あほあろ


これは、中国の唐の時代に、郎義、蒼陳、寂舎という役職があったという仮定のもと書かれた文章である。


猹を追う、郎義の、顔面が歪む。

「ぅうぅう」

風が流鏑馬を纏って、痛いのだ。そして、その後ろを、幻想が通り抜ける。

「、!!!!!!!」

なんか、気持ち悪いこちらの音を立てた、中国の郎義たちが、一斉に目を摘出した幻影だ。郎義のタケルは、見ないように目を逸らした。


郎義たちは、いつも三人一組だった。

龙は、その三人の郎義をまとめる係だった。拿は力自慢だった。タケルは遣隋使として派遣されたが、酒盛りに酔い潰れ、気がついたら帰りの船を逃し、文化のある唐に残る決意をしたが、時代の流れは早く、あっという間に唐が始まった。歴史は気持ち悪い。

「何をサボっているんだ?やり直すんだ」

蒼陳の晃伟が、タケルを殴りつける。頰に鈍い痛みがジンジンと伝わってくる。しかし、屈服するしかなかった。今の彼は、皇帝のために労働するほかないのだ。

蒼陳の人々は生まれた時点でエリートコースが確定している家ぐるみで優秀な奴らだ。しかし彼らの目は虚ろで、甚振るのを楽しむ素振りはない。彼らにとってはその全てが義務であり、タケルにとってその自由がない様子が堪らなく不憫だった。しかし、いくら義務とはいえ、自分を殴る存在を憐憫で包容する心の余裕は彼にはなかった。


タケルと龙は街中を、僅かな金を持ち闊歩する。拿は、彼の暮らす小屋で資材を見張っている。

「ん?あれは」

龙が指差す先には、寂舎の人々が蹲っていた。

彼らのカーストは最低だった。誰も彼らを尊敬せず、掃き溜めに溜まった埃のように扱われた。一方で、彼らには自由があった。蒼陳のように憎まれ役として使役されたり、郎義のように毎日を殴打で埋め尽くされたりはしなかった。タケルは彼らに宝石を見た。彼らの自由は、他に代え難い奇妙で貴重な何かがあったのだ。

しかし、龙は哀愍を分けることをしなかった。彼にとって、敷かれたレールを走り続けるのが最も楽であり、たとえ自由でも、社会の鎖は重たいと信じていたからだ。なんなら、彼の住む唐を汚衊する連中と呼ばれることは、国に居場所がないことを示し、それは彼にとって耐え難い負荷を与えたのだ。

そして同時に彼は知っていたのだ。

自由とは、時に無法となることを。


事態が起こったのはその夜だった。

遠くで、野火の音がする。

「なんだろう。焚き火かな?」

タケルは駆け寄った。

「うそ……だろ??」

轟々と燃え盛る焔、そして、灰、灰、灰、灰を被った肺、黒い骨、融け落ちた皮膚。それは拿だった。

誰が…?誰がやった??

「寂舎の奴らだ」

「なんだって?彼らは唐の爪弾きに遭っているが、彼らは、彼らは自由がある、俺たちを…」

「俺たちは宮廷に仕えている、資材の豊富さが仇になったな」

謇諤されてものも言えない。


許さない。

タケルは亡骸を抱え泣きながらそう誓った。


自由は、時に途轍もない暴走を引き起こし、それはいついかなる状況をも破壊へと導く。自由は、「绝对自由去做任何事情」ではない。「负责任的决定,以指导自己纪律」なのだ。そう、孔子が言ったそうだよ。



     中国歴史学者 架 叮报(Cang Tingham)




(作中の中国語、中国名はほぼ出鱈目)

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ジブラルタル冬休み @gib_fuyu

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