強化しているにもかかわらず、エルダの細腕によって止められた剣がびくともしない。


「焦らないで、ガルド。久々の再会なんだから……一杯飲みましょ? 貴方も聞きたいはずよ。S


 

 もし、そこでガルドがエルダの誘いに乗らなければ。あるいは彼の運命は変わっていたかもしれない。


 だが金も名誉もなくした彼にとって――Sランクという言葉はあまりに魅力的すぎた。


 既に、彼に掛かっていた呪いめいた力は解けているのだが……結局彼には破滅する以外の運命はなかったのだった。

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