『①王野翔の実家』

 8月15日(日) 10:00~

 

 その日は電車に乗り、俺の実家に向かっていた。

 

「翔君のお母さんに会うの久しぶりです」


 隣に座っている姫香がワクワクとしていた。 


「私のこと覚えているでしょか?」

「この前電話した時、覚えてるって言ってたぞ」

「本当ですか!?」

「うん」

「嬉しいです!」


 電車が到着し、俺たちはバスに乗り換えた。

 実家までは最寄駅から歩いていくには少し遠い。

 だから、こうしてバスに乗って行く。

 20分ほどバスに揺られ実家に到着した。

 呼び鈴を鳴らし、お母さんが出てくるのを待った。


「はいはい~。今行く~」


 インターフォンから陽気な声が聞こえてきた。

 この感じはもしや……。


「おかえりなさい~!翔~!」


 玄関が開いて顔を見せたお母さんの頬はほんのりと赤くなっていた。

 それはまるでお酒を気持ちよく飲んでいる人のようだった。

 というか、絶対に飲んでる。


「あれ?翔の隣に可愛い子が……あー!もしかして、姫香ちゃん!?」

 

 酔ったお母さんは姫香のことを見て、大きな声を上げた。

 そして、千鳥足で姫香に近づいていき、「久しぶりね~!」と抱き着いた。


「え、あの、お母様?」


 そんなお母さんの急な行動に困惑する姫香は俺の方を見てきて助けを求めた。


「姫香ちゃん、本当に久しぶりね~!元気にしてた?」

「あ、はい。元気でした……」


 なおも困惑中の姫香。

 さすがに助け舟を出すか。


「お母さん。姫香が困ってるから。とりあえず、離れてあげて」

「え~。離れたくない~」

「子供か!」

 

 俺は無理やり、姫香からお母さんを引き離した。

 お母さんは不満そうな顔をしていたが、再び姫香に抱き着くことはなかった。


「てか、朝から酔っぱらってんなよな」

「いいじゃない。お盆休みなんだから、朝からお酒飲んでもいいでしょ!」

「飲んでもいいけど、姫香に迷惑をかけるなよ」

「さっきから、気になってたんだけど、2人は恋人同士なの?」

「そう、だけど……」

「はい……」


 俺たちが肯定するとお母さんはニヤニヤと笑って、交互に顔を見比べた。


「な、なんだよ!?」

「何でもない~!ほら、上がった上がって!」


 終始上機嫌なお母さんに背中を押されながら俺たちは家の中に入った。


「悪いな。酔っぱらいの相手をさせて」

「いえ、大丈夫ですよ。私も翔君のお母さんに会えて懐かしい気持ちになりましたから」

「めんどくさかったら、バシッと言ってやってもいいからな」

        

 俺がそう言うと、姫香は苦笑いを浮かべて「分かりました」と頷いた。

 

「お母さん。お昼からお墓参りに行きたいんだけど、線香とかあるよな?」

「あるわよ~。準備しておいてあげるから。2人は手を洗ってらっしゃい」

「了解」

「分かりました」

 

 俺たちは洗面台に向かって手洗いとうがいをしっかりとした。

 洗面台からリビングに向かう間、姫香はずっとキョロキョロとしていた。

 

「どうした?」

「久しぶりの翔君の家で、少し感動を……」

「そっか、十数年ぶりだもな」

「はい……」


 姫香は本当に感動しているらしく、その声は少し震えていた。

 そんな姫香と共にリビングに入った。

 

☆☆☆

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