第14話 助けてくれてありがとうございました。
「私が生まれた国、つまり王都デレクトルでは、数百年に一度、異世界から英雄を呼び出していたそうです。そして英雄たちにスキルをもたらし、自分の国を守ってもらっていたそうです」
セレスさんが語ってくれる。
「しかし、何かを行うには、それに対する代償が必要になります。そのため、英雄にスキルをもたらす際には、王族の中から生贄となる人材を選出して、神にその身を捧げることになりました。それがあの子なのです。『捧げ姫』だとされたフィリスティアちゃん。私の妹です。とっても可愛くて、だけどあまり会うことのできなかった妹……。あの子は、城の別邸で隔離されるように過ごすことになっていましたから」
そう語るセレスさんの瞳には、まだ涙が残っていた。
それは後悔の涙と同時に、どこか眩しい涙だった。
「そして、私はあの子を城から出そうとしました。あの子を犠牲になんてしたくなかったからです。……無理でしたけど。それなら、私があの子の代わりに、と思って動きましたけど……それも無理でした。どうしても阻まれてしまいます。城の者たちに。父である国王に。そしてあの国の神とされる神に。……そんな時だったのです。私に語りかけてくださる存在がいました。それが呪神ロストルジア様です」
ロストルジア様というのは、俺も実際に会ったあの人だ。
死んだ俺をこうして蘇らせてくれて、加護をくれたあの人。
「ロストルジア様は私に道を示してくださいました。ロストの森に来なさい……、と。そこにいれば、フィリスティアちゃんを救うことができると。そして、来たのが、あなたでした」
そして、今に至るということみたいだった。
つまり彼女は妹の第四王女のフィリスティアさんを助けるために、この森にいたということだった。
この暗くて、腐っていて、呪いが蔓延している不気味な森に、一人でだ。
妹を救いたいという、ただその一心で。
それだけで、彼女がどれだけの覚悟を持っていたのかが伝わってくる。
「いつからこの森に」
「一年前からこの森にやってきておりました」
「……一年も」
「ええ。ロストルジア様が転移の魔法で、ここに送ってくださったのです。そこからは命懸けの日々でした。この森の魔物たちと、戦って、いつフィリスティアちゃんがこの森に来ても守れるように、力をつけていました。それは同時に、王族の責務を放棄することでもありました。だから、国の民たち、申し訳ございません……。私は王族失格です……」
懺悔するように手を組んで、申し訳なさそうにするフィリスティアさん。
王族には色々責任がついてくるのだろう。
妹のこと。そして王族としての責任。
そして彼女は今、この森でこうしている。
それが正しいことなのかは、彼女にしか分からない。
彼女の立ち位置もあるだろうし、それで大きく変わってくるはずだ。
少なくとも、今こうしてセレスさんが俺の目の前にいてくれたから、俺はさっき救われた。彼女のおかげで、俺は助けられたのだ。
「当時の私は、あろうことか呪神ロストルジア様を恨みました。どうせこの森に送り込んでくださるなら、フィリスティアちゃんがこの森に引き摺り込まれる直前にしてくれれば、一年もの間私はこの森で生死の境を巡らずには済むのに……と」
懺悔するように告白するセレスさん。
でも、そう思うのは、当たり前だとは思う。
「しかし、これもロストルジア様のお考えだったのでしょう。この森で過ごしていると、それがよく分かります。無力では、何もなすことができないのです。だから、力をつけるために、ロストルジア様は私をここに導いてくださったのです。実際に、先ほど、それを生かすことができました」
彼女は俺の手を握り、安心したように微笑んでくれる。
無力では何もなすことができないというのは、まさに今、俺が実感していることだ。
「私はもう王族ではありません。すでに死んだことになっているでしょう。だけど、それでも、この森で過ごした日々を、いずれ多くの人々を救うことに生かしていきたいとも思います。なにより、私は大切な妹を救ってくださったあなたとこうして会うことができました。改めてお礼を言わせてください。私の妹を救ってくださりありがとうございました」
俺の手を握ったまま、丁寧な口調でお礼を言ってくれるセレスさん。
俺も先程助けて貰ったことに対し、改めてお礼を言った。
妹思いのセレスさん。
この腐った森の中で、唯一輝いているもの。それが彼女なのだった。
* * * * * *
「では、これからのことを考えないといけません」
「はい」
お互いの事情を伝え合った後、俺たちはこれからのことについての話をすることにした。
「これからの私たちが目指すのは、この森を出ることです。この森には呪いの魔力が蔓延していますから、吸い込みすぎると死んでしまうことになります。……特に私が。シバサキさんは、ロスタルジア様の加護があるようですね」
「はい。だから、大丈夫だと思います」
呪いの魔力が、満ちている森。
だけど、呪いの加護がある限り、多分俺には効かないと思う。
「この森はロストの森。古から、立ち入り禁止の禁断の森と呼ばれている森です。そもそもが、呪いに満ちていますので、人が立ち入ったら死んでしまうのです。私は今のところは平気なのですが、一旦森の外に出て呪素を吐き出したほうが良いと、前にロストルジア様のお告げを受けたことがあります。……手伝ってくれますか?」
「もちろんです」
「あ、ありがとうございます……」
俺が頷くと、彼女が頬を赤く染めて、どこか照れたように身を捩った。
「少し、くすぐったい気持ちになってしまいました。人の優しさに触れるのも久しぶりで……。なにより、あなたと言葉を交わしていると、とっても落ち着きます……」
そう言う彼女は、恥ずかしそうにもしていた。
でも、俺も彼女に助けて貰ったんだ。さっき魔物から逃げたとき、彼女はずっと俺を抱えてくれていたんだ。
その分は返したい。それに森を出るという目的は、俺も同じだ。この森から出ないことには始まらないと思う。
「あなたがいてくれて心強いです」
「俺もーー」
……その時だった。
「「!」」
背後。
殺気を感じた。
俺たちは、咄嗟に横に飛んだ。その瞬間、俺たちのそばに勢いよく叩きつけられるものがあった。
尻尾だ。
『グルルルルルルルルルル……』
近くに現れたのは、見たことのある魔物の姿だった。
黒くて、ドロリとした舌のあいつだ。俺を食い殺したやつだ。さっきまで、俺たちを追いかけていたやつでもある。
どうやらここを、かぎつけられてしまったようだ。
「……見つかってしまいましたか。シバサキさん、ひとまずここで、この魔物は仕留めておきましょう。話はそれから改めて」
「分かりました」
「それで、こちらの戦力の確認です。あなたのレベルはいくつですか?」
「……0です」
「う、ええええええ!?」
すまん……、という気持ちで、俺はそう答えた。
しかし、俺は0だ。一度死んでロストルジアさんの加護をもらった際に、ステータスまで死んでいた。つまり、完全に無力だ。
セレスさんも、それは予想外だったのだろう。思わずこっちを二度見していて、少し焦ったように慌てていた。
『グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「……来ます」
ガキン、と彼女が敵の攻撃を防いだ。
そこに獣の咆哮が降りかかってきて、戦闘が始まるのだった。
【名前】紫裂しぐれ Level −0
【種族】人間(異世界人)
【スキル】ーー
【装備】
・武器 なし
・防具 なし
H P 1/1
M P ∞/∞
攻撃力 1/1
防御力 0/0
素早さ ー/ー
運 ー10000000
【呪神ロスト・ルジアの加護】
ロスト・ルジアの加護を受けし者。
命が呪われている。魂も呪われている。
呪いの神、ロスト・ルジアによって、あらゆる加護を吸収し、全てがロスト・ルジアの加護に染められる。
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