異世界転生が人気だそうですが、現地人から見たら。

甘味屋(あまみや)

第1話

……この世界には、異世界転生という『文化』が根付いている。

異世界転生というのはアレだ。「トラックに撥ねられて死んだら、神様に呼ばれた」とか、「チート能力貰って転生先の世界で無双する」とかそういう奴だ。


現在。この街の教会で、何度目か分からない『異世界転生』の儀式が行われている。

この世界への転生は、神がある基準で認めた者が送られて来る手筈になっている、らしい。

細かい話は神官や国のお偉いさんが知っているだろうが、自分が知っておく分にはこれで良い。


「おーい?お前は見てかねぇのかよ、『異世界転生』の儀式!」

「今回はどんな娘が来るかね〜?」

子綺麗な鎧姿の男が話しかける。

それに対して、盗賊道具を身につけマントを羽織った男がため息一つ付いて

「……それで前回来たのが全員男だったって、肩落として帰って来たのは何処のどいつだ?」

「う”っ」

「い、良いじゃねぇかよ!そういうのに夢くらい見たってよぉ!」

それに対してもため息一つ付いてから、

「……良いか、異世界転生者ああいう奴らは、俺やお前みたいな男じゃなくって、女を好むんだよ。」

そう言って鎧を小突く。

「おいおい、お前も冒険者だろ?冒険者が夢を持たなくってどうするかってんだ!」

「俺は日銭を稼いで安定した暮らしが出来る様になれば結構ですー」

……俺には、そういった華々しい生活が出来るとは思わない。

そういった生活は、それこそ天から力を授かった転生者が掻っ攫って行くのが定石なのだ。

「欲が小さいなぁ、アランは」

「オメーの欲がデカイだけだろ、ドーマン。」

さて、紹介しておこう。

そこの子綺麗な鎧を着た奴、ソイツが「ドーマン」。

そんでフード付きのマントに盗賊の装備を付けてる奴、それが俺こと「アラン」だ。

「仮にもシーフなんだろ?そういう宝や出会いや女だって、掻っ攫ってくモンじゃ無いのかよ?」

「生憎、掻っ攫う宝も女も全部取られてるモンでね。」

「……。」

ドーマンは、少しむすっとした表情をしてから、そうだといった感じで

「お前、やっぱり今日の儀式見てけよ」

「いや、俺は別に……っておい!引っ張るな!」

 ドーマンが俺を引っ張って、教会の中へと引きずって行く。

「お前はチャレンジ精神が足りないんだよ、こないだのギャンブルだって、更に賭けてりゃでっけぇ1軒家が買える額が入ってた、ってのに引き際が早えし」

「それで逆に身を滅ぼしたら意味ないだろ……?」

「……冒険者ってのはな、アラン。未知の領域を開拓していって初めて冒険者って呼ばれると、俺は思うんだ。」

「……未知の領域の、開拓。」

「お前に足りないのは未知の領域の開拓!そしてこれは、良い女と出会う為の第一歩だ!」

「本音が丸見えじゃねぇかバカ野郎!!!!!」

そう叫びつつも引きずられて行くのであった。


……まぁ、そういった事があるのがこの世界だ。

迷宮に入って宝を漁り、帰って安いエールを飲んで、少しギャンブルに興じたら、宿のベッドで眠りに着く。

それがここのいつもの光景。俺のよくある日常のパターンだ。


しかし、そのよくある日常は、これからの出会いで少しずつ変わって行く事となる。

そしてもう一つ。




───これは、あくまで『異世界に転生した者』の目線で無く。

この世界に『元から住まう者』の、目線の話だ。

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異世界転生が人気だそうですが、現地人から見たら。 甘味屋(あまみや) @amamiya_XX

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