幼稚さを自覚し、苦悩し、努力を怠った。

白木兎

2021/05/20の日記

 楽しいことを想像してみろと言われて、頭の中にもわもわと流れていた映像は、一言で言って「家族」である。

 私のではない。

 どこかの、元気で純粋な少女と弟であろう可愛い少年が追いかけっこをする映像。

 優しい母親、真面目で仕事に一生懸命、時折全力で遊んでくれる父親。

 私の心は、いまだ幼いままにありもしない「あったかもしれない光景」を夢想し続けているのだろうか。

 そうだとすると、私はあの小さな少年だろうか。

 姉が欲しかったのだろうか?

 けれど友達と遊ぶ姿というものが、私には想像がつかなかった。

 本来の私は、小学校以来一人とも友人ができたことがない。アルバイトで一人だけ親しくしようとしてくれたあんちゃんがいたが、私はどうしても信頼できず、友好関係というのも構築されなかった。

 私はきっと、友達が欲しいのではない。

 家族が欲しいのだ。

 今の私には誰とも友好関係を築くことはかなわないだろう。結婚したくば、お見合いでもすることだ。中卒無職に嫁に来てくれる女性というものを、私は知らないが。

 私は、私が嫌いだ。

 将来、もしそんなとちくるった女性が私と一緒に生きてくれることになっても、決して自分の遺伝子だけは残さないと誓おう。誓いを破ることに定評のある私だが、これならばきっと守られることと思う。というより、破りようがない。

 誤解を恐れて言うが、子供が嫌いなわけではない。いつかは自分の子供を持ちたいと、いつも夢想していた。

 だが勘違いしてほしくないのが、それは理想の自分から生まれた子供であるということ。

 実際に私の子供が生まれてきたりなんかすれば、それはそれは恐れるだろう。

 自分の子供には自分の二の舞にはなってほしくない。

 私はきっと助けてやれない。

 息子は生き方で苦悩し、きっと私を、母を恨むだろう。

 なぜ生んだんだと。

 くそバカのくせに、自分の遺伝子を残してもいいと本気で思っていたのかと。

 私も思った。

 私の親に非があったわけではないのだろうと、うすうす感じながら。実際に言ってみたこともあった。後悔している。

 そのことが、私が生まれてきたことが間違いだったのだという裏付けに役立ってもいる。

 だから、私に子供を作るのは無理だ。

 どうしようもなく、怖い。


 チャップリンが言った。

「人生は怖がらなければ、素晴らしいものになる」

 大変結構。私も同意見である。感動もした。

 だが、できもしないことを「できれば」なんて言われて、空しくならないほうがおかしい。人では空を飛べないのと同じように、私も怖がることを辞められない。

 お酒でごまかそうとして、若いうちに脳を壊すのがオチである。

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